メーリングリストの皆様、
インディペンデントな立場で核兵器の軍事的な側面について研究を重ねております大滝と申します。
NATOにおける「核共有」(Nuclear Sharing)の一翼を担う国にドイツがあることは周知の事実です。
ドイツ空軍(Luftwaffe)の運用するトルネード多目的戦術戦闘機が米国のB61戦術核爆弾を携行し、仮想敵国ロシアを牽制しています。ルクセンブルグに近いブッヒェル空軍基地に米国戦術核が20発程度貯蔵されていることが明らかになっています。
近年B61戦術核が最新のモデル12(B61-12)に更新されるのに伴い、トルネード戦闘機も耐用年数を延長すべきかを連邦議会(Bubdestag)は論じています。
英独伊共同開発の最新鋭戦闘機ユーロファイターにはB61-12を装備させるための開発計画が今のところ無いようなので、トルネード耐用年数延長後の「後継機」については見通せません。連邦政府高官の間に燻る、米国戦術核撤去論とあわせて考えてみますと、米国の戦術核兵器のプレゼンスがドイツの場合どうなるのか注視に値すると思います。
さて、旧西独が米国核兵器を自国内に配備させたのはおよそ50年以上以前に遡りますが、米国戦術核のドイツ配備の問題を歴史的に回顧して、近未来を凝視する研究者にAndreas Lutsch氏がいます。氏の論文がオンラインでアクセスできますので以下にURLを紹介しておきます。
冷戦国際史研究プロジェクトへの2015年5月のポストです。
https://www.wilsoncenter.org/publication/the-persistent-legacy-germanys-place-the-nuclear-order
The Persistent Legacy:
Germany’s Place in the Nuclear Order
Despite its legal status, Germany has never been an ordinary non-nuclear weapons state. In NPIHP Working Paper #5, Andreas Lutsch explores the historical dimensions of Germany’s ambiguous position in the global nuclear order and re-examines Germany’s efforts to revise its NATO role as a host for US nuclear weapons.
– See more at: https://www.wilsoncenter.org/publication/the-persistent-legacy-germanys-place-the-nuclear-order#sthash.44Kb69uw.dpuf
これを一読すると、上記問題への研究史的な回顧を一望できます。多くの文献が(英語で読める)紹介されて解題されています。
その他に冷戦国際史研究プロジェクトでは、Lutsch氏の研究発表を2016年にホスティングしたようです。
https://www.wilsoncenter.org/event/nuclear-illusions-and-protectorate-reality
また、Journal of Strategic Studiesの最新号には拡大核抑止についての研究論文の特集がなされており、Lutsch氏の寄稿も掲載されています。
https://www.wilsoncenter.org/article/reappraising-extended-deterrence
Merely ‘Docile Self-Deception’? German Experiences with Nuclear Consultation in NATO
Andreas Lutsch
Pages: 535-558 | DOI: 10.1080/01402390.2016.1168014
長文となり失礼をいたしました。日本の反核コミュニティで、同様の関心のある方のご参考になれば望外の幸せです。
大滝正明/インディペンデントアクティビスト