自衛隊制服組トップとして、軽率すぎる発言である。

「一自衛官として申し上げるなら、自衛隊の根拠規定が憲法に明記されるのであれば非常にありがたいと思う」

河野克俊統合幕僚長が、安倍首相が自衛隊の存在を憲法に明記する改正に言及したことについて問われ、そう語った。

河野氏は「憲法という非常に高度な政治問題なので、統幕長という立場から言うのは適当でない」とも述べていた。菅官房長官は個人の見解であり、問題ないというが、同意できない。

自衛隊法は隊員の政治的行為を制限している。同法施行令はその具体例として、政治の方向に影響を与える意図で特定の政策を主張したり反対したりすること、などをあげている。

服務の宣誓では、すべての隊員が、憲法順守や政治的活動に関与しないことなどを誓う。

首相のめざす改憲が実現すれば、隊員がより誇りをもって任務を果たせるようになる――。河野氏はそう考えたのかもしれない。だが、それを公の場で発言するのは話が別である。

かりに河野氏が一自衛官だとしても、法令を順守すべきなのは当然だ。一般の公務員でも、休日に政党のビラを郵便受けに配っただけで、国家公務員法違反の罪に問われた例もある。

まして同氏は20万人を超える自衛官を率いる統幕長である。首相の改憲提案は、与野党にも国民にも複雑な波紋を広げている、極めて政治的なテーマでもある。これに賛意を示すような発言は、政治的な中立性を逸脱すると言われても仕方がない。

9条をどう改めるのか、集団的自衛権の扱いをどうするのか、議論の行方は分からない。

自衛隊の将来像が見通せないなかで、隊員の命を預かる統幕長が、首相の政治的主張を後押しすると受け取られる発言をするのは軽はずみのそしりを免れない。

安倍政権制服組の積極的な活用を進めてきた。河野氏は頻繁に首相と会い、軍事的な助言をする立場だ。そうしたなかで政治との距離感を見失っているとすれば、文民統制の観点からも見過ごせない。

河野氏は、南スーダン国連平和維持活動(PKO)に派遣された陸上自衛隊の日報をめぐって事実上、「戦闘」の言葉を使わないよう指導したと語り、批判を浴びたこともある。

災害救援などを通じて、自衛隊は幅広い支持を得てきた。河野氏の言動は、長い時間をかけて隊員たちが培ってきた国民の信頼を傷つけかねない。