Global Ethics


「良いトランプ」への変貌は期待しないほうがいい by limitlesslife
November 16, 2016, 3:14 pm
Filed under: トランプ(ドナルド、大統領)
DOL特別レポート
2016年11月16日 ダイヤモンド・オンライン編集部

藤原帰一・東京大学法学政治研究科教授インタビュー

数々の問題発言にもかかわらず次期米大統領に選出されたトランプ氏。この新しいリーダーの下で、米国はどう変わっていくか。またトランプ氏自身、変わっていく余地はあるのか。国際政治学者の藤原帰一氏が予想を語る。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集長 深澤 献)

──次期大統領に決まったトランプ氏について、どう見ていますか。

えーっ、こんな人が米国の大統領なの…というのが正直な気持ちです。

ふじわら・きいち
東京大学法学部法学政治学研究科教授。1956年生まれ。専門は国際政治、東南アジア政治。東京大学法学部卒業後、同大学院単位取得中退。その間に、フルブライト奨学生として、米国イェール大学大学院に留学。東京大学社会科学研究所助教授などを経て、99年より現職。著書に『平和のリアリズム』(岩波書店、2005年石橋湛山賞受賞)など
Photo by Kazutoshi Sumitomo

人によっては、これまでのトランプ氏の暴言の数々はあくまで選挙期間中だけのものであって、大統領になったら変わるんじゃないかという意見もあります。この先は「良いトランプ」になって「普通の大統領になる」という論調に、雪崩を打って進むと考えられますし、私ももちろん、それを願っています。しかし、あまり期待しないほうがいい。そうなるという根拠が見えないからです。

なんといっても、マイノリティの迫害を正面から訴えてきた候補が大統領になるという意味は大きい。米国というのは人種差別を克服しようとしながらも、それが残ってきた国です。そのため、とりわけアフリカ系、ラテン系のマイノリティの人々の、政治に対する見方は冷えていました。決して積極的な評価ではないけれど、自分たちが蔑ろにされているという評価を政治に対して持っていた。その人たちを、さらに阻害することになります。

マイノリティの問題についてトランプ氏が最初にどこから手をつけるか分かりませんが、シリア難民の受け入れ拒否は間違いないでしょう。これは米国内でそれほど反対がありませんから。問題はその後です。イスラム教徒の入国拒否については現在、彼のホームページから削除されているので、落とそうとしているのかもしれません。そうはいっても問題は残るわけで、米国内のイスラム教徒は自分たちが迫害されることに恐怖を感じています。

──米国の各地で反トランプのデモが起こっていますね。

多少の逮捕者は出ているとはいえ、まだ平和的に済んでいます。あれがもし逆にクリントン氏が勝って、トランプ支持者が「選挙に不正があった」などと騒ぎ始めたら、すぐに暴力的なものに至ったかもしれません。

それより私が心配しているのは、反トランプ支持者のデモや暴力を使った革命といった動きではなく、「マイノリティが力を使う」という事態が加速することです。これまでにもすでに起きているような、アフリカ系の人が警官に殺され、それに対する暴動が起きるといった動きです。

今回の選挙で「白人のアメリカ」と「マイノリティのアメリカ」にはっきり分かれてしまった。米国社会における暴力が拡大していく懸念が拭えません。

何しろ、トランプ氏を支持する人がいる一方、特に都市部に「トランプだけは絶対に嫌だ」という人たちがいる。就任時に、これだけ社会の分裂とつながっている大統領候補者はいまだかつていません。

2009年にオバマが大統領になったときにも、反対する人はいましたが、これほど正面から反対する人はいなかった。ジョージ・W・ブッシュ(任期2001年〜09年)にしても、就任時にはこんな分断はなかった。むしろブッシュは「思いやりのある保守主義(Compassionate Conservatism)」という標語に表れているように、マイノリティにも寛容な立場を打ち出して、ラテン系などの支持も集めていました。

「国民の統合」の象徴である
大統領が引き起こした分断

──ロナルド・レーガン(任期1981年~89年)のときとも違いますか?

レーガンの場合は、内と外で評価が逆でした。彼は「極右の大統領」という印象から、日本や当時の西ドイツなど米国外で強い恐れ、懸念、反発が生まれました。ところが米国内では必ずしも、そうではなかった。そもそも圧倒的な票を集めての就任でしたし。

むしろ当時の米国では、大学生や大学教員が「自分たちが思うほど、世間の人たちはレーガンをおかしいと思っていない。孤立していたのは自分たちの方だったのか」といったように、インテリと一般国民との距離感を思い知らされるような事件でした。

ところがトランプ氏は国外、特にヨーロッパから反発も大きい一方で、国内の反発が厳しい。

米大統領というのは、行政の最高責任者という立場である一方、国の統合のシンボルであり、国王に代わる存在です。最大の役割が「国民の統合」なんですね。それが国民の分裂をいざなうというのは矛盾に近い。

──今回、大統領選と同時に行われ連邦議会の上下両院の選挙でも、共和党が共に過半数を獲得しました。

上下両院と大統領が同じ政党に属しているという状況は、久しく米国ではみられなかった点で、大統領はこれまでになく強い立場に立つことができる。議会の反対がなく、国民の審判を受けたという点で、自分の権力を規制しない大統領になる可能性があります。危険ですね。

──ポリティカルコレクトネス(政治的正しさ)を意識しない数々の暴言は、トランプ氏が候補者段階だったからこそ。仮に大統領になれなくても財産を失うわけでもないわけだから、好き勝手言えた。しかし、さすがに大統領という立場になったら変わるという見方はできませんか?

本来は、大統領候補だからこそポリティカルコレクトネスであることを強いられるんです。候補として戦っている間は、おかしな発言をしたらそれで終わり。だから、普通はいい子にする。ところがトランプ氏は、それをしなかった。

暴言によって支持をあおり、誤りを否定されてもそれを認めない。暴言や事実誤認を認めないということでメディアが取り上げる。それによって、暴言から解放された自由でユニークな候補として人気を取ることができる。だから意図的にそういう行動を取ったとも考えられます。彼がかつて「アプレンティス」というテレビ番組でやっていた手法と同じです。

大統領になったら、あのようなやり方で人気を取る必要がなくなり、普通になるかもという見方もありますが、この人の場合、多くの国民から愛されているという状況を維持できないと、大統領になった意味を自分でも認められないでしょう。

彼が好きな映画は「市民ケーン」だそうです。珍しく正直なことを言うと思ったのですが、市民ケーンというのは、愛されることを求めながら、人を愛することができない男の物語で、主人公は最後は孤独に死ぬわけですが、彼の生き方がそのスタイルであるとすれば、大衆から熱狂的な支持を保つことは不可欠なことのはずです。大衆動員型の政治家というのは、大統領になっても変わりません。

「ブラッドリー効果」と
マイノリティの棄権

──ところで、今回の大統領選挙の結果をメディアや専門家はなぜ読み違えたのか、改めて分析してもらえますか。

私自身、予測を外しているわけですが、原因のひとつは「ブラッドリー効果」です。有権者が世論調査で本当のことを言わないというものですが、そうした「隠れトランプ支持者」が多かった。女性蔑視発言や、移民に対する差別発言などを繰り返す候補の支持を表明するのは勇気がいります。自分がトランプ氏を支持していることを公言することで生じるさまざまなリアクションを懸念して、本当のことを言わないわけです。

ブラッドリー効果は、オバマのときにもありました。黒人に投票することを公言しない。だから実際の票が世論調査より多く出た。今回の選挙では、最終局面での世論調査から2ポイント動きました。クリントン氏の勝利という調査ばかりだったのですが、2ポイント動くことでひっくり返った。

もうひとつが棄権です。特にアフリカ系とラテン系の投票率が、55%と非常に低かった。これがトランプ有利の状況を支えました。

オバマ大統領は、マイノリティが棄権に向かうとクリントン氏が負けると読んでいた。だから彼は選挙戦の後半で、連日のように演説して、特にマイノリティに投票を強く呼びかけました。それが一番の弱点だと分かっていたからです。

──そして、マイノリティの棄権が多かった一方で、白人のブルーカラーの票がトランプ氏に集まったと指摘されています。

前から分かっていたことでしたが、保護貿易、孤立主義という政策に強く反応するのが白人のブルーカラー層でした。白人、男性、非大卒、そして年齢が高い層です。

ただ、民主党の牙城であるミシガン州、ウイスコンシン州、あるいはペンシルバニア州といった地域まで、彼らの票で切り崩されるかとなると、それは難しいだろうと思われていた。トランプ氏に票は流れるだろうが、選挙結果を変えるまでには至らないだろうという予測が大勢を占めていたのです。

ところが、1回の選挙でそれが崩れてしまった。これは、民主党にとっては大変な危機です。自分たちの基盤が動いたわけですから。

もっとも共和党も、元々あった宗教保守、社会保守の勢力と、伝統的な東部財界の政党としての主流派に分裂して、ひとつの政党という体裁がなくなっていたところに、外から来たトランプ氏に乗っ取られている状況です。トランプ氏は共和党の中に基盤を持っているわけではなく、選挙戦は専らメディアに頼っていた。基盤となる集票組織はなく、その点においてもクリントン氏とは比較にならなかった。

しかし、白人ブルーカラーの間でトランプブームが起き、彼がどんな暴言をしても支持が揺るがない固い核ができた。こうした有権者の動きが、これまでの共和党の基盤とは異なる新しい層を呼び込むことになったわけです。

今後の焦点は、共和党がトランプ氏とどういう関係をつくっていくか、です。トランプ氏は何といっても勝ったわけですから、共和党と協力する中で、政権の中枢に自分たちのメンバーをどう組み込んでいくか。1月までにつばぜり合いが起こるでしょう。


Leave a Comment so far
Leave a comment



Leave a Reply

Fill in your details below or click an icon to log in:

WordPress.com Logo

You are commenting using your WordPress.com account. Log Out / Change )

Twitter picture

You are commenting using your Twitter account. Log Out / Change )

Facebook photo

You are commenting using your Facebook account. Log Out / Change )

Google+ photo

You are commenting using your Google+ account. Log Out / Change )

Connecting to %s



%d bloggers like this: