Global Ethics


日本がトランプの米国と徹底協議すべき4つの課題 by limitlesslife
November 16, 2016, 3:27 pm
Filed under: トランプ(ドナルド、大統領)
田中均の「世界を見る眼」
2016年11月16日 田中 均 [日本総合研究所国際戦略研究所理事長]

ポピュリズムを利用したトランプ氏
実際の政策の行方は

米国大統領選におけるトランプ氏の勝利は世界を驚かせた。私自身を含め内外の多くの識者は、米国に存在している深い亀裂と既成政治家に対する反感の強さを十分読み切れなかった。

グローバリゼーションはモノ・ヒト・カネが国境を越えて自由に動き回る結果、一方では中国やインドといった新興国の急速な台頭を生み、とりわけ先進国では富める者と貧する者間の大きな所得格差、地域格差、移民や外国労働者の大量の流入を生み、社会に大きな亀裂をもたらした。これがナショナリズムや排外主義、反イスラムといった国民感情の高揚に繋がった。

このような国民感情の高揚を巧みに利用し、政治に繋げていく所謂ポピュリスト政治家が力を持つようになった。これらのポピュリスト政治家はキャンペーンにおいて多くの場合に誇張された表現を使い、「敵か味方」かの黒白をつける傾向を有し、キャンペーンを成功させた。また、大衆へのコミュニケーションにはもはや新聞・雑誌・テレビなどの伝統的メディアではなく、僅か140文字という極めて短い字数のツイッターなどのSNSが使われ、論理的思考よりも短い結論が重要となった。

英国のEU離脱(BREXIT)や米国大統領選挙はポピュリスト的成功の典型的な例であるが、これに止まるものではない。欧州全域において生まれつつある極右勢力や極左勢力、或いはフィリピンにおけるドゥテルテ大統領の成功、ロシアにおけるプーチン大統領の人気の高さはポピュリズムの例であろう。

しかし今後最も重要であるのは、トランプ大統領がどのように米国を導いていくかであろう。選挙キャンペーン期間中の諸々の発言を実行に移せば米国は世界の孤児になるばかりか米国自身が依って立つ世界の秩序を崩壊させることになる。選挙に勝つためのキャンペーンレトリックと大統領になってからの実際の政策は違うのだろう。

トランプ氏には来年1月20日の就任までの政権移行期間に現実世界についての集中的なインプットが行われるのだろうし、大統領に就任した後も、議会や最高裁、産業界などは極端な政策には一定の歯止めをかけようとするのだろう。外国政府も移行期間やその後の政権立ち上がり期間(約4000名にも上る政治任命を完了するにはおよそ半年はかかると言われる)を通じて意思疎通を試みようとするのだろう。

孤立主義的な傾向は望ましくない
米国のリーダーシップの4要素

国際社会にとって致命的に重要であるのは個々の政策課題もさることながら、米国が世界でこれからもリーダーシップを取り続けることであり、また、どのようなリーダーシップをとるのか、という点である。過去、米国の孤立主義が世界大戦に繋がっていったことからも明らかなとおり、米国がどんどん内向きに傾くのは具合が悪い。

とりわけ、国際社会の構造が大きく変化し、中国やロシアといった諸国が米国を中心とするリベラルな国際秩序に必ずしも満足している訳ではなく、政治経済両面において新たな秩序を模索しているように見える今日、米国がどのようなリーダーシップを求めるのかにより、世界の秩序は大きく変わる。

第二次世界大戦後の米国のリーダーシップを構成したのは次の四つの要素であった。

それは、(1)圧倒的な軍事力を有し、それを秩序維持のために国際公共財として使う覚悟、(2)強い経済力を有し、世界の開放的な経済体制を構築していく覚悟、(3)不拡散や反テロといった国際社会が優先的に取り上げるべき課題を設定する能力、(4)民主主義や人権といった普遍的価値を重んじる先進民主主義国のモデルであること、である。

このような四つの要素を基本としつつもリーダーシップの取り方は政権によってニュアンスが異なってきた。ブッシュ政権に比べオバマ政権は軍事力の行使には極めて慎重であり、「世界の警察官」的色彩は薄れ、外交による解決に重点をおいた。また、ブッシュ時代の単独行動主義(ユニラテラリズム)から同盟国や友好国との協調へと転じた。

トランプ政権は果たしてどうであろうか。選挙キャンペーン中、日米安保体制やNATO(北大西洋条約機構)に関して、米軍が地域秩序安定の役割を果たすためには、駐留経費は全て欧州や日本の負担としなければならないといった発言が目を引いた。全般的な対外関係の考え方も商業取引のような姿勢が目についた。ここには米国をリーダーとするリベラルな国際秩序を維持していくこと自体が、米国の大きな利益に繋がるという発想が欠けていた。

自国を越えた世界の利益を考慮し
負担を負うという覚悟が問われる

従来から、同盟国間には秩序維持という共通利益のために「公平な負担の分担(バードンシェアリング)」をするという議論があり、日本も長い時間をかけて防衛費の拡充や思いやり予算(駐留経費の一部負担)を増額してきた。しかし、米国がリーダーであり続けるためには自己の狭い国益だけではなく、世界秩序の維持という大きな利益のためにも負担を担うという発想がなければならない。

経済についても、トランプ氏は世界の自由貿易体制を強化するということよりも、自国の雇用を守るという短期的利益への執着が強いようである。非効率的な産業分野を対外的に開放すれば雇用は失われるが、これが雇用をより競争力のある分野への移動を進めることになり、従って自由貿易は経済を拡大していく重要なツールであるという国際社会の考え方は通用しないようである。TPPも議会で早急に批准される見通しは消えたようである。ただ、本来自由貿易を強力に支援してきた共和党が上下両院で多数を占めることになり、保護主義に走らない現実的政策が採られる希望は残る。

さらに国際社会の課題設定能力というリーダーシップのあり方との関係では、オバマ政権の下で米国がコミットした多くの国際約束をどうしていくのかも重要な問題である。トランプ氏は選挙期間中、地球温暖化対策に関する新たな枠組みであるパリ協定、イランとの核合意など多くの国際合意についてかなり批判的な発言を繰り返してきた。もしもこのような合意へのコミットメントを撤回するようなことがあれば、国際関係の安定は大きく損なわれることになるし、ましてや米国のリーダーシップも大きく損なわれる。このような米国の単独行動主義は誰も歓迎しない。

では果たして日本はどうして行けば良いのか。米国の新政権のあり方は日本の運命を変える。米国が米軍を撤退する、あるいは核のコミットメントを放棄するといったようなことになれば、安全を担保するために日本の安全保障政策は劇的な変化をせざるを得ないであろうし、これは東アジア地域の大きな不安定要因となることは明白なのであろう。ただ日本もトランプ政権を生んだ米国社会の変化や、すでに長い期間に生じてきている東アジア地域の力のバランスの変化ということを、十分念頭に置いて考え方を整理していかねばならないのではないか。

求められる日米の徹底的協議
4つの課題

今後最も必要なことは、トランプ政権が発足した初期の段階における徹底的な日米協議であり、共同の戦略の構築なのだろう。それらの協議は次のような課題を含むものでなければならない。

(1)米国がリーダーシップを取る覚悟を持ち、日本がそれを支援するために役割を拡大していくことを明確化しなければならない。米国がオバマ政権時代に採用したアジア重視の「リバランス政策」がそのまま踏襲されるとは思わないし、TPPの発効見通しがなくなる打撃は大きい。この打撃をどう埋めていくのか。日本は安倍政権の下で安保政策は相当充実してきたが、今一度日米の役割分担を再び見直す時期に来ているのではないか。とにかく米国を東アジアに引き込む外交努力が望まれる。

(2)北朝鮮政策。もはや北朝鮮の核ミサイルの開発は極めて危険な段階に来ている。日米韓は正面から向き合う必要があり、中国を巻き込んだ危機管理計画を整備することにより、南北統一を含むあらゆる事態への備えをつくり、北朝鮮に本気度を示し、核廃棄を前提とした交渉に北朝鮮を引き出すことを試みるべきなのだろう。

(3)対中政策。米国は政権が変わるたびに対中政策が変わるが、対中政策の変化は日本に対する影響は極めて大きい。日本も、より中長期的な中国政策を策定する時期に来ており、米国新政権樹立時に共同の戦略を練り上げるべきなのだろう。

(4)中国と並び米国が正面から向き合わねばならないのはロシアである。ロシアはウクライナ・クリミア問題、シリア問題、米国民主党全国委員会へのサイバー攻撃問題などオバマ政権との関係では対決的な態度を強めてきた。一方日本は、今年12月のプーチン大統領の訪日予定や八項目の経済協力計画など北方領土問題解決への環境整備もあり、積極的な対ロ関係改善への外交を展開している。トランプ政権の対露政策はオバマ政権から変化する可能性はあるが、それであるからこそ日米間の緊密な協議は不可欠である。

日米間のグローバルなパートナーシップという観点からは多くの協力課題が存在するが、上記に上げた課題は日米双方の国益を大きく左右する重要かつ緊急な課題なのだと思う。あらゆるレベルで集中的な政策調整が行われることを期待したい。


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