日本銀行が物価上昇目標の達成時期の見通しを、また先送りした。2013年春には「2年で2%」と宣言していたが、「18年度ごろ」になるという。後ずれは、もう5回目だ。

今後順調に行っても達成までに5年以上かかることになる。黒田東彦総裁の今の任期が終わった後の話だ。

確かに、原油価格の急落といった想定外の事態が起きた。黒田総裁が言うように「欧米の中央銀行も見通しが後ずれしてきている」のも事実だろう。

だが、どう言い訳をしても3年前の宣言が「誇大広告」だったことは否定できない。謙虚に反省しなければ、中央銀行の信用は失われる一方だ。

「18年度ごろに2%」という今回の見通しも、民間の予想と比べてずいぶん高い。これまでの経緯を見れば、どの程度根拠があるのか、疑いたくなる。

大胆な金融緩和は、「アベノミクス」の第1の矢とされてきた。それが失速している以上、安倍政権は経済政策全体について総括的に検証すべきだろう。

金融緩和には、円安を通じて企業収益を高め、雇用と賃金を上向かせる効果はあった。だが、家計の消費や企業の設備投資は力強さを欠いたままだ。政権が強調する「デフレではない状態」も危うさが残る。一方で、金融緩和の副作用や将来のコストは着実に膨らんでいる。

財政は税収の伸びにも支えられ、赤字幅は縮小傾向にある。だが、2度にわたる消費増税の先送りもあり、2020年度に基礎的財政収支を黒字化する目標は見通せていない。成長戦略も、もとより短期で達成できるものではないが、経済の実力を示す潜在成長率の押し上げには至っていない。

そもそも、アベノミクスが掲げた金融緩和と機動的な財政、成長戦略は、それ自体は経済政策の標準的なメニューである。それぞれに着実に手を打ち、結果を虚心に検証しながら工夫を重ねていくべきものだ。

にもかかわらず、政権は改善点ばかり強調して「アベノミクスの加速を」と繰り返す。次は名目GDP600兆円といった、目標ともスローガンともつかない数字が踊る。

たんなる努力目標なら達成しなくても害は少ないが、そうしたシナリオを前提に、財政再建や社会保障政策の見通しが立てられている以上、将来大きなツケが回ることになりかねない。

足元を見つめ、現実的な予測をもとに、実行可能な政策を議論する。そうした当たり前の姿勢に、立ち戻るべきときだ。