これでもなお否定し続けるのか。政権の姿勢は政治不信を深める以外の何物でもない。

安倍首相の友人が理事長を務める加計(かけ)学園の獣医学部新設をめぐり、文部科学省の前事務次官・前川喜平氏が朝日新聞の取材に、「総理のご意向」などの記載がある一連の文書は本物だと証言した。きのうの記者会見でも同じ説明をした。

ところが菅官房長官は怪文書扱いを変えず、さらには、今年発覚した文科省の天下り問題を持ちだし、前川氏に対する激しい人格攻撃を始めた。

問題をすり替えてはいけない。事務方トップだった人物が「行政をゆがめられた」「圧力を感じなかったと言えばうそになる」と発言している。国家戦略特区という政権の目玉政策に重大な疑義が生じているのだ。

あの文書は何なのか。「ご意向」「官邸の最高レベルが言っている」とはどういうことか。

解明するのは、政府の、そして国会の責務である。にもかかわらず、野党が求めた前川氏の国会招致を自民党は拒否した。行政府をチェックするという、立法府に課せられた使命を放棄したふるまいだ。

文書の信頼性を裏づけるのは前川氏の話だけではない。元自民党衆院議員で日本獣医師会顧問の北村直人氏も、自身の発言として記録されている内容について「事実」と述べている。政府はこれにどう答えるのか。

菅官房長官国家戦略特区を「規制の岩盤にドリルで風穴を開ける制度」だという。その意義はたしかにある。だが、獣医学部設置をめぐっては疑問点がいくつか浮上している。

全国の獣医学系大学の入学定員は40年間、930人に据え置かれてきた。それを160人増やす構想にもかかわらず、獣医師がどの程度不足しているのか、どんな人材が必要なのか、十分なデータも説明も示されないまま認可を求められた。前川氏はそう話している。

応募できる要件を「広域的に獣医師の養成大学がない地域に限る」としたことについても、内閣府には多くの疑問の声が寄せられていた。結果として、応募を検討していた他の大学は撤退を余儀なくされた。

そのときそのときの政権や政策への賛否はある。高度の政治判断が求められる場合も、もちろんあるだろう。しかしそれが人びとに受け入れられるのは、公正・公平な行政のルールが貫徹されていてこそだ。

このままほおかむりを続けることは許されない。国政に対する信頼の根幹がゆらいでいる。

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