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 日本語にすれば、「下からの民主主義」といったところか。

3連休の最終日にして衆院選公示前日の10月9日夕、「Bottom Up Democracy」なるイベントが東京・新宿駅東口の広場で開かれた。

呼びかけ人に名を連ねたのは、2年前、安全保障法制への反対運動を展開した元SEALDs(シールズ)のメンバーや弁護士ら。高校生や大学生が次々と脚立にのぼり、民主主義や選挙についてそれぞれの思いを語る。投票に行こうと呼びかける。

■主役はみなさん

結党1週間、立憲民主党枝野幸男代表もマイクを持った。

草の根から声をあげていく、本当の民主主義をつくりましょう、主役はみなさんです――。

何事かと立ち止まる人。顔をしかめて通り過ぎる人。会場に背を向けて横断歩道の両端に立ち、渡ってくる人を見据えている若い男性2人組はおそらく、スカウトマン。派手めの女性にだけススッと近寄り、声をかけている。

○○さん。後輩スカウトマンがふいに、先輩の名を呼んだ。「あいつ『主役はみなさん』とか言いながら、俺らのこと『草の根』ってディスりましたよ」

へえ。聞いていたのか。「草」「根」の語感から、下に見られたように感じたのだろう。「そんなもんスよ、日本なんて」

後輩の憤怒を受け流していた先輩は、枝野氏に続き脚立に乗った同党の福山哲郎幹事長が「まだ働かれているみなさんも、この大きなうねりにおつきあいを」と呼びかけると心なしかうれしそうな表情を見せた。

後輩よりも仕事熱心、声をかけ、無視され、肩でため息をつきつつ定位置に戻る先輩の右手にはなぜか、最低賃金1500円への引き上げを求めるグループが配っていたパンフレット「働き方改革のひみつ」がずっと、握られていた。

どんな言葉なら、彼らに届くのだろう。果たして政治は、そんな言葉を持っているか。いや、それ以前に、彼らのことがちゃんと見えているだろうか。

■「重たい風」

立憲民主党には10月20日現在、約4千人から計8500万円超の寄付があったという。

「重たい風が吹いていた」

選挙後、枝野氏はこう振り返った。その風を吹かせた要因のひとつが、彼の演説だった。

みなさん。草の根。民主主義。

三つの言葉が何度となく繰り返される。特に新しいことが語られたわけではないが、権力ゲームから排除された側に回ったことで「純」のイメージが付与され、言葉がまっすぐに響く素地が生まれた。「感動した」などの感想がSNSで拡散した。

それは裏を返せば、権力ゲームに勝つための戦術としての言葉、主権者を釣るための扇動、動員、分断の言葉に私たちがいかに慣らされ、倦(う)んでいたかということでもあるだろう。

確かに「風」は、熱狂や手放しの支持とは違った。政治への期待はすっかりしぼんでいる。横暴な与党とだらしない野党の振る舞いをこれほど見せつけられれば、いったい自分たちの代表はどこにいるのかと、代表制民主主義への不信が醸成されるのは止めようがない。

それでも、自分たちの代表を求め、悩み、選ぶ。この国の主権者として、あきらめへと流されてしまわないように。

■ある日芽を出す

「2年前の9月19日を思い出します」。脚立の上で福山氏は語った。参院本会議、安保法制の採決を前に反対討論に立った。その時、国会前の路上では「野党はがんばれ」のコールが夜空に響いていた。その「共闘」の経験が、2年後の新しい政治の風景につながっている。

いつしかまかれていた種が、ある日ひょっこり芽を出す。目には見えなくても、地中深くに根を張っていることもある。政治とは本来、豊かで、自由で、可能性に満ちた営みだ。

しかし、「政権交代」「二大政党」という思考の枠にはまり込んでしまった現下の政治は、なんと窮屈で退屈なことか。

政権を変える/維持することのみに拘泥し、その結果としての大義なき解散、説明なき「解党」、誰のために政治があるのかが見失われている。理念や理想はやせ細り、「選挙で勝てばいいんでしょ?」とばかりに国会の議論は空洞化し、少数意見は切り捨てられ、主権者は勝敗を決める駒として使い捨てられる――こんな政治を、私たちは望んできただろうか。

「そんなもんスよ、日本なんて」と言えればいっそ楽だろう。だが、私たちは主権者だ。あきらめるわけにはいかない。

政治の可能性をこじ開ける。

そのためにまず何よりも必要なのは、テクニックではない。単なる数でもない。「いつか」「こうありたい」を自由に思い描く、伸びやかな想像力だ。

誰かに思い描かれることによって初めて、不可能は可能になる可能性をはらむのだから。

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