よく分かるドイツ型小選挙区比例代表併用制の仕組み――「選挙されない議席」を発生させるドイツ型併用制は成功例か

[転送・転載歓迎します。重複受信の際はご容赦ください。]

よくドイツの成功例として引き合いに出される小選挙区比例代表併用制ですが、本当にそうでしょうか。どうもドイツ型併用制はほどほどに理想的な選挙制度という評価が定着して、民主主義の発展に影響を及ぼす選挙制度についての論議に停滞をもたらしているように思われます。

ドイツ連邦議会の選挙制度は2011年以降に改定されました。私の立場からすると改悪です。ドイツの選挙制度改革を解説している国会図書館の資料と、選挙市民審議会第14回第2部門会議(2017年6月21日)で私が使った選挙制度比較表をご紹介しておきます。

ドイツの選挙制度改革(2)―小選挙区比例代表併用制のゆくえ― – digidepo_10188913_po_078701.pdf
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10188913_po_078701.pdf?contentNo=1&alternativeNo=

中選挙区比例代表併用制・中選挙区比例代表統合制・小選挙区比例代表併用制・参議院型並立制の比較
https://is.gd/HWSnJn

A4で2ページほどの(1)と(2)だけでもお読みください。

(1)分離的な定数枠/立候補者/持ち票構造による制限選挙

一般的に選挙制度がややこしく感じるのは、複数の要素の構造を一体的に把握しなければならないところにあります。立候補者がどの定数枠に立候補できて、有権者がどの定数枠や立候補者に投票できて、複数ある投票機能(投票先選択権、政党間議席数占有権、政党内当選者指名権など)のうちのどの機能を1票が持つのかなどを、同時に理解する必要があるからです。

ドイツ連邦議会の選挙制度は、州単位のブロック制による小選挙区比例代表併用制です。候補者の種別(政党か無所属か)とその種別の候補者に投票する有権者の種別の違いによって立候補権と選挙権の作用する定数枠が異なるのが特徴で、その結果として「選挙されない議席」が発生します。

比例名簿投票(拘束式州政党名簿への政党名投票)と小選挙区投票の1人2票制で、「仮総定数」の598議席が人口比に基づいて各州に割り当てられ、仮総定数の半分の299議席が小選挙区に割り当てられます。政党の仮総獲得議席<数>(誰が当選するかは確定的には決まらない)を決めるための比例名簿投票では仮総定数の全体の598議席をめぐって争い、政党の仮総獲得議席<数>の<約半分の議席>と無所属候補の<全議席>を<どの候補者に与えるか>を決めるための小選挙区投票では仮総定数の半分の299議席をめぐって争います。

無所属候補は小選挙区からしか立候補できない一方で、政党の小選挙区候補者は比例名簿にも登載されます。無所属候補か政党候補かで立候補できる定数枠が異なり、無所属候補の立候補権が制限されます。また、小選挙区投票で無所属候補を当選させた(が名簿投票で政党を支持することなどもあり得る)有権者の比例名簿投票での1票は無効化され、選挙権が制限されます。ところが、小選挙区投票で政党Aの候補者、比例名簿投票で政党Bに投票する異党派投票は有効とされます。

以上の「分離的な定数枠/立候補者/持ち票構造」は、制限選挙の規定にほかなりません。ドイツ型併用制の最大の欺瞞です。次に「選挙されない議席」の中身を説明します。

(2)政党・無所属間の「投票価値の格差」は2倍超

奇妙なことに、小選挙区投票では無所属候補と政党候補が仮総定数598議席の半分の計299議席をめぐって争い、比例名簿投票では政党が仮総定数の598議席をめぐって争います。つまり、比例名簿投票では、仮総定数の598議席(小選挙区定数が含まれる)から無所属候補の当選者数を差し引いた議席を政党が争うのでなく、598議席丸々を政党が争います。さらに言い換えると、政党が598議席を確保する以外に、無所属候補の当選者数だけ議席が増えます(「598議席+無所属候補獲得議席」)。仮総定数の598議席は政党の独占枠にほかなりません。上掲の国会図書館資料を読む限り、このような解釈となります。

しかし、政党の獲得議席はこの598議席だけではありません。政党だけにさらに「超過議席」と「調整議席」が水増しされます。

政党の獲得議席は「原則」として、比例名簿投票での得票率に応じて仮総定数の598議席の範囲内で比例名簿から比例配分される議席ですが、小選挙区での獲得議席数が比例名簿投票による議席数を上回る大政党の場合、小選挙区での獲得議席数および当選者をその政党の獲得議席数および当選者とします。この規定によって「598議席+無所属候補獲得議席」からさらに水増しされる議席を「超過議席」と呼びます。

その結果、連邦レベルで政党間での得票率と議席占有率が一致しなくなるので、連邦レベルで一致するように各党に「調整議席」をさらに水増しして、一致するようにします。なお、調整議席は超過議席を得た政党にも配分されます。

結局、小選挙区投票で無所属候補を当選させた有権者の選挙権が及ぶのは小選挙区の299議席のみで(小選挙区投票で政党候補に投じる有権者もこの議席枠に選挙権を行使できる)、これらの有権者にとって「仮総定数598議席+超過議席+調整議席」は選挙されない議席であり、2倍超の投票価値の格差が生じます。

曲がりなりにも小選挙区投票で政党対無所属の得票率比が判明しても、それを無視して政党に議席が優遇配分されるため、議会における政党対無所属の勢力比は小選挙区投票における得票率比から著しくかい離したものとなります。2011年以来の改定によって調整議席制度が追加されたため、こうしたかい離が拡大しました。

(3)「1票の格差」と「投票価値の格差」

小選挙区という選挙地盤から見た場合、1選挙区から平均で2.X人が当選します。仮総定数の半分が小選挙区定数なので、1選挙区から平均で2人が当選する上に、政党への水増しで確定議席が増えるからです。1人から3人、場合によっては4人くらいの当選者が出るかもしれません。従って、「選挙区間での有権者数当たり議員数」は同じになりません。いわゆる「1票の格差」は選挙前にないとしても、選挙後に実質的に生じることになります。

しかし、「政党間での投票者数当たり議員数」は同じになり、「投票価値の格差」は発生しません。ドイツでは正当にも政党間での「投票の結果価値の平等」を追求している結果です。ただし、投票価値の平等は、政党に投じる有権者の間でのみ保障されるだけであり、無所属候補に投じる有権者は蚊帳の外です。

(4)ドイツ型併用制の歴史的背景

西平重喜の『比例代表制―国際比較にもとづく提案』(中公新書)からそのまま引用しておきます。

「このような混合式を採用した理由は二つある。ひとつは社民党と自民党が比例代表を提案し、ドイツ党は小選挙区二回投票制を考え、キリスト教民主同盟・社会同盟はイギリス式の小選挙区制を主張したことである。またイギリス占領地区の地方選挙はイギリス式小選挙区制で実施され、アメリカ、フランス占領地区では、比例代表制であった。したがってこの併用制は妥協の産物であって、この方法がすぐれているから採用されたものではないのである。
なおこの方法は一九二六年にフランスの社会党首ブルムによって提案されたが、採用されなかったということである。」

(5)候補者を選べる要素(地域代表性の保証)の演出

ドイツ大使館のサイトでは、小選挙区選挙の意義を次のように説明しています。

ドイツ大使館 ドイツ総領事館 – 連邦議会選挙
http://www.japan.diplo.de/Vertretung/japan/ja/05-politik/055-politik-in-deutschland/Bundestagswahl2013.html#topic8
「小選挙区では、第1票の最多得票候補が当選者となります。小選挙区で得た議席は、第2票によって割り当てられた議席数に関わらず有効で、小選挙区から直接選出された候補者には必ず議席が与えられます。これは、全国全ての地域が議会に代表を送り込むことを保証するためです。」

ドイツ型併用制の小選挙区投票で何が行われているかといえば、候補者の選択ではなく、その選挙区で強い大政党はどこかという当たり前の事実を再確認しているだけです。同一政党から1人しか立候補せず、同一政党内から複数の候補者を選べるわけではありません。小選挙区で当選できない大政党候補者は比例名簿投票で当選するだけであり、どうせ当選する大政党候補者を単にどこかの小選挙区に割り当てているだけです。第1区にA党a候補、第2区にB党b候補を割り当てようが、第1区にB党b候補、第2区にA党a候補を割り当てようが、有権者にとってはどうでもよいことです。

しかも、小選挙区の定数は仮総定数の半分です。全議席を非拘束式単純比例代表制などで選んでも、大政党から少数政党、無所属候補までのいずれかの候補者がほぼすべての小選挙区レベルの選挙地盤ないしそれより地理的に少し広い地域から選出されるので、地域代表性は保証されます。わざわざ候補者の半分を小選挙区選挙で選んでいるように見せかける必要はありません。

(6)不公正な選挙制度と極右勢力の台頭

既成政党が無所属候補に対する差別(仮総定数の政党独占枠、超過議席、調整議席)と新興勢力に対する差別としての阻止条項(比例名簿投票で得票率5%以上か小選挙区当選者3名以上でないと比例名簿配分を受けない)にあぐらをかいて、何重にも甘やかされている優遇ぶりは、極右勢力の台頭と無関係でしょうか。

太田光征

MLホームページ: http://www.freeml.com/uniting-peace

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