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連載:社説
2017年10月31日05時00分
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国際社会が積み上げた合意を一方的にないがしろにする。そんな大国の「自国第一主義」が世界を不安に陥れている。
トランプ米大統領の対イラン政策である。核開発をめぐる合意について、意義を認めないとし、修正ができなければ「合意を終わらせる」と表明した。
合意は、米国が中ロ英仏独などと共に2年前、イランと交わした行動計画だ。イランが核開発を制限する見返りに、米欧が一部の経済制裁を解いた。
かねてイスラエルによる軍事攻撃も取りざたされた中、外交交渉によって戦争の危機を防いだ歴史的な合意である。
トランプ氏の表明を、どの当事国も冷ややかに突き放したのは当然だ。合意は今も、中東と世界の安定をめざすために肝要な枠組みの一つである。
トランプ氏の主張はこうだ。イランは各地でテロを支援し、ミサイル開発を続け、中東を不安定にしている。だから合意の「精神」に反している――。
イランが各地で反米を掲げる組織を支えているのは事実だ。しかしそれは、イスラエルへのアラブの反発という地域事情が絡む中東全体の問題でもある。
そこに核合意を結びつけて、イランとの対立をあおるのは、それこそ中東を不安定化させる無責任な姿勢だ。
イランを29日訪れた国際原子力機関の天野之弥事務局長は、イランは合意を守っていると確認した。ロハニ大統領は「こちらからは合意を破棄しない」と辛抱の態度をみせている。
トランプ氏は、イランに新たな条件を課すため、米国の国内法を改正するよう米議会に求めた。だが議会では合意を維持すべきだとの声が大勢だという。冷静な判断を期待したい。
心配なのは北朝鮮問題への影響だ。米国は強い威嚇の一方で対話も探っているとされる。しかし、一度合意した約束を理不尽にたがえるようでは、話し合いなど真剣に考えていないと思われても仕方あるまい。
安倍首相は9月にロハニ氏と会談した際、イラン核合意への支持を表明し、「すべての当事国による順守が重要だ」と強調した。ならば近く来日するトランプ氏に釘をさすべきだ。
身勝手なトランプ外交の弊害は広がっている。気候変動をめぐるパリ協定からの離脱や、自由貿易協定の見直し要求などで多くの国を悩ませている。
独りよがりの外交は、米国の信頼を傷つけるだけでなく、世界秩序の土台を揺るがす。その国際社会の懸念を、安倍首相は本人に直言すべきである。