明治憲法に地方自治の条項はなかった。国が知事を任命するなど、徹底した中央統制のもとで国全体が戦争に突き進んだ。

その反省から、日本国憲法は第8章に4条の条文を設けて、中央の権力から自治体が自立することをめざした。

自治体は行政権と立法権をもつ「地方政府」として、中央政府と向き合う形になった。

中央政府は主に全国規模の課題に権限を持ち、地方政府はそれぞれの地域やくらしに根ざした仕事と権限を担う。「地方自治は民主主義の最良の学校」といわれるのも、住民により近い自治だからこそ、参加しやすく、学ぶことが多いゆえだ。

公権力を国と地方に分散し、抑制と均衡を働かせることで乱用を防ぎ、人権を守る。それも憲法に込められた精神である。

憲法を具体化するための地方自治法は、憲法と同じ日に施行された。

70年の節目に、改めて問う。地方自治は機能しているか。

答えは残念ながら、不十分だと言わざるをえない。

■息切れする分権改革

1960年代には「革新自治体」が相次いで誕生した。70年代には先進的な自治体が国に先んじて施策を競い合い、「地方の時代」と呼ばれ始めた。

一方で「3割自治」とも言われ続けた。自主財源は3割ほど、仕事も国に指図される機関委任事務が多かった。ほとんどの自治体が各省庁の補助金をあてにし、戦前からの中央集権構造にどっぷりつかっていた。

事態が動き出したのは、自民党長期政権から、分権改革を唱えた細川連立政権に交代した93年である。

衆参両院が地方分権をすすめる国会決議をした。「東京への一極集中を排除」して、「中央集権的行政のあり方を問い直し」、「時代にふさわしい地方自治を確立」すると明記した。

選挙制度改革などとともに、東西冷戦後の国の統治機構を見直す動きの一環だった。

住民の要望は多様だ。国が画一的な政策で全国一律に対応するより、住民に近い自治体に判断を委ね、責任を持たせた方が効果的で効率的だと考えられた。そして分権改革の最大の成果である機関委任事務の廃止が2000年に実現した。

政府と自治体の関係は「上下・主従」から「対等・協力」に変わった。中央集権構造の解体の始まりを告げる「地方自治の夜明け」――のはずだった。

だが、いま分権改革は息切れしている。いや、むしろ逆行しているようにさえ見える。

安倍政権の集権回帰

象徴は、安倍政権による「地方創生」である。

首相は「地方の自主性」を強調するが、実態は国主導だ。

自治体が目標値を明記した計画を提案し、スポンサーである国が採否を決める。これでは判定者の国が自治体の上に立つ。主従関係そのものだ。

分権改革の先行きは明るいとは言えない。理由は二つある。

ひとつは、安倍政権に地方自治を軽視する傾向が見られることだ。米軍普天間飛行場の移設をめぐる、沖縄県への強権的な姿勢がその典型だ。

5年前に自民党がまとめた改憲草案も、自治体の権限や自主性を弱めようという意図が透けている。

たとえば、地方自治は「住民に身近な行政」を旨とするという一節を書き込む点。それと憲法が認める自治体の財産管理権や行政執行権を削除する点だ。

自治体を国から与えられた仕事をこなす下請け機関に押しとどめ、中央集権への回帰をめざす方向性が見て取れる。

「安倍1強」のもと、ただでさえ、行政府に対する立法府の歯止めが効きにくいのに、これでは地方のチェック機能も弱体化しかねない。

改革に展望が見えない二つめの理由は、自治体側に中央依存体質が残っていることだ。

国の旗振りに応じ、全国各地で画一的なプレミアム商品券発行に走る。まちづくりの計画立案をコンサルタントに丸投げする……。地方行政が「お任せ」を続けているうえ、地方政治では議員の政務活動費の乱費が後を絶たない。これでは国と対等に渡り合えるはずもない。

■自治体も意識改革を

人口減少による地方の疲弊に目を向ければ、従来の国主導の手法の限界は明らかだ。自治体の側が主導する意識改革が欠かせない。

振り返れば、公害対策も福祉政策も景観問題も情報公開も、自治体が国より先に政策をつくってきた。原発事故後は、自然エネルギー開発の先陣を切る自治体も多い。

地域の課題は地域の力で解決する。そんな社会をつくるには財源や権限を思い切って自治体に渡し、役割と責任を拡充する必要がある。

そうやって地方自治を成熟させることが、住民が主役のまちづくりの土台になる。

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