世界全体で協調し、地球温暖化対策に取り組むことを定めたパリ協定に逆行する行為だ。世界第2の温室効果ガス排出国の責任が問われる。 トランプ米大統領は、火力発電所が排出する二酸化炭素(CO2)の大幅削減を義務づけた「クリーンパワー計画」など、オバマ前大統領が進めてきた温暖化対策を全面的に見直す大統領令に署名した。
石炭産業復興などを掲げた選挙公約に従い、環境より雇用を優先する立場を鮮明にした。米国は昨年11月に発効したパリ協定の下で、温室効果ガスの排出を2025年に05年比で26~28%削減すると約束していたが、達成は難しくなった。
だが、協定発効で、脱炭素社会に向かう世界の流れは加速している。各国はトランプ政権の身勝手な対応に踊らされず、団結して、温暖化対策に取り組んでいくべきだ。
クリーンパワー計画は米国の大気浄化法に基づく。大統領令だけでは撤回できず、見直しの行政手続きに相当な時間がかかる。ニューヨークやカリフォルニアなど温暖化対策に熱心な17州は、大統領令に反対して連邦高裁に提訴した。
そもそも、米国の石炭産業の衰退は市場原理に従ったものだ。米国内では、石炭火力発電はガス火力発電よりコストが高い。再生可能エネルギーも低コスト化が続き、この分野の雇用者数は石炭産業を上回る。
ティラーソン国務長官が会長兼最高経営責任者(CEO)を務めた米石油大手、エクソンモービルはパリ協定残留を求める書簡を先月、トランプ氏に送った。米国でも、世界でも脱炭素化の流れを競争力向上につなげようという企業が増えている。
米国が温暖化対策を巡る国際交渉で主導権を手放せば、相対的に中国やインドなど新興国の存在感が高まる。両国は温暖化対策を環境対策や産業振興策とも位置づけており、取り組みが後退するとは考えにくい。
今回の大統領令はそうした現状認識を欠いている。温暖化対策の後退は、むしろ、米国の国益を損なうと考えるべきなのだ。
日本は温室効果ガスを50年に8割削減する長期目標を掲げる。各国と連携して米国に軌道修正を働きかけるためにも、自らの目標達成に向けた道筋をしっかり描く必要がある。