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残業上限「月100時間」 政労使合意 これは「過労死の合法化」だ by limitlesslife
March 28, 2017, 6:10 am
Filed under: アベノミス

電通の新入社員の過労自殺で、残業時間の上限規制は安倍晋三内閣の重要課題に。「月100時間未満」などとする政府案に、経団連の榊原定征会長、連合の神津里季生会長は合意したが、労働者からは反対の声が上がる

 批判の声が収まらない。政府が今月、長時間労働の是正策として「残業時間の上限は繁忙期には月100時間未満」と定めたことにだ。「働き方改革」は安倍晋三首相肝煎りの政策だったはずなのだが……。背景を探ると、政権の本音が浮かび上がる。【小林祥晃】

「月80時間でも危ない」と弁護士/政府の「働かせ方改革」なのか…

 「月100時間の残業は、人が死ぬかもしれない労働時間。死ぬまで働けと言っているのと同じだ」

 東京・永田町の参院議員会館で15日に開かれた緊急集会。過労死した会社員の遺族や、弁護士ら約200人が集まり、今回の決定に反対の声を上げた。参加者の手元には、2015年に過労自殺に追い込まれた電通社員、高橋まつりさん(当時24歳)の母幸美さんのアピール文があった。その一文にはこう記されていた。「月100時間働けば経済成長すると思っているとしたら、大きな間違いです」

 安倍首相が経団連の榊原定征会長と連合の神津里季生会長を首相官邸に呼び、異例の「首相裁定による労使合意」を発表してわずか2日後。これほどの反発を招いたのはなぜか。

 集会を主催した日本労働弁護団の幹事長で過労死問題に取り組んでいる棗(なつめ)一郎弁護士はこう憤る。「政府の目指した上限規制の目的は、過労死を二度と繰り返さないことだったはず。ならば、過労死ラインを大幅に下回るものでなければならないのに、『月100時間』では従来の基準と変わりません。これでは過労死の合法化です」

 「過労死ライン」は、労働者が脳・心臓疾患で死亡したり健康障害を負ったりした場合に使われる労災認定基準だ。業務との因果関係が強いと評価する具体的な基準としては「発症(死亡)前の2~6カ月間の残業が月平均80時間超」「発症前1カ月間の残業が100時間超」の二つがある。今回の上限は、これらを踏襲したものだ。

 ただ、このラインは目安に過ぎず、実際に月80時間に至らなくても労災認定された事例は数多くある。棗弁護士は「月45時間を超えれば業務との関連性が強まるとされています。月80時間でさえ、あってはいけない数字なんです」と話す。

 たとえ労災認定されても、補償は十分でないことも多く、損害賠償訴訟に至ることは多い。棗弁護士はこういった裁判への影響を懸念する。「月80時間台の残業をさせていた企業に『安全配慮義務違反』として賠償を命じた判例は少なくありません。しかし今後、法律に100時間と明記されると、企業側は『法律の範囲内だ』と主張してくるでしょう。その時、裁判所は今までと同じ基準で判断を示すことは難しいのではないか」

 今回の決定に、過労死を防ぐ実効性はないと見ているのは「全国過労死を考える家族の会」兵庫代表の西垣迪世(みちよ)さん(72)だ。大手電機メーカー子会社のシステムエンジニアだった長男和哉さんが03年、長時間労働でうつ病を発症。休職と復職を繰り返し、06年に薬を大量に飲み、亡くなった。労災と認められた裁判の記録を手にこう話す。

 「うつ病を発症する直前の03年4~9月の残業は、1カ月平均97時間でした。しかし、最も忙しかった6月後半~7月前半の『変形1カ月』に限ってみると、150時間を超えていた。上限規制を作っても、会社側にはさまざまな抜け道が残るのではないでしょうか」

 こんな「危ない」上限規制には、連合の加盟組織からも不満が漏れる。管理職や非正規労働者の労働組合で作る全国コミュニティ・ユニオン連合会(全国ユニオン)会長の鈴木剛さんは「罰則付きの上限規制自体には賛成だが……」と前置きし、こう訴える。「80時間未満の残業でも、組合員が次々と倒れている。会社との交渉や裁判に当たっている立場としては、100時間なんて到底認められません」。他の加盟組織にも「なぜ認めたのか」の声は根強い。

 長時間労働の是正は「働き方改革」を掲げる安倍首相にとって、どうしても成果を上げたい政策の一つだ。今年1月20日の施政方針演説では、高橋さんの事件に触れ、<二度と悲劇を繰り返さないとの強い決意で、長時間労働の是正に取り組みます>と労基法改正に向けた意欲を示した。また2月21日には、幸美さんと官邸で面会。娘を失った母の話に涙ぐみ、法改正への意気込みを改めて語った。そこまでの思い入れがありながら、なぜこのような、実効性に疑問がある政策を打ち出したのか。

 雇用や貧困の問題に詳しい竹信三恵子・和光大教授は、安倍政権のやり方について「票を持つ有権者の支持を取り付けるため『初の罰則付きの上限規制』という良い面をアピールしつつ、経済界のニーズに沿って実質的には基準を緩めてしまう。巧妙です」と批判。「過労死を何とかしなければ、という空気に乗じる形で、最大月100時間の残業にお墨付きを与えてしまうのは、火事場泥棒のようなものではないか」と語る。

 アベノミクスの成果として正社員の増加が挙げられ、労働環境が改善しているかのように強調されるが、これも実態と懸け離れているという。「『正社員だから強く拘束されるのは当然だ』として、極端な長時間労働を強いられ、時給ベースでは低賃金化する『名ばかり正社員』が少なくないのです」

 竹信さんは近著「正社員消滅」で、「正社員であることが、安定と安心の生活を担保しなくなった」という意味で、今は正社員消滅の時代だと論じた。「こんな環境で、法律に月100時間という上限が書き込まれれば『正社員なら月100時間残業して当然』という考え方が広がりかねない。これでは『正社員』の消滅に向けて一歩前に進むようなものだ」と心配する。

 「月100時間の残業」への怒りは広がっている。「僕たちには遊ぶ時間も、恋をする時間も必要だ」。東京・大手町の経団連会館前で16日夜、約100人の若者らが「過労死させるな、命を奪うな」などとシュプレヒコールを上げた。格差社会の是正や最低賃金の引き上げなどを求め、デモやトークイベントなどを実施している市民団体「AEQUITAS(エキタス)」が呼び掛けた活動だ。メンバーの宮鍋匠さん(39)はこう話す。「安倍首相も経済界も、規制に縛られずに働かせることによって生産性や競争力を高めたいのでしょうが、それより働く人の不安を払拭(ふっしょく)し、人間らしい生活を送れるようにすべきです。そうでなければ生産性が上がるどころか、景気回復もせず、少子化だって改善しませんよ」

 政府の進める「働き方改革」は、やはり「働かせ方改革」なのではないか。

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