三枝成彰氏が批判「安倍政権は教養のなさを反省すべき」

「経済政策の破綻は隠しようがない」と三枝氏(C)日刊ゲンダイ
「経済政策の破綻は隠しようがない」と三枝氏(C)日刊ゲンダイ

 夏の参院選の前哨戦となる衆院2補選が告示された。注目は野党が統一候補を擁立した北海道5区。野党が勝利すれば、アンチ安倍は大きなうねりとなるだろう。参院選の野党共闘にも勢いがつき、戦争法廃止が射程に入ってくる。これは教養ある知識人の多くが望んでいることだ。民主主義と自由、平和を守るため、仲間の文化人たちと声を上げ続けている作曲家・三枝成彰さんも、そのひとりである。

――いよいよ衆院補選が告示されました。

北海道5区は与党が負けるんでしょうね。衆参ダブルもやれないと思いますよ。議席が減るのは明らかですから。安倍政権は、どんなに頑張ったって、あと1年も持たないでしょうね。株価は1万円台でジリジリと値を下げ、円高も進行しています。輸出産業はバタバタと赤字を計上しますよ。経済政策の破綻は隠しようがありません。潮目は変わったんです。自民党寄りだった週刊文春も寝返りましたね。先週号は安倍内閣の悪い人たちを列挙し、丸々安倍批判を展開した。このまま安倍さんに付いていったら読者が離れると危惧したんでしょう。そうか、これは編集方針が変わったな、終末が近いと読んで反安倍に転じたな、と感じましたね。

――そうなると憲法違反の安保法廃止も現実味を帯びてきます。

実は、安保法制に関しては、それほど心配していないんです。英国軍のように、どこまでも米軍に協力するような形になると恐ろしいですが、あくまでも片務協定で、両務協定の軍事協定とは違いますからね。分かりやすく言うと、戦後の日本は米国の妾だったんです。でも、本家が今になって「もう面倒を見られなくなったから、独立して店でも出してくれ」と言ってきたのに近い。捨てられた妾は自立するしかないんです。ただ、自衛隊が外に出て戦うのは許されないし、専守防衛は当たり前です。

■21世紀に他国を占領したのはプーチンだけ

――安倍政権は日本周辺の変化も、安保法制の口実にしています。

21世紀になって他国を奪って占領したのは、プーチン大統領のロシアだけですよ。もっとも、あれはやらざるを得なかった。理解するつもりはありませんが、理由は分かります。ウクライナの先端には、セバストポリというロシア最大の軍港があるんですからね。もっとも、あそこからはトルコを抜けないと外へは出られません。黒海の中だけしか泳げない海軍を守ることにどんな意味があるのか疑わしいですが、手放すことはできないのでしょう。この時代に他国への侵略は起こらない。中国だって、あまりむちゃなことはできないでしょう。それに自衛隊の力からすれば、たとえ戦火を交えたとしても、最初の5日間で中国のあらゆる軍艦をつぶせますね。それぐらい戦力が違います。問題は、一艘の漁船に300人ぐらい乗ってきて、総勢50万~100万人が押し寄せたとき、これを撃てるかってこと。中国には軍艦と漁船の区別がつかないものがいっぱいあるんですから。世界中が見守る中、大漁船団という形で来られたら、軍人か民間人かも分からない相手をやみくもに撃てませんよね。周辺に危機があるというのなら、もっとリアリティーを持って戦略を練らないとダメです。

――21世紀は、前世紀と違うという時代認識が必要ですね。

安倍首相は、その感覚が欠如しています。懐古主義的で、戦前のような古い思考回路しか持っていない。戦争の悲惨さを知らず、粉飾歴史を習うだけで自ら勉強もしなかったから、教養がないのでしょう。そこがこの政権の危うさにつながっています。たとえば、欧州や中東で頻発するテロの脅威に対し、「屈しない」と強弁しています。それは当然のことだし、テロは悪いに決まっていますが、一方で、テロがなければ明治政府だって誕生していません。フランスの共和国も、ソビエトの共産革命もそう。人類の歴史を振り返ると、暴力革命以外に政治体制を変えられなかった時代があるのです。米国の独立戦争だって、英国に反抗したテロですよ。かつては日本もテロ国家だった。だから、「そういう過去を恥じますが、テロは前世紀の遺物であり、今は絶対に許されない」と言えば、「知性がある首相だなあ~」と思われるんですけどね。

歴史を勉強して見極める教養が必要

――今の自民党には南京大虐殺を「なかった」と強弁する人たちもいます。都合が悪い過去をすべて隠そうと必死に見えます。

中国で戦っていた軍人たちは、「揚子江デ7000人銃殺ス」「2万人近ク銃殺」などと書かれた日記や手紙を残しています。中国が主張する30万人はオーバーだけど、防衛省も11万人と認めていますよ。当時は自分の兵隊を食わせることもできなかったんだから、捕虜を食わせられるわけがない。それで現場は「処理セヨ」と命じられ、殺したんです。記録としても残っているし、資料を読んで勉強すればわかること。日本人が悪いとか何とかじゃなく、これが戦争の現実なんですよ。従軍慰安婦の問題に関しても認めようとしませんが、似たような例は世界中にあったんです。「ヒステリックな韓国人が一方的に言っているだけ」で済ませる教養のなさを反省してほしいですね。

戦前の日本が進んだ道は、当時としては誤りではなかったかもしれない。正義だったかもしれない。でも、正義だったことが悪にもなり、悪が正義にもなる。実際に戦前は善だったことが戦後、悪になったんです。それがまた最近になって「善だった」といわんばかりになっている。それが本当かどうか、歴史を勉強して見極める教養が必要なんですよ。

■世界のすべては自由へと向かっている

――安倍政権は報道にも横ヤリを入れています。気に食わない放送をしたテレビ局に圧力をかけ、担当者を呼び出した。国会議員からは「懲らしめろ」なんて声も出ています。時代錯誤も甚だしいですね。

安倍政権の一番の問題はそこですね。報道管制を敷いていることです。2000年前に「男女同権」「貧しい人こそ救われる」と唱えたイエス・キリストの民主主義的な思想は20世紀に具現化され、世界のすべては自由へと向かっています。たとえば今は同性婚も認めるような流れになってきた。米国で許されていないのは複数婚ぐらいという声もあります。最近はポリアモリー(複数恋愛)という考え方も生まれていて、付き合う相手を1人に限定しないスタイルも広まってきた。民主主義は、川下に流れるに従って幅が広がり、摩擦も起こします。でも、その流れには逆らえない。さかのぼらせよう、逆流させようというのはどだい無理な話。小さなさざなみは起こったとしても、自由への大きな流れは変えようがないのです。

――三枝さんはテレビ番組のキャスターも務められてきました。当時は自由がありましたか。

今とは全然違いますね。言いたいことを100%言っていました。一度だけ、局のスタッフに「勘弁してください」とお願いされたのは、当時絶頂期にあった女性歌手の給料を明かしたときだけです。かなり安いという実態を生放送で話したら、終わった後に飛んできました。でも、芸能界のことに関して制限を受けることはあっても、政治的な発言に関しては野放し。不当な圧力もまったくありませんでした。

――この4月から、安倍政権に批判的なキャスターはニュース番組から一掃されました。テレビ報道は、かなり危機的な状況に映ります。

テレビ報道は最低ですね。NHKはニュースが偏向しているし、安保法制の大事な国会審議を中継しなかった。民放は右寄りの「8」と「4」のニュースは絶対に見なかったけど、最近は「5」と「6」も見なくなり、頑張っていて面白い「9」しか見ていません。権力に最も抵抗しなければならないのは報道なんです。そこが崩れたら、この国は終わりです。自由な発言ができなくなったとしたら、日本は未開の国と同じになる。21世紀の国家ではなくなるんですよ。

▽さえぐさ・しげあき 1942年、兵庫県生まれ。東京芸大音楽学部作曲科卒。オラトリオ「ヤマトタケル」、オペラ「忠臣蔵」など多数の作品を手掛ける。NHK大河ドラマ「太平記」「花の乱」や映画「優駿ORACION」などの音楽も担当。反戦のメッセージを込めたオペラ「Jrバタフライ」で、「2008年プッチーニ国際賞」を受賞した。「立憲政治を取り戻す国民運動委員会」の代表世話人も務める。

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