衆参両院で3分の2を超える自民、公明、維新など「改憲勢力」の数の力で、安倍首相が提案した憲法9条改正を発議させる――。そうした構図が見えてきた。

首相は先週末、自民党憲法改正推進本部の保岡興治本部長に対し、衆参の憲法審査会に提案する案のとりまとめを急ぐよう指示した。それに先立つ同本部の幹部会では首相補佐官が、自公維による国会発議が首相官邸の意向だと発言したという。

一連の首相の指示は二つの意味で筋が通らない。

ひとつは、憲法改正を発議する権限は国会にあるということだ。行政府の長である首相が自らの案を期限を切って示し、強引に動かそうとするなら、「1強」の暴走と言うしかない。

二つ目は、衆参の憲法審査会で現場の議員たちが培ってきた議論の基盤を崩すことだ。

憲法改正原案を審査する役割を持つ憲法審は、2000年に設置された旧憲法調査会以来、小政党にも平等に発言機会を認めるなど、与野党協調を重んじる運営を続けてきた。

憲法は国の最高法規だ。通常の法案や予算案以上に、その扱いには幅広い政党間の合意形成が求められる。

だからこそ憲法審の議員たちは、与野党を超えた合意づくりを心がけてきた。その関係を、首相が壊したのは今回が初めてではない。

第1次政権だった07年の年頭会見で「憲法改正を私の内閣でめざしたい。参院選でも訴えたい」と表明。与野党の協調ムードを踏みにじった。

それでも首相の前のめり姿勢は変わらない。12年末には改憲の国会発議のハードルを衆参の3分の2以上の賛成から過半数に下げる96条の先行改正を持ち出し、野党や世論の反発を受けて封印した。

改憲にこだわる首相の姿勢と国民の思いには落差がある。

本紙の世論調査では、今回の首相の改憲提案を47%が「評価しない」とし、「評価する」の35%を上回った。首相の言う9条改正についても「必要ない」が44%で、「必要だ」は41%だった。民意は二分されている。

首相に一番力を入れてほしい政策を聞くと、社会保障29%、景気・雇用22%と続き、憲法改正は5%に過ぎなかった。

憲法改正は、多くの国民が必要だと考えた時に初めて実現すべきものだ。

首相の意向だからと、世論を二分する改正を数の力で押し通せば、国民の間に深い分断をもたらす恐れがある。