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米軍が撤退しても「日本防衛」に支障はない  by limitlesslife
「米軍を撤退させる」ならどうぞ
日米安保を何も知らないトランプ
田岡俊次 たおか しゅんじ・ジャーナリスト

米軍が撤退しても「日本防衛」に支障はない

米兵の人件費や燃料費等を除き、在日米軍の駐留費の大半を負担しているのは日本だ。
トランプ氏がそうした事実も知らないで「撤退」を口にしたら、
困るのは米軍自身なのだ。

11月8日の米大統領選挙で共和党のドナルド・J・トランプ氏(70歳)
が大方の予想に反して圧勝したことは、経済格差の拡大で没落する下位中産階級、
窮乏にあえぐ白人貧困層の既成勢力(エスタブリッシュメント)
への反感の強さを示した。
彼の暴言の連発には共和党の幹部たちもあきれて支持を取り消し、
米国メディアのほとんどがクリントン候補の支持を表明しても、
大衆はエリートたちの警告を無視し、現状打破の希望を彼に託した。

これには予兆があって、2011年9月から数千人がウォール街を占拠する
「99%の乱」が起き、多くの都市に波及した。
米国では国民の1%が資産の34・6%を握っているから、
99%の人々の怒りが金融街での座り込みに表れた。
しかも人口の20%の人々が資産の85・1%を保有するから、
人口の8割はほぼ無産状態で、過去30年間で実質所得が増えたのは上位20%だけ、
次の20%はほぼ横ばい、
その下の60%は減少だからいずれは不満が爆発する形勢だった。
最上位の10%と最下位の10%の所得比は15・9倍に達し、
アルゼンチンの22・1倍、メキシコの21・4倍に近付きつつある。
中国は17・9倍、日本は8・4倍だ。

米国では相続税がかかるのは相続財産が543万ドル(約5・9億円)以上の場合で、
夫婦間の相続は課税対象でないから、子は父が死亡した際に5・9億円を相続し、
母からまた5・9億円を相続すれば計12億円近くを無税で受け取れる。
生命保険金も無税だから巨額の生命保険を掛けたり、
財団を作って資産を寄付し、子が理事となって運用するなどの抜け道もある。
資産格差が拡大して当然だ。

トランプ氏もそうした手法で不動産開発業者の父から資産を受け継ぎ、
今年9月の『フォーブズ』誌の調査では37億ドル(約4000億円)
にまで増やした。
だが節税策で、すでに18年間国税を納めていないとも報じられた。

彼は、中産階級や貧困層の人々の憎しみの的になってもおかしくない人物だ。
そうした人々は、「公立大学の無償化」など、やや社会主義的政策を
唱えた民主党のバーニー・サンダース上院議員を支持する方が筋のように思えるが、
マッチョに傾く大衆は「強い成功者」に変革の期待をつなぐのだろう。

日本を守る米軍?

彼は大衆の怒りを移民やイスラム教徒、自由貿易など外に向け、
自分がその権化の「エスタブリッシュメント」
に挑戦する姿勢を演出して選挙に成功した。
だが彼の選挙戦での発言は、国際情勢や世界経済に無知、
無関心な米国の大衆が快哉を叫びそうなことを、脈絡なく、
実現性も検討せずに羅列しただけ。
当選後「宣伝には若干の誇張も許される」と公言する程だから、
あまり実行はできず、大衆は一層不満をつのらせ、
4年後にはさらに排外的、強権的な候補者が出現するのではと案じられる。

日本に対しても「不公正な貿易で米国人の職を奪う。
安倍は殺人者だ」と叫び、演説中に日韓の核武装を認めるような発言
をする画像もテレビに出たが「私は一度もそんなことを言っていない」
と本人は否定している。
「在日米軍経費は100%日本に払わせる。
条件次第で撤退させる」とも言うが、これも無知を露呈した論だ。
日本は今年度在日米軍の経費5900億円余を負担し、
米国も55億ドル(約5900億円)を出しているが、この大部分は
米軍人5万2000人余の人件費で、一部が艦艇、航空機の燃料費や維持費だ。
100%日本が出せば、米軍将兵は日本政府から給料を貰う傭兵になる。

本来「日米地位協定」の24条では、日本は米軍に国有地を無償で貸し、
民有地の地代を出すが、それ以外の経費は「すべて合衆国が負担する」
と定めている。
だがベトナム戦争後の米国は財政難に陥り、ドルの価値は360円から
180円程に下落したため、基地労働者の給与がドルでは突然2倍になり、
米軍は払えなくなった。
このため日本は1978年からその諸手当分62億円を負担した。
当時、「法的根拠は何か」と聞かれた金丸信防衛庁長官が
「知り合いがお金に困っている際、思いやるのが人情」
と答えたため「思いやり予算」の名が付いた。

これは堤防の一穴で、米軍は次々に基地労働者の給与全額や光熱水費の支払い、
建物等の建設、さては沖縄の海兵隊のグアム移転費の分担などを求め、
日本の負担は急増した。
日本では「米軍に守って貰っている」との意識が擦り込まれているため、
米軍の要求を安易に呑むが、実は韓国やかつての西独と異なり、
日本を直接守っている米軍はゼロだ。
米第7艦隊の21隻は横須賀、佐世保を母校としているが、同艦隊は
西太平洋、インド洋を担当海域とし各地を巡航、アラビア海まで出動する。
「その存在が日本の通商路の安定に寄与する」と米国人は言うが、
それらの海域を船が通る点では中国を含む他の諸国も同じだ。

自衛隊に「一義的責任」

沖縄の海兵隊の戦闘部隊、第31海兵遠征隊(約2000人)は
第7艦隊の陸戦隊で、佐世保の揚陸艦に乗って出動する。
騒乱の際の在留米国人の救出や災害派遣を行ない、
有事の際には上陸部隊の先鋒となるため沖縄に待機している。
沖縄防衛兵力ではない。
米空軍は嘉手納と三沢に戦闘機約70機を配備しているが、日本の防空に
関与せず、防空は1959年以来、航空自衛隊が全面的に担当している。

昨年4月に改定した「日米防衛協力の指針」(ガイドラインズ)は、
その核心部分である「日本に対する武力攻撃が発生した場合」の
「作戦構想」で、自衛隊が防空、弾道ミサイル防衛、
日本周辺海域での艦船の防護、陸上攻撃の阻止、撃退などあらゆる分野で
「プライマリー・リスポンシビリティ(第一義的責任)を持つ」
と定め「米軍は支援、補完をする」としている。
島の奪回作戦も、「自衛隊が行なう」と明記した。
自衛隊が自国防衛に一義的責任を負うのは当然だが、
言わずもがなの語句を入れたのは、もし米軍が何もしなくても
「一義的責任はそちらにあると書いてある」と言えるためだ。

これでは日本で「何のために米軍に基地を貸し、巨額の補助金を出しているのか」
との疑問が生じるから、邦訳では「一義的責任を持つ」を「主体的に実施する」
とごまかしている。
このガイドラインズの規定は、自衛隊がすでに日本防衛の能力と責任を
持っている現状を追認したもので、もしトランプ氏が米軍を撤退させても
日本の「専守防衛」に穴は開かない。

攻撃能力を示して相手の攻撃を予防する「抑止」は米軍に頼っているが、
抑止戦略は「反撃を受けるから攻撃は見合わせよう」
と考える相手の理性を前提としている。
もし北朝鮮が崩壊に瀕し、指導者が自暴自棄になり
「死なばもろとも」と核ミサイル発射を命じるのなら、抑止は効かない。

米国は冷戦後、欧州、韓国で大幅な駐留部隊の削減をしており、
財政状態からさらに削減が進むとしても、海軍は絶対的優勢を将来も保ち、
世界的制海権により本国の安全と発言権確保をはかるだろう。
西太平洋での制海権維持には艦船修理能力のある横須賀、佐世保は不可欠だから、
トランプ氏が「撤退するぞ」と脅すなら「結構なお話です」と応じればよい。
やがて相手は「海軍だけでも置いてほしい」と下手に出るしかなく、
「日本は守って貰っている」のではなく「置いてやっている」
実態が明らかになるだろう。

【週刊金曜日 2016・11・25】

MLホームページ: http://www.freeml.com/uniting-peace


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