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戦火のアレッポから届く現代版「アンネの日記」 – 川上泰徳中東ニュースの現場から   by limitlesslife
December 4, 2016, 2:08 am
Filed under: シリア

戦火のアレッポから届く現代版「アンネの日記」 – 川上泰徳 中東ニュースの現場から
ニューズウィーク日本版 12/1(木) 17:54配信

<シリア内戦でアサド政権軍による攻撃が激化するアレッポ東部。そこから「バナ」と
いう名の7歳の少女が、英語で世界に発信している。「怖い。私たちのために祈ってく
ださい」――>

シリア内戦でアサド政権軍による包囲攻撃が続いていた反体制支配地域のアレッポ東
部。その北道部に11月26日、政権軍が侵攻した。アレッポは2012年7月に自由シリア軍
など反体制武装勢力と政権軍との戦闘が始まって以来、両勢力がせめぎあってきた。今
後、政権軍の攻勢によって、アレッポ東部の反体制支配地域が崩壊し、政権軍がアレッ
ポ全体を支配下に置く可能性も強まっている。

政権軍は今年の7月以来、アレッポ東部につながる道路をすべて封鎖して、食料や医
薬品などの供給を阻み、包囲攻撃に出た。同時にロシア軍と政権軍が無差別空爆を行い
、おびただしい数の民間人の犠牲者が出た。シリアの反体制地域で人命救助活動をする
ボランティア組織「シリア民間防衛隊」(通称ホワイト・ヘルメット)によると、27日
までの12日間で500人以上の民間人が死亡し、1500人以上が負傷。4つの病院と2つの
救援センターが破壊されたという。現地の医療関係者の話では、ロシア軍や政権軍はア
レッポ東部の病院や診療所を標的とし、11月18日までにすべての医療施設が破壊された
ようだ。

包囲されたアレッポ東部に30万人近い民間人がいることは、政権軍、ロシア軍による
包囲作戦と空爆の激化に対して国連がたびたび警告してきたが、この5カ月間、民間人
保護のための食料や医薬品の供給などもほとんど実施されていない。

今回、アレッポ北東部の前線が崩れ、政権軍が住居地を占領したことで、アレッポ東
部は北部と南部に分断されることになる。政権軍が今後、アレッポの反体制支配地域へ
の最後の攻勢を地上と空から強めるなら、大規模な虐殺など人道的危機が起こることに
なりかねない。国際社会の圧力によって、住民を政権支配地域または反体制支配地域に
、安全に退避させる方策をとる必要がある。

【参考記事】シリア内戦で民間人を殺している「空爆」の非人道性

フォロワー18万人超、9月下旬から母親と一緒に発信

アレッポ東部の一角が崩れたことは、シリア内戦の行方を考える上で軍事的には重要
であるが、この間のアレッポ情勢を追いながら、目の前で民間人が戦争の犠牲になって
いるのを止められない国際社会の無力を痛感する。

今回の攻勢でも突然、北東の前線が崩れたことで、その地域の1万人の住民が地域か
ら逃げ出した。英国放送協会(BBC)にはバッグを抱え、子供の手を引いて逃げ出す群
集の映像が流れた。もちろん、BBCの記者がアレッポにいるわけではなく、このコラム
(「瓦礫の下から」シリア内戦を伝える市民ジャーナリズム)でも紹介したハディ・ア
ブドラのような現地の市民ジャーナリストが送ってきた映像である。

私は今回のアレッポ東部への攻撃についてインターネットで現地情報を調べているう
ちに、「バナ」という名の7歳の少女が9月下旬からツイッターで英語を使って発信し
ているのを知った。母親のファテマとバナが一緒にツイートしている。18万人を超える
フォロワーがいて、さらに増えている。シリア軍が侵攻した11月26日には「どうか私た
ちを救ってください」「怖い。私たちのために祈ってください」とバナの短い書き込み
があり、27日、28日の混乱の中でもツイートが続いた。

▽27日のツイート
「政権軍が入りました。今日は最後の日になるかもしれません。インターネットはあり
ません。どうか、どうか、どうか私たちのために祈ってください。ファテマ」
「最後の伝言:いま激しい爆撃の下で、もう生きていられないかもしれません。私たち
が死んでも、なお残っている20万人のために、(アレッポのことを)語り続けてくださ
い。さようなら。ファテマ」
「今夜、私たちに家はありません。家は空爆を受けて、私は瓦礫の中にいます。私は死
を見ました。ほとんど死ぬところでした。バナ」

▽28日のツイート
「いま、激しい爆撃が続いています。生と死の境にあります。どうか、私たちのために
祈ってください」
「伝言:私たちは逃げていますが、まさにいま、多くの人たちが激しい爆撃の中で死ん
でいます。私たちは生きるために必死に頑張っていますが、まだあなたたちと共にいま
す。ファテマ」

Next to our house, I thought the bombs hit me. I don’t know if there are peopl
e inside this house. – Bana #Aleppo pic.twitter.com/8kF5x6cHeJ? Bana Alabed (
@AlabedBana) 2016年11月17日
「私たちの家の隣。爆弾が私に命中したのかと思いました。この家に人がいるのかは分
かりません。バナ」

バナがアレッポ東部のどこに住んでいるかは分からないが、26日の政権軍の侵攻と共
に激しい空爆があり、27日にバナの家が破壊されたことが分かる。27日のツイートには
土煙の中にいるようなバナの写真が貼られている。28日には家を失って、家族で逃げま
わったのだろう。一方で、この日、BBCやアルジャジーラのニュースはアレッポ東部の
混乱を伝えている。バナたちの安否を心配していると、その夜、バナのツイートがアッ
プされた。

「私たちに家はありません。私は軽いけがをしました。昨日から寝ていません。空腹で
す。私は生きたいです。死にたくはありません。バナ」

ツイートの向こうに、政権軍が侵攻してくる中で、家を空爆で破壊され、けがをし、
寝ずに避難し、お腹を空かせている7歳の少女の肉声がある。私たちにはバナのツイー
トが事実であるかどうか確認をとることはできないが、バナと母親が、2カ月前の9月
24日から始めた600を超えるツイッターの書き込みをたどれば、その存在を否定するこ
とはできない。

トルコ国境に近いアレッポには内戦が始まった後、トルコの会社の有料インターネッ
トサービスが普及している。通信衛星に直接つなぐインターネットサービスもある。ハ
ディ・アブドラら多くの市民ジャーナリストたちもインターネットを通じて、記事やビ
デオリポート、画像、映像情報を発信している。

ファテマのツイートに「アサドとプーチンは私たちを外の世界から遮断しようとする
ならば、太陽を破壊しなければならない。太陽エネルギーが私たちの生命線です」(9
月26日)、「蓄えている米とパスタがなくなりつつあります。電気もありません。しか
し、太陽があるので、私たちは世界に向けて語り掛けることができます」(同)とある

ファテマが使っているのは、太陽光発電で携帯を充電するキットなのだと推測できる
。私もいざという時のためを考えて出張の時に持っていく備品だ。長期間封鎖され、電
気も、食料もないが、インターネットサービスだけはあり、カメラ付きの携帯電話で、
ツイートを発信しているという状況が想像できる。

「爆撃を止めて。私は本を読みたいから。なぜ爆撃するの?」

9月からのツイッターを読んでいくと、バナにはムハンマドとヌール(3歳)という
2人の弟がいることが分かる。バナは小学生で、本を読むのが好きで、「将来の夢は学
校の先生と作家になることです」(10月16日)と書く。

「爆撃を止めて。私は本を読みたいから。なぜ、私たちを爆撃するの? 爆撃しないで
。バナ」(10月4日)
「私は本を書いています。あなたは読むかなあ?」(10月18日)
「私は自分が書く本の中で、ここでの生活のことや爆撃のことを話したい。あなたたち
が読むことができればいいね。私はもう寝ます。バナ」(10月25日)
「私たちは何をしていると思う? ハリー・ポッターを読んでいます。バナ」(11月24
日)
「私の弟たちもまたハリー・ポッターを読みたがっています。バナ」(同)

What are we doing? We are reading Harry Potters. – Bana #Aleppo pic.twitter.co
m/wzuZq62Em0? Bana Alabed (@AlabedBana) 2016年11月24日

バナと2人の弟が並んで「ハリー・ポッター」を携帯電話の画面で読んでいる。英語
版かもしれないが、「ハリー・ポッター」にはアラビア語の翻訳も出ている。27日に家
を爆撃される3日前のことである。バナの本好きは、ツイッターアカウントで最初に固
定されたツイートが「アレッポからこんにちは。私は本を読んでいます。戦争を忘れる
ために」(9月26日)であることからも分かる。ファテマのツイートでも「今夜はバナ
が本を読むことができるように平穏であって欲しい」(10月1日)と書いている。

Good afternoon from #Aleppo I’m reading to forget the war. pic.twitter.com/Uws
dn0lNGm
? Bana Alabed (@AlabedBana) 2016年9月26日

母親のファテマのツイートには、暮らしや地域の様子を伝えるものが多く、悪化する
状況を知らせる報告となっている。

「小さな子供たちが通りで食べ物を探しています。ファテマ」(9月30日)
「爆弾が午前0時から5時まで降り続きました。私たちは夜の間ずっと寝ていません。
朝になってまた9時から(爆撃が)始まり、いまも続いています。ファテマ」(10月1
日)
「この町の主要な病院が爆撃されました。世界よ、私たちはどこに行けばいいの? フ
ァテマ」(10月1日)
「アレッポ病院は修復されているところを、今日また爆撃されました。世界よ、私の子
供たちがけがをしたら、どこに行けばいいのでしょう?」(10月3日)
「人々は爆撃を恐れて、病院に行くことを避けています」(同)
「ロシア軍機が落としたビラには明日が最後の機会だとあります。もし、明日、私たち
が町を出なければ、私たちは生きるか、死ぬか分かりません。私たちのために祈ってく
ださい。」(11月3日)
「これがシリア政府から出た文書です。大規模な戦争を開始するまで24時間しかないと
いいます」(11月13日)
「こんにちは。食料が本当になくなりそうです。買おうと思っても、町には食料はあり
ません」(同)

バナのツイートには微笑みたくなるようなものもある。

Good afternoon. I am happy today because of? Guess. , what about you? What are
you doing now? – Bana #Aleppo pic.twitter.com/5zEjnopa2K? Bana Alabed (@Alab
edBana) 2016年10月27日

「こんにちは。私は今日ハッピーです。なぜって? 想像してみて。あなたはどうです
か? いま、何をしているの?」(10月27日)

このツイートにはバナの写真がついていて、手に小さな白いものを持っている。次の
ツイートで種明かしがされる。「歯の妖精はここでは爆撃を恐れて、穴に逃げてしまい
ます。戦争が終わったら、やってくる。バナ」(同)。前のツイートの小さな白いもの
は、抜けた乳歯というのが答え。「歯の妖精(The tooth fairy)」は、子供が抜けた
歯を枕の下に置いておくと、コインまたはプレゼントに交換してくれるという西洋の言
い伝えである。

バナの子供らしいツイートは、日々の爆撃の叫びにかき消されそうだ。

「人々はハエのように死んでいます。次にどうなるか分かりません。爆弾はちょうど雨
のように降ってきます」(9月24日)
「私の3歳の弟ヌールが、なぜビルが崩れたの?と私に聞きました。私はどう答えてい
いかわかりません」(9月29日)
「爆弾が降ってきます。私の弟のムハンマドが泣いています。もし弟が死ぬなら、私が
死んだ方がましです。バナ」(10月21日)
「こんにちは世界。私は幸運です。夜じゅう爆弾の雨が続いた後なのに、生きているの
ですから。バナ」(10月17日)
「私は泣いています。これは今夜、爆撃で死んだ私の友達です。泣き止むことはできま
せん。バナ」(11月24日)

次の瞬間にも死んでしまうかもしれない少女のつぶやき

私がコラムで取り上げた市民ジャーナリスト、ハディ・アブドラは今年11月、国際ジ
ャーナリスト組織「国境なき記者団(RSF)」が主催する「RSF-TV5モンド報道の自由賞
」のジャーナリスト部門で受賞した(参考記事:危険地報道を考えるジャーナリストの
会HP「シリアの市民ジャーナリスト、ハディ・アブドラ氏に『報道の自由』賞」)

彼について取りあげた時、「シリア内戦は歴史上初めて、紛争の真っただ中にある普
通のシリア人が市民ジャーナリストとなって紛争の事態を現場から伝えている」と書い
た。バナのツイートの中でも、ファテマが「ハディ・アブドラ。アレッポのことを報じ
てくれて、ありがとう」(10月1日)とツイートしているものがある。世界に対してだ
けではなく、包囲攻撃の中にあるアレッポ東部の住民たちにとっても、現場に駆け付け
るハディのリポートが重要な情報源になっていることが分かる。

シリアの市民ジャーナリズムの驚くべき発展は、インターネットとソーシャル・ネッ
トワーキング・サービス(SNS)の普及によって可能になった。私たちはシリア内戦と
いう第二次世界大戦後最悪といわれる紛争について日々、現場からの映像報告をリアル
タイムで受けることができる時代に生きている。そう考えて、バナのツイートを読むと
、現代版の「アンネの日記」ともいえるものである。ナチスの迫害を逃れて隠れ家で送
った生活を書いたユダヤ人の少女の日記は、彼女が強制収容所で死んだ後に出版された
。いま、私たちはシリアで包囲攻撃と空爆の中にあり、次の瞬間にも死んでしまうかも
しれない少女の日々の”つぶやき”をリアルタイムで受信している。

2カ月に及ぶ母子のツイートを読んだ後で、家を空爆されて破壊され、「私たちに家
はありません。私は軽いけがをしました。昨日から寝ていません。空腹です。私は生き
たいです。死にたくはありません」とツイートする7歳の少女の書き込みを読むと、何
もできないことに胸が痛くなるのは私だけではないだろう。

アレッポの包囲攻撃と空爆については、BBCやCNNのような欧米のメディアは、現地の
市民ジャーナリストが送ってくる映像やリポートを使って報じている。CNNはバナのツ
イートを取り上げ、11月27日に家が破壊されたことも紹介している。しかし、私が見る
限り日本の新聞・テレビの大手メディアでは、アレッポ情勢はシリア内戦の戦況の話と
して報じられているだけで、戦争の下で市民が犠牲になるという市民の目線から、そこ
に暮らす人々の顔が見えるような報道にはなっていない。重要なことは、戦争の悲惨さ
を市民の視点から伝えることであり、戦況報道では日本からは遠い世界の話になってし
まう。

シリアの市民ジャーナリストの報道やバナのツイッターは、インターネットを通して
誰でも見ることができ、大手メディアに頼らなくてもいい。シリアの市民ジャーナリズ
ムの発展を見ると、大手メディアがメディアを支配していた時代は終わり、ジャーナリ
ズムの担い手は現場にいる個人に移っているという思いを強くする。それは市民にとっ
ても、「新聞・テレビが報じないから」という言い訳が通用しなくなっていることを意
味する。戦争の下で女性や子供など市民が犠牲になり、自ら自分たちの苦境を発信して
いる時、その受け手である私たちの意識や行動も変わらねばならないと考える。

川上泰徳

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161201-00181803-newsweek-int&pos=3

MLホームページ: http://www.freeml.com/uniting-peace

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