ちゃぶ台をひっくり返すような、信じがたい発言である。

安倍首相が先週末の講演で、国家戦略特区を使った獣医学部の新設について、「地域に関係なく、2校でも3校でも、意欲のあるところにはどんどん認めていく」と語った。

親友が経営する加計学園を優遇したのではないか――。

この深まるばかりの疑惑から国民の目をそらしたい。競合校にも参入を認めれば文句はないだろう。そんな安直な発想と、いらだちが透けて見える。

特区とは、まず地域限定で規制改革を試し、その効果を検証したうえで全国に広げていくものだ。1校目が開学もしないうちから「すみやかに全国展開をめざしたい」(首相)など、手続き無視、整合性なしの暴論そのものだ。

政権内にもずれがうかがえる。首相発言をめぐる記者の質問に対し、菅官房長官は、今後の獣医学部新設は「4条件に照らし、整合的かどうか検討することになる」と述べた。

4条件とは、獣医師全体の動向や、獣医師が対応すべき生命科学など新分野での具体的な需要見込みを指す。新設の検討に入る前提として、安倍内閣の下で2年前に閣議決定された。

首相発言は、この4条件をみずから否定するのに等しい。官房長官の見解との食い違いをどう説明するのか、はっきりさせてもらいたい。

前川喜平・前文部科学事務次官は、4条件が満たされているという明確な根拠が、農林水産省からも厚生労働省からも示されないまま、内閣府主導で手続きが進んだとして、「行政がゆがめられた」と訴えた。

この指摘を受けて、当時の決定過程を検証し、ただすべき点はただす。それが筋であり、国民が強く求めるところだ。

だが首相や周辺は、「規制改革派」と「抵抗勢力」の対立が生んだ問題として片づけようとしている。それはすり替えでしかない。新設学部には多額の公費が投じられ、成否は学生の将来にも影響を及ぼす。規制緩和は是としても、事前に需要を吟味するのは当然必要だ。

首相以下、政権の主立った人々は、口では「丁寧な説明」と言いながら、文科省で見つかった一連の文書について説明責任を果たそうとしない。国会を閉じることをひたすら急ぎ、閉会中審査にも、憲法に基づいて野党が要求した臨時国会の召集にも、応じるそぶりを見せない。

このままでは疑惑が晴れることはなく、民心は離れる一方だと知るべきだ。

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