信濃毎日新聞 2017年7月24日 文化面
「平和学の父」として知られるノルウェーの社会学者ヨハン・ガルトゥングさんが
新著「日本人のための平和論」(ダイヤモンド社)を刊行した。
「東アジアは今、危機状況にある」として緊急出版。
多くの国際紛争の解決に尽力してきた経験を基に、
日本が米国依存の外交政策から脱することを提言している。
出版を記念して来日し、東京都内で記者会見したガルトゥングさんは
「米国とある程度の距離を置き、なるべく独立した考え方をすべきではないか」
と説いた。
日本はテロなどに巻き込まれるリスクを顧みないで米国に「中毒症状」
のように追従しているとし、
「トランプさんが支配する国にどっぷり頼るのは、何倍にも増して危険。
この問題についての国民の議論が少なすぎるし、
歴史や国際情勢への知識にも欠如した点がみられる」と警鐘を鳴らした。
改正が議論されている憲法9条にも言及し
「正直に国防軍と位置付け、専守防衛をはっきりとうたうべきだ」。
大事なのは「国防の原理」だとした上で
「他国を侵略できる武器を持たないことが根本。
今の自衛隊は長距離兵器を持っているが、それらは自衛のためには不要で、
専守防衛と矛盾している」と強調した。
自身が唱えてきた「積極的平和」についても解説。
「戦争がないというだけでは消極的平和にすぎない。
より良い国際関係を構築し、新しい国際機関をつくるなどの中身を伴う
必要がある」。
過去に安倍晋三首相がこの言葉を誤用したと話し、
「積極的平和とは米軍に協力しやすくすることではない」とくぎを刺した。
緊張感の高まる北朝鮮情勢については、同国の関係者と対話してきた経験から
「彼らが望んでいるのは三つ。
米国との平和条約の締結、
日本・韓国・米国との外交関係の正常化、
朝鮮半島の非核化だ」
と指摘した。
「日本が6カ国協議のイニシアチブを取り、
この三つの要望を真剣に考えるよう提案できるはずだ」
この他、竹島などの領土問題を2国間での「共同所有」
によって解決することも提案。
「今日は不可能かもしれない。
明日も不可能かもしれない。
しかし、あさっては不可能とはいえない。
大切なのは、ビジョンを持つことです」と呼び掛けた。
写真キャプション=記者会見するヨハン・ガルトゥングさん。
「私はハートは理想主義者、頭は現実主義者です」
MLホームページ: http://www.freeml.com/uniting-peace