望月衣塑子「武器輸出と日本企業」 布施祐仁「経済的徴兵制」
安倍晋三政権は2014年4月、「武器輸出三原則」を全面的に見直し、
武器の輸出を容認する「防衛装備移転三原則」を閣議決定した。
防衛省の外局として15年10月に発足した防衛装備庁を旗ふり役に、
官民あげての武器輸出が本格的に始まろうとしている。
その現場を望月衣塑子「武器輸出と日本企業」(角川新書・864円)
がリポートしている。
武器市場の獲得に向け、日本が目指すのは米国式の「軍産複合体」だという。
軍事と企業や大学、研究機関が密接に結び付きながら、武器輸出を進める。
新聞記者の筆者は防衛省、三菱重工業や傘下の中小企業を含む防衛産業、
大学の研究者など関係者に取材している。
新たな「国策」に戸惑う企業人や研究者の声を拾っているが、
印象深いのは「先輩」の欧米防衛企業幹部の証言だ。
一番もうかる「ミサイルと弾丸」を日本企業が売るといえば、
戦争状態にある中東諸国は喜んで買うだろう。
だが、日本の世論は許さないだろう。
そう指摘したうえで、欧米企業幹部は忠告する。
「でも武器輸出でいいとこどりはいずれできなくなりますよ」
いったん経済の原理に放り込まれると、当事者の思惑を超えて、
事態は展開していく。
国策として武器輸出を振興すれば、「国柄」は確実に変わる。
国民はどこまで認識できているだろうか。
筆者の自問はそのまま問題の提起になっている。
布施祐仁「経済的徴兵制」(集英社新書・821円)
も「戦争と経済」をめぐるリポートだ。
完全志願制の米国では、若者が奨学金や医療保険などの
「特典」に引かれて兵隊を志願するケースが多い。
貧しい若者が戦地に赴くわけだ。
本書は自衛隊入隊者の経済状態などを考察し、日本も
「経済的徴兵制」と無縁でいられないのではないかと警告を発している。
(佐々木実 ジャーナリスト)
MLホームページ: http://www.freeml.com/uniting-peace