今回の福島原発事故の主因は巨大津波によるものである。
本事故に関連した書籍は千冊にものぼるとされるが、「巨大津波は予測されていたのか
?」という疑問を、事実に基づいて解明したのは本書だけである。
著者は理系出身の元記者とのことで、冷静に書かれており、津波予測を無視した経緯を
学者にインタビューした記録は秀逸である。しかし、こんな学者に命を預けていたかと
思うと腹立たしい限りである。
1)1999年に国土庁等から出された「津波対策強化の手引き」を基に、2000年に東電は
「福島第一原発の津波高さは5mとなり、 解析の不確かさ上限の2倍では10mの津波と予
測され、6mで海水ポンプが停止する(つまり最終的には炉心溶融に至る)」との報告書
を電気事業連合会の場に出した。
また、この結果を無視するために、土木学会を利用した経緯も書かれている。
2)2002年に文部科学省・地震調査研究推進本部が出した福島沖の地震予測を基に、20
08年に東電は「福島原発で15.7mの津波が予測される」という結果を得ていた。
このこと自体は政府事故調査報告書にも記載されているが、これが無視された経緯を本
書は明確にしている。
福島原発事故の調査報告書は10種類にのぼるが、著者が津波分野を担当した国会事故調
査報告書を除き、上記疑問とそれが無視された経緯を解明した報告書はない。
とりわけ酷いのが最後に出された日本原子力学会の事故調査報告書であり「2011年まで
の予測は最大6mの津波だった」とあり「福島原発への巨大津波を世界中で誰も予測して
いなかった(から仕方が無い?)」とも取れる。
「原発と大津波 警告を葬った人々」岩波新書
MLホームページ: http://www.freeml.com/uniting-peace