東京都議選は2日、自民党が歴史的敗北を喫した。国政での自民党優位は動かないが、選挙戦では安倍晋三首相の政権運営が問われたこともあり、首相の求心力が低下するのは必至。政権幹部らは首相の責任問題との切り離しに躍起だが、自民党内では首相への批判勢力が声を上げ、野党は政権批判を強める構えだ。

■加計問題・稲田氏演説…「自滅」

2日夜、東京都新宿区フランス料理店で麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官甘利明元経済再生相と約2時間の会食を終えた首相は記者団の呼びかけには答えず、左手を上げたまま無言で立ち去った。

出席者によると、会食では都議選について「結果は予想以上にひどい」との認識で一致。ただ「首相の責任問題にはならない」「国政への影響はない」「経済優先でいくべきだ」と語り合い、「みんなで首相を支える」と確認したという。

麻生、菅、甘利3氏は、第2次安倍政権の発足から甘利氏が現金授受問題で閣僚を辞任するまで政権中枢を担ってきた。今回の大敗は、その政権「原メンバー」が一堂に会さねばならないほどの衝撃だった。

選挙結果に、党内からは「想像を絶する状況だ」(ベテラン議員)。石破茂・前地方創生相は「都民ファーストが勝ったというより自民が負けた。自民にプラスになることが何もなかった」と分析。柴山昌彦首相補佐官も「自民党の自滅。おごりや危機管理に問題があった」と語った。

閣僚経験者の一人は、不祥事や疑惑を引き起こした閣僚や政権幹部の名前を挙げながら都議選惨敗の要因を総括してみせた。「THIS IS 敗因。Tは豊田、Hは萩生田(はぎうだ)、Iは稲田、Sは下村」

加計(かけ)学園をめぐる問題について、首相は先月19日の記者会見で「対応が二転三転し、国民の不信を招いた」と釈明。「指摘があればその都度、真摯(しんし)に説明責任を果たしていく」と述べた。だが、萩生田光一官房副長官の「指示」を記した新文書が明らかになり、野党が閉会中審査や臨時国会開会を求めても、政権はいずれも応じなかった。

22日には自民党の豊田真由子衆院議員の暴言・暴行疑惑を週刊新潮が報じた。さらに、首相が重用してきた稲田朋美防衛相が27日、都議選の応援演説で「防衛省、自衛隊としてもお願いしたい」などと発言。29日には、週刊文春が首相に近い下村博文・党都連会長をめぐる加計学園絡みの献金疑惑を報道した。

首相が主導する「安倍1強」は「結果を出すこと」にこだわり、国会では議論を途中で打ち切る採決強行を多用した。自民の中堅議員は、自民大敗の原因をこう分析する。「加計問題などによる一時の突風ではなく、安倍政権の強引な手法という根源的な問題によるのではないか」

ログイン前の続き■改憲・総裁選、不透明に

都議選の惨敗で、自民党内では首相と距離を置く議員らの反発が強まるのは必至だ。「安倍1強」を背景に進めてきた政権運営も練り直しを迫られそうだ。

まずは首相が悲願とする憲法改正だ。「臨時国会が終わる前に衆参の憲法審査会に提出したい」。首相は先月24日の講演で、自民党の改憲原案を秋の臨時国会に提出する考えを示した。

首相は発議後の国民投票を次の衆院選と同日に行う日程も想定する。ただ、船田元・自民党憲法改正推進本部長代行は2日夜、朝日新聞の取材に「自民案を押しつけることは国民の反発を受ける可能性がある。これまで以上に公明党や野党との対話を重視し、丁寧に手続きを進める必要がある」とコメント。都議選大敗で党内には慎重論が広がりそうで、首相周辺は「憲法改正の戦略は出直して考えざるを得ない」と話す。

来年9月の党総裁選での「3選」への道のりも険しくなりそうだ。「安倍首相の後は安倍首相」(二階俊博幹事長)と3選を確実視する見方が強かったが、政権の経済政策に批判的な議員の勉強会が5月に立ち上がるなど、政権中枢と距離を置く動きが顕在化。衆院ベテラン議員は「第1次政権では参院選に負けて『安倍おろし』が始まった」と語り、都議選惨敗で首相の求心力低下は必至だ。

局面を打開する最初の試金石となりそうなのが、8月中にも検討されている内閣改造・党役員人事だ。

首相は当初、これまでと同様に側近らで党や内閣の要職を固め、憲法改正経済政策を推進する構想を描いていた。ただ、最側近の稲田防衛相や萩生田官房副長官に批判が集中。政権中枢の強硬姿勢にも都議選で疑問符がついた。イメージの刷新を優先し、政権中枢を含む大幅な人事に踏み込む可能性もある。

ただ、自民党の幹事長経験者は「求心力が落ちている時の人事は鬼門だ」と指摘する。安倍内閣ではこれまで、改造で起用された新閣僚らに失言や不祥事が相次いで生じた経緯もある。閣僚経験者は「こういう状況では、内閣改造自体がリスクになりかねない」と話している。

■公明、増す存在感

「ポスト安倍」と目される候補たち。岸田文雄外相ら自民党岸田派の幹部は2日夜、都内の事務所に集まった。「今は憲法9条の改正は考えない」と語っていた岸田氏。都議選が憲法改正に与える影響を記者団に問われると、「信頼回復への努力から始めなければならない」と語る一方、「具体的な政策の行方は、その結果だ」と含みを残した。

石破氏は朝日新聞の取材に「党本部は関係ないとはならない。負けたことを総括しないと次も負けるぜ」。別の石破派幹部は「すべては安倍さんが招いた」と首相を批判した。

野田聖子・元総務会長は取材に「批判、失望、積もった思いの表れだ。かけ声や勢いで政権を運営してきたが、国民の声を聞いて出直すしかない」と述べた。

首相自らを直撃した加計学園問題で内閣支持率が下がり、都議選敗北に直結。ある党幹部が「『安倍おろし』の声が出るかもしれない」と漏らすように、「安倍1強」下で抑えられてきた首相批判が表に出やすくなることは確実だ。

都議選で自民とたもとを分かった公明党との関係も変質しそうだ。首相官邸は、これまで集団的自衛権の行使を認める憲法解釈変更やカジノ法など公明が嫌がる政策を押し切ってきたが、次の衆院選で共闘を強める野党を迎え撃つにはこれまで以上に公明との選挙協力が不可欠だ。自民中堅はいう。「公明がいないと選挙に勝てないと分かった。公明の存在感が増す」

都議選の結果は「自民1強」が、自民以外の選択肢があれば簡単に崩れることを示した。国政では、政党支持率も堅調で、自民1強がすぐに崩れるわけではないが、野党は、大型選挙での「直近の民意」という武器を得た。政権がこれまで通り採決強行を繰り返すことは難しくなりそうだ。

■共産「野党共闘発展を」

「安倍1強」に苦しんできた野党勢は「安倍政権への不信任の選挙結果」と受け止め、攻勢を強める構えだ。次期衆院選に向けて野党共闘路線は加速する見通しだが、議席を減らし、退潮傾向に歯止めがかからなかった民進党内には「解党的出直し」を求める声も上がっている。

前回都議選や最近の国政選挙で議席増が続く共産党は、今回の都議選を「野党と市民の共闘を発展させる契機」と位置づけ、選挙戦では政権批判を展開した。同党の志位和夫委員長は3日未明の記者会見で、選挙結果について「大きな勝利だ。共闘を発展させていきたい」と強調。「安倍首相が進めようとする憲法9条改定に打撃になった。手を緩めることなく中止に追い込む」と意気込んだ。

民進、共産両党は今後、与党に対し、臨時国会の早期召集や加計学園の獣医学部新設をめぐる予算委員会閉会中審査開催などの要求を強める。また「昨年の参院選以来の野党共闘が東京でも具体化できた」(小池晃共産書記局長)として、次期衆院選に向けた選挙協力などを進める。

一方、民進は告示前に離党者が相次ぎ、「獲得議席ゼロの可能性もある」(党幹部)とささやかれていた。形勢を立て直すため、選挙戦では街頭に党幹部を大量投入して政権批判を展開。同党の蓮舫代表は「日を追うごとに、立ち止まってくれる人が多くなった」。野田佳彦幹事長は3日未明、都内で記者団に「安倍政権にノーの意思が示された結果だ。わが党の追及に一定の効果があった」と振り返った。

通常国会で存在感を示せず、蓮舫氏は党内で求心力が問われていた。都議選で惨敗すれば、東京を地盤とする蓮舫氏が責任をとって代表を辞任すべきだとの声も出ていた。これに対し、野田氏は記者団に「これからも責任を果たしていきたい」と語り、蓮舫氏も周辺に続投への意欲を示した。

ただ、党内では「旧民主党が厳しかった前回と比べても、圧倒的に減らしている。態勢と戦略の見直しが必要だ」との声が上がっているほか、共産との共闘路線に否定的な声も根強い。共闘路線への反発から離党届を提出し、除名処分を受けた長島昭久元防衛副大臣の例もあり、「共産より小池知事と組みたい」と語る議員が少なくない。小池知事を支持する勢力による新党結成への合流論などもくすぶり、執行部には「民進も惨敗。楽観はできない」との指摘がある。

東京都議選安倍政権をめぐる動き

〈6月〉

15日 「共謀罪」法、与党が参院で委員会採決を省略し本会議で採決強行、可決・成立

18日 通常国会が閉会

19日 安倍晋三首相が国会閉会で記者会見。加計学園問題について「対応が二転三転し、国民の不信を招いた」と釈明

20日 加計学園問題で文部科学省萩生田光一官房副長官の指示などが記された新たな文書を公表

22日 豊田真由子・自民党衆院議員が男性秘書に暴言・暴行と週刊誌に報じられ、同党に離党届提出

23日 東京都議選が告示

27日 稲田朋美防衛相が都議選の応援演説で「自衛隊としてもお願いしたい」などと発言、終了後に撤回

29日 下村博文・自民党都連会長が「加計学園からヤミ献金」と週刊誌に報じられ、記者会見で反論

30日 二階俊博自民党幹事長が都議選の応援演説で「私らを落とすなら落としてみろ」などと発言

〈7月〉

1日 麻生太郎副総理が都議選の応援演説で「マスコミは言っているだけで責任は何もとらない」などと発言

1日 安倍首相がJR秋葉原駅前で都議選初の街頭演説。聴衆の一部から「辞めろ」「帰れ」のコールも

2日 都議選が投開票

■今後の主な政治日程

2017年7月7~8日 ドイツG20首脳会議

8月にも   内閣改造・自民党役員人事

臨時国会中  安倍首相が表明した自民党改憲原案提出期限

18年5月にも   築地市場の豊洲移転

9月30日   自民党総裁の任期満了

12月13日   いまの衆院議員の任期満了

19年春      統一地方選

夏      参院選

10月1日   消費増税(8%→10%)を予定

20年7~9月   東京五輪・パラリンピック