大切なのは議論した時間ではなく中身だ。言うまでもない。打ち切りの話がいま出ること自体、人々を愚弄(ぐろう)するものだ。

共謀罪」法案をめぐる対応である。自民、公明両党は衆院での審議を来週半ばで終わらせ参院に送る方針を固めた。審議時間が、あと2回法務委員会を開けば、与党がめどとする30時間になるからだという。月末の主要国首脳会議に首相が出席する前に、衆院を通過させておきたい思惑もあるのだろう。

採決に向けた環境を整えるため、法案を一部修正することで日本維新の会とも合意した。だが、金田法相による答弁ペーパーの棒読み、副大臣との見解の食い違い、委員会運営をめぐる混乱が重なり、法案に対する理解は一向に深まっていない。

たとえ犯罪が実際に行われなくても、仲間と計画し、準備に動いた段階で処罰できるようにするのが、この法案だ。

「準備」とはどこまでの行為をさすのか。捜査当局の判断次第で取り締まりの範囲が広がる恐れはないか。人の心の内にまで踏み込む捜査がなされるのではないか――。組織犯罪対策の必要性は理解しながらも、多くの人が懸念をもっている。

委員会に出席した安倍首相は「不安を抱かれることのないよう、捜査の適正確保に向けて政府としてしっかり取り組む」と答えた。ところが岐阜県警が市民運動を監視していた問題への対応を問われると、「一般論として警察は法令に基づき、適切に職務を遂行している」と逃げの姿勢に終始した。

風力発電施設の建設に反対する市民や、その知り合いというだけで活動には関与していない人の氏名、学歴、病歴、健康状態などを県警が集め、電力会社側に数回にわたって伝えていたという、驚くべき事案である。

真相を解明し、謝罪し、関係した警察官や幹部を処分し、再発防止策を講じて初めて、「しっかり取り組む」という答弁も信用できるというものだ。

そうでなくても森友学園をめぐる問題で、公務員としての倫理や節度もかなぐり捨てて、強弁を重ねる政府の姿を、国民は連日のように目の当たりにしている。「政府を、捜査機関を信用しなさい」「犯罪とは無縁の一般人は心配しなくていい」とただ繰り返しても、受け入れられるはずがない。

法律そのものの必要性や、処罰対象となる犯罪の種類・数の当否などについても、疑問は依然として残ったままだ。

このまま採決に突き進むことなど、およそ許されない。

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