Global Ethics


【書評】壊れゆく世界へのメッセージ by limitlesslife
May 28, 2017, 10:56 am
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【書評】壊れゆく世界へのメッセージ

「娘に語る人種差別」 ターハル・ベン・ジェルーン著 松葉祥一訳

本紙書評委員 板垣雄三(東京大名誉教授)

顔つき・言語・宗教・習慣・出身地などが自分と違うと感じる相手を
警戒し軽蔑し排斥する人種差別が、人類の運命に関わる大問題となっている。

米国ではトランプ政権が登場。
EUの未来も、英国離脱や仏大統領選など移民問題で大揺れ。
世界中で、社会の分断と憎しみ合いが拡大している。

モロッコ出身のアラブ人だが、現代フランス語文学を代表する作家
ターハル(これが正しい発音)・ベン・ジェルーンが、
10歳の娘メリエムの質問に答えて、人種差別とは何か、どうしたら
それはなくせるかを説明する原著を世に問うたのは、1997年だった。

だが、それから20年、本書は欧州でベストセラーとなり
評判の本だったというのに、人種差別は厳しさを増すばかり。
その大津波が地球を呑(の)み込もうとするのは、どうしてか。

日本で追いかけて出た翻訳も読み継がれてきたが、
こんど2度目の新々版が刊行された。
壊れゆく世界と向き合って、本書のメッセージを考えなおしてみるには、
絶好のタイミングだ。

すでに邦訳されてきた著者の多数の作品が示す独特の詩情や構成力と比べて、
本書の印象はいささか異なる。
幼い娘との対話は、目配りより直情径行が勝つ感じ。
だから、付録に収録された子どもたちからの批評にあるように、
人種差別が起きる現場ではどうするか答えてくれない、という不満も出る。

それでも著者は、断固、子どもたちの教育にだけこだわる。
人種差別を身に付けて誕生する赤ん坊はいない。
成長につれ悪に染まる。
著者はリベラルなイスラム教徒だが、
イスラムの教え通り人間の本性を善と観(み)る。
若者は、大人の病気に感染せず、「差異こそ豊かさ・
他者の尊重こそ生命への敬意」ということを学ぶべきだ、と言う。

これは、差別の愚かしい現実に対して著者がいだく絶望の深さの表れだろう。
ヘイトの悪口雑言、沖縄での機動隊の「土人」呼ばわり、
震災復興大臣の本音など、聞く私たちの空(むな)しさ・やりきれなさ
に照らしてみれば、それは決してよそ事ではなさそうだ。

(青土社、1512円)

著者は1944年、モロッコ生まれ。哲学者、ジャーナリスト、作家。
母国で哲学教師を務めた後、パリで博士号取得。
著書に「聖なる夜」「砂の子ども」「火によって」など。

信濃毎日新聞 2017年5月28日

MLホームページ: http://www.freeml.com/uniting-peace

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