憲法を生かす。そのことによって、米軍普天間飛行場の辺野古移設計画をめぐる政府と沖縄県の対立を打開できないか。

そんな視点から一つの案を示すのは、憲法学者の木村草太・首都大学東京教授だ。

■地域の民意を未来へ

辺野古に新たな基地ができれば、地元名護市や沖縄県の自治権は大きく制約される。

「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基(もとづ)いて、法律でこれを定める」とする憲法92条に沿えば、辺野古基地設置法のような法律をつくる必要がある。

さらに憲法95条は「一の地方公共団体のみに適用される特別法」は、住民投票で過半数の同意を得なければ制定できないと定める。国がそうした法律をつくる場合は、名護市はもちろん沖縄県の住民投票も必要だ。それが木村さんの指摘である。

こうした考え方を県は国との裁判で主張し、国会でも議論になった。だが首相は「すでにある法令にのっとって粛々と進めている」と、新たな立法も住民投票も必要ないとの考えだ。

それでも、木村さんは言う。「憲法は、辺野古基地のようなものを造る時には自治権の制限について地元自治体の納得をえながら進めなさい、と規定していると読める。そういう手続きを踏んでゆけば、今のような国と県のボタンの掛け違いは起きなかったのではないですか」

地域の民意を地域の未来に反映させる――そうした知恵を憲法から読み取り、現実に生かすことができないか。

「健康で文化的な最低限度の生活」

そんな題名の漫画が、青年コミック誌「週刊ビッグコミックスピリッツ」で連載中だ。憲法25条の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」からとった。

テーマは生活保護。福祉事務所のケースワーカーが、受給者と制度のはざまで、悩み、そして前に進んでゆく物語だ。

■全ての人が人らしく

作者の柏木ハルコさんは、取材を進めるほどに、憲法25条の文言が何を意味するのかを考えさせられたという。それはどのくらいの生活なのか……。

「題名の言葉の意味を、読者にも一緒に考えてもらえたら」

主人公と同様に、生活保護という制度も、前に進み、押し戻される経過をたどってきた。

困窮者を政府が選別して救済する性格をもつ生活保護法(旧法)は1950年に改正され、憲法25条を具体化した生活保護法(新法)が生まれた。

国家に国民の生活保障の義務がある。最も先進的な民主主義の理念が新法に反映され、一定の基準に満たない人は誰でも生活保護を利用できるようになったはずだった。

だが、右肩上がりの経済成長に陰りがみえるにつれ「自助」が強調されるようになる。

窓口を訪れた人に申請をさせない「水際作戦」が問題化した。「生活保護バッシング」が広がり、制度を利用しづらい空気が社会を覆う。

子どもの貧困、非正規雇用の増加、格差の拡大……。すべての人が人間らしく生きられる社会という憲法がめざす地点に、現実はたどり着けずにいる。

■問われる幸福追求権

福島県南相馬市が今年5月、憲法全文を収めた冊子2万部あまりを全戸配布した。

同市では、福島第一原発事故によって、住民の多くが慣れない避難生活で体調を崩し、命を落とした。災害関連死者は全国最多の487人にのぼる。

「憲法の保障するはずの『健康で文化的な生活を営む権利』が剥奪(はくだつ)された瞬間があった」と桜井勝延市長は振り返る。

同市南部に出された避難指示は7月に解除されたが、1万4千人いた住民のうち戻ってきたのは約1100人に過ぎない。

桜井市長は言う。

「憲法がいう、国民が幸福を追求する権利とはどういうものか。もう一度、憲法を読み、みんなで冷静に考えようということです」

憲法13条は、すべての国民が「個人として尊重される」とうたい、その「生命、自由及び幸福追求に対する権利」を最大限尊重するよう国に求める。未曽有の原発事故が、その意義を問い直している。

平和主義、人権の尊重、民主主義。憲法には、人類がさまざまな失敗の経験から学んだ知恵と理念が盛り込まれている。

戦後の平和と繁栄に憲法の支えがあり、憲法が多くの国民に支持されてきたのは確かだ。一方で、憲法の知恵と理念は十分に生かされてきただろうか。

安倍首相が憲法改正に意欲を見せるなか、今月10日に衆院憲法審査会の議論が再開される。だが改憲を論じる前に、もっと大事なことがある。

一人ひとりの国民が憲法から何を読み取り、どう生かしていくか。きょう公布70年を迎える憲法の、問いかけである。