新潟県知事選が告示された。原子力規制委員会による東京電力柏崎刈羽原発の安全審査が終盤を迎えるなか、再稼働に慎重だった現職の泉田裕彦氏が立候補を見送った。新知事は再稼働に同意するのか、判断を求められることになる。

無所属の新顔4人が立候補した。自民、公明推薦で前長岡市長の森民夫氏と、共産、社民、生活推薦で医師の米山隆一氏の全面対決の様相になっている。

柏崎刈羽原発の30キロ圏には約46万人が住む。住民の安全をどう確保していくか。投開票の16日にむけ、各候補は対策を具体的に語ってもらいたい。

事故時に住民をスムーズに避難させる防災対策は、原発の安全上の「最後の壁」とされる。立地自治体トップの知事に課せられる責務は極めて重い。

泉田氏は「東電福島第一原発事故の検証と総括なしに、再稼働を議論しない」とし、有識者委員会で独自検証を続けてきた。住民避難計画が新規制基準に含まれていない点も問題視し、国に改善を求めてきた。

柏崎刈羽原発では02年に東電のトラブル隠しが発覚し、07年の中越沖地震では火災と微量の放射能漏れが起きた。原発と東電への県民の不安と不信は根強い。泉田氏はこれを踏まえ、問題提起を続けてきたといえる。

今回の選挙で、米山氏は「泉田路線を継承し、福島事故の検証がなされない限り、再稼働の議論は始めない」と主張する。泉田氏の政治手法に批判的だった森氏は「県民の安全最優先で、規制委の結論が出れば厳しく検証する」と一線を画す。

有権者の判断のポイントになってきそうだ。

知事が持つ原発再稼働への「同意権」は、電力事業者との安全協定に由来した慣例的な権限で、法的なものではない。

7月に就任した鹿児島県の三反園訓知事が九州電力川内原発の運転停止を要請した際、「国のエネルギー政策を揺るがすべきではない」との批判が上がったが、この批判はおかしい。事故で最も影響を受けるのは立地地域だ。住民の不安を軽減するため、自治体は事業者と交渉を重ね、安全対策に関与するしくみと権限を獲得してきた。

福島の事故で、住民の不安はさらに強まった。自治体トップが、安全確保を事業者と国任せにしないのはむしろ当然だ。

新潟県は東電の供給区域ではないのに、首都圏に送電する原発のリスクを負ってきた。知事選は、国の政策に直結する選択となる。全国的な視野に立った論戦を期待したい。