Global Ethics


「原則に固執せず、既成事実に弱いというのが日本人の特徴である」 by limitlesslife
October 6, 2016, 10:46 pm
Filed under: 日本人
(書評より)いまの日本にとって、必要な考察と勇気を与えてくれる一冊。

冒頭で「ポジティブ・フィードバック」という視点を提案されている点がまずおもしろ
かったです。
「ポジティブ・フィードバック」とは、何かが一旦作動を始めると、想像もできなかっ
たような爆発的な結果を引き起こす循環のことである(小さな原因から小さな結果が、
大きな原因から大きな結果が生まれるような、線形の因果関係ではない)、と説明され
ています。この「ポジティブ・フィードバック」が悪い方に働くと「暴走」です。暴走
を止めるには、「ポジティブ・フィードバック」のループの要素と流れを理解し、その
一つを切断すればよいという説明に非常に納得しました。「ポジティブ・フィードバッ
ク」が起きた場合と起きなかった場合の例証として、満洲と華北のコミュニケーション
・パターンの違いが、満州事変と日中戦争の成り行きの違いに影響したという考察の部
分がとても興味深かったです。

「『現実主義』という妄想」という項(p.198)では、現在日本が直面している多数の
大問題と、満洲国成立から崩壊の中で生まれた悲劇との、構造的類似性が鋭く指摘され
ており大変示唆的です。それは、何か問題がある場合には、「問題を解決する」か「問
題があるのだからやめておく」のが本来の現実的な選択であるにもかかわらず、どちら
も選択せず、事態を泥沼化させ、弱者に悲劇的なしわ寄せがいく、という構造です。そ
して、本来の現実的な選択肢のどちらも選ばれない理由は、関係者の「立場」を脅かさ
ないためというものです。
卑近な例や原発事故の例で説明されています。

結婚生活がギクシャクしてきたら、本来選択肢は2つしかない。
・相互に理解し合うまで、とことん話し合い、ぶつかり合って、本当の夫婦になる
・離婚する
しかし「現実主義者」は、この2つの道のどちらも選ばず、家庭の最も弱いメンバーで
ある子どもがひどい目にあう。

原発は事故が起きれば大変なことになるのはわかっているのだから、
・原発など諦める
・事故が起きたときには納得の行く補償などがなされるよう前もって決めておく
しかないが、これらの選択肢はどちらも「非現実的」とされ実行されなかった。原発事
業を推進してきた強者は誰一人責任をとらず、弱者だけが被害を被っている。

エピローグでは、悪い「ポジティブ・フィードバック」、暴力的な暴走が起きないよう
にするために、一人ひとりができることが提案されています。教科書に載るような偉人
ではなく、我々一人ひとりができることです。いま日本がふたたび暴走しつつあるなか
で、必要な考察と勇気を与えてくれる一冊です。

「満洲暴走 隠された構造」 大豆・満鉄・総力戦

=====

(書評より)「満洲」の成立からその破綻までを社会生態学の視点から捉え直したユニ
ークな本

著者には、『生きるための経済学-<選択の自由>からの脱却』(NHKブックス、2008
年刊)や『経済学の船出-創発の海へ』(NTT出版、2010年刊)において、既存の市場
経済学の基本原理を徹底的に批判し、「社会生態学」としての経済学を提唱している。
また、この立場での経済学のフィールド研究成果である、安冨歩・深尾葉子編『「満洲
」の成立』(名古屋大学出版会、2009年刊)を発表している。東日本大震災に伴う東電
福島第一原発事故後には、『原発危機と「東大話法」』(明石書店、2012年刊)を発表
し、「立場主義」に呪縛された知的エリートたちが原発事故をもたらしたことを告発し
た。本書は、前記の『「満洲」の成立』の内容を紹介しながら、「満洲」の成立からそ
の破綻までを社会生態学の視点で分かり易く辿り、「立場主義」なるものが満洲の暴走
とそれを端緒にした日本の破滅に深く繋がっていることを説いたものである。戦前の植
民地に対する経済学的分析は非常に少ない。本書は、異色の経済学者によるユニークな
分析として興味深い本である。

日露戦争(1904-1905年)後、ロシアから譲り受けた関東州と満鉄がそもそも「満洲」
成立の発端である。これが政治経済的空間として発展していく要素のうち最も重要なも
のとして著者は、(1)鉄道建設(満鉄の延長・支線建設)、(2)馬車の活躍(モンゴル馬
と豊富な木材資源の活用)、(3)県城経済(地域の中心地である県城への経済活動の集
中)、の3点を挙げる。鉄道が果たした大きな役割、馬車を活用した経済が鉄道の経営
に好影響を与えたこと、満洲の地域経済が県城に集中しているのに対して華北は県城だ
けでなく定期市や村が複雑なネットワークを構成していて全く性格が異なること、など
の指摘が興味深い。

この「満洲」が日本により半植民地化され「満洲国」となった。日中戦争突入から最終
的には敗北するに至る「暴走」の要因として著者は、次の3点を挙げる。(1)大豆の国際
商品化(巨大な富を生み出す商品として日本は膨大な開拓民を送りこむ)、(2)総力戦
への対応(国力に見合わない総力戦に備えた、軍部による傀儡国家樹立)、(3)立場主
義(一旦既成事実が出来上がると、誰もそれに異議を唱えない組織風土)。これらの要
素が暴走システムを構成して、一旦走り始めると破滅するまで止まらない仕組みを作り
上げてしまったのである。この「暴走システム」は、戦後も原発事故や無駄な公共事業
など、大小の例に事欠かない。

本書で印象に残ったのは、著者の師匠である森嶋通夫氏(故人・経済学者)が生前繰り
返していたという次の言葉(本書p.92)である。
「原則に固執せず、既成事実に弱いというのが日本人の特徴である」
「日本人は原則に固執する人を毛嫌いする。これが先の戦争を引き起こした大きな原因
である」

この森嶋氏の指摘は、著者のかねてからの持論である「立場主義」とほとんど同じであ
ろう。現在、日本が当面している様々の政治・経済・社会の課題の裏には、この「立場
主義」が解決を困難にしていると考えて間違いなさそうである。この点に関して著者は
、戦後日本がアメリカの半植民地であることを自覚し、「魂の脱植民地化」、いいかえ
れば立場主義を撃ち砕く覚悟が欠かせないと説く。この点に関して、あえて女装を始め
た著者の覚悟は本物である。

なお、満洲など戦前の旧植民地・半植民地に関して、本書のような経済学的研究を行う
ことは、政治や軍事的過程の裏にある真のメカニズムを知るうえで重要である。この点
に関して、坂本雅子著『財閥と帝国主義-三井物産と中国』(ミネルヴァ書房、2003年
刊)を紹介したい。この本では、満州における大豆利権やアヘン取引に三井物産はじめ
財閥商社が深く関与し、侵略戦争の尖兵であるばかりでなく、むしろ主役であったこと
を実証している。さらに、アメリカ海兵隊のバトラー将軍が、『戦争はいかがわしい商
売だ』(War Is A Racket)(インターネットでダウンロード可能)の中で、「戦争と
は、巨大資本が政治家や軍人を手玉として使い、兵士やその家族と一般の人々の命や金
を犠牲にして大儲けをする、実にいかがわしい商売、つまりペテンである」、と喝破し
ている。日本が310万人の尊い生命を喪い、2000万人のアジア人の生命を奪って国を滅
ぼしたアジア・太平洋戦争を、経済学の視点で捉えることで多くの新たな示唆が得られ
ることを本書は教えてくれる。

「満洲暴走 隠された構造」 大豆・満鉄・総力戦

MLホームページ: http://www.freeml.com/uniting-peace

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