南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣されている陸上自衛隊に、安全保障関連法で可能になった「駆けつけ警護」など新任務を付与するか。

最終的な判断に向けて、政府が検討を進めている。

きのうの閣議で、今月末までの派遣期間を来年3月末まで延長すると決めた。11月20日ごろの次期部隊派遣までに判断する方向だ。

駆けつけ警護は、離れた場所で武装勢力などに襲われた国連やNGOの要員らを、武器を持って助けに行く任務だ。自らを守る武器使用の一線を越え、隊員の任務遂行のための武器使用が可能になる。

紛争のあった国の再建を手伝う「平和構築」は、憲法前文の精神に沿うものだ。日本も「地球貢献国家」として、自衛隊が参加できるPKO任務の幅を広げたい――。朝日新聞は社説でそう主張してきた。

刻々と状況が変わる現場で、駆けつけ警護のような動きを迫られる場面は過去にもあった。その場合、憲法や国内法の枠内で行われるのは当然だ。

だがいま、南スーダンは事実上の内戦状態にある。政府は憲法9条との兼ね合いで設けられた「PKO参加5原則」は維持されていると強調するが、「紛争当事者間の停戦合意」や「紛争当事者の受け入れ同意」が成り立っているのか、強い疑問がぬぐえない。

そうした状況で、新任務の付与に踏み込むことには、反対せざるをえない。

■前のめりの安倍政権

「仕組みはできた。必要なことは新しい防衛省・自衛隊による実行です。いまこそ実行の時であります」

安倍首相は9月、自衛隊の幹部らにこう訓示した。

昨年成立した安保法は、7月の参院選まで「実行」が封印された。いよいよ実績づくりに前のめりのように見える。

しかし、現地の情勢はそれを許す状態とは程遠い。

長い紛争をへて、スーダンから南スーダンが独立したのは2011年。自衛隊派遣はこの年に決まったが、いわゆる「紛争当事者」が存在しないPKOとされ、停戦合意の有無は派遣の前提とはされなかった。

だが、13年12月の大統領派と副大統領派の戦闘を機に、事実上の内戦状態になった。15年8月に和平合意が成立し、今年4月に暫定政権が樹立された。

それが7月になって、自衛隊が活動している首都ジュバで、大統領派と副大統領派の大規模な戦闘が起き、数百人が亡くなった。今月もジュバ周辺で民間人を乗せたトラックが襲われ、21人が死亡。北東部では政府軍と反政府勢力の戦闘で60人以上が死亡した。

■変わった派遣の前提

派遣当初とは自衛隊派遣の前提が変わったと考えるのが自然だろう。現状では南スーダンの反政府勢力を紛争の一方の当事者とみるべきではないか。

ところが日本政府は、従来の立場を変えようとしない。

反政府勢力には、系統だった組織性がなく、支配が確立した領域もないとして、「紛争当事者ではない」と説明。繰り返される戦闘も、法的には「衝突」であり、「戦闘」ではないというのが、政府の言い分だ。

稲田防衛相は国会で「新たな任務が加わるからといって、単純にリスクが増えるものではない」と強調した。現実離れした主張というほかない。

他国軍との連携も想定されるなか、駆けつけ警護の訓練は十分か。現地派遣の医官の数にも限りがあり、隊員が負傷した時の対応にも不安が残る。

駆けつけ警護を認める条件として、政府はPKO参加5原則に「受け入れ同意が安定的に維持されていること」を加えた。だが、現地政府がPKO部隊の増派に一時難色を示すなど、現状は安定的とは言いがたい。

反政府勢力のトップ、マシャル前副大統領は朝日新聞に「7月に起きた戦闘で、和平合意と統一政権は崩壊したと考えている」と語った。

南スーダン情勢の先行きが見通せないなかで、日本政府が急ぐべきは、むしろ自衛隊の撤収に向けた環境を整えることではないか。

■「出口戦略」の検討を

とはいえ、ただちに自衛隊を撤収させれば、日本が南スーダンを見放すというメッセージになりかねない。

だとすれば、自衛隊派遣に代わりうる、日本にふさわしい貢献策を打ち出す準備を始めなければならない。

途上国援助(ODA)を拡充し、国際社会と連携しながら現地政府に働きかけ、南スーダンの安定化の進展と連動させる形でインフラ整備や教育、衛生など非軍事の支援を強める。そんな方策が考えられないか。

法的な位置づけをあいまいにし、自衛隊の「出口戦略」も不明確なまま、危険な新任務に踏み込んではならない。