アエラ読書部 鈴木邦男の 読まずにはいられない
2017・1・2_9
サイコパス=犯罪者ではなかった!
脳と人類の進化に隠されたミステリーに最新科学の目で迫る
「サイコパス」と聞くとトマス・ハリスの小説『羊たちの沈黙』
に出てくるハンニバル・レクター博士を思い浮かべてしまう。
「高い知能を持ちながら、冷酷な猟奇殺人を次々と犯す人物」
だろうと漠然と思う。
〈ところが近年、脳科学の劇的な進歩により、サイコパスの正体が
徐々にわかってきました〉と著者の中野信子さんは言う。
〈脳内の器質のうち、他者に対する共感性や「痛み」を認識する
部分の働きが、一般人とサイコパスとされる人々では大きく違う
ことが明らかになってきました〉
罪を犯しても良心の呵責を感じない。
痛みも感じない。
さらに驚くべきことがある。
〈また、サイコパスは必ずしも冷酷で残虐な殺人犯ばかりではない
ことも明らかになっています。
大企業のCEOや弁護士、外科医といった、大胆な決断をしなければ
ならない職種の人々にサイコパスが多いという研究結果もあります〉
そうか。
いいサイコパスもいるんだ。
それに「100人に1人」の割合でサイコパスはいるという。
日本なら約120万人だ。
そんなにいるのか。
人類進化の過程でサイコパスは必要だった。
だから生き残ったのだと著者は言う。
大航海時代の探検家やフロンティアを求めてアメリカ西部を開拓した
人々の中に、恐怖や不安を知らないサイコパスがいたのだろう、と言う。
だったら、宇宙飛行士もそうだし、政治家、外交官もそうだ。
大胆な決断を迫られる。
人類の進歩のため、宇宙開発のためと大義名分があるから、
一つの目的に集中できる。
これはすごい話だ。
だが今のサイコパスは「国のために」と思い、
そこに逃げ込むと何でもできると思っている連中が多い。
「素晴らしい日本」を批判する人には「反日だ!」と罵声を浴びせ、
執拗な嫌がらせをする。
写真をネットにアップして殺せと叫ぶ。
それをやっている人間は犯罪だと思わない。
良心の呵責も感じない。
むしろ国のためにいいことをやっていると思っている。
「愛国無罪」だ。
昔は「革命無罪」と言っていた人々がいた。
心は痛まない。
濃淡はあっても、首相から国民までがこの風潮の中にいる。
小説や映画の話ではない。
今の日本は、まるで「サイコパス列島」だ。
「サイコパス」文春新書 中野信子著
MLホームページ: http://www.freeml.com/uniting-peace