皆さま
反核法律家協会の内藤です。本の紹介です。
<ICANのノーベル平和賞受賞とICJの勧告的意見と池田眞規弁護士>
今年、7月7日に禁止条約採択、10月6日にICANノーベル平和賞、12月10日に授賞式があった。核兵器廃絶に向けての大きな前進である。
この流れを作った基礎に、国際司法裁判所の勧告的意見があること、そして、勧告的意見に向けて働いた池田眞規(昨年没)という弁護士がおり、その人の著作集「核兵器のない世界を求めてー反核・平和を貫いた弁護士 池田眞規」がいたことを紹介したい。
<国際司法裁判の勧告的意見と核兵器禁止条約>
勧告的意見と核兵器禁止条約の関係を見てみたい
・核兵器の非人道性と国際人道法
今回の核兵器禁止条約の交渉の開始について核兵器使用による人道上の結末と国際人道法との関係について、国際赤十字委員会のケレンベルガー総裁の声明を起点に歴史が動き始めたという指摘がされることが多い。
ただ、このケレンベルガー総裁の声明の基礎となっているのが、1996年の国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見である。
・NGOの活動による各国政府への働きかけ
今回の核兵器禁止条約では、ICANを中心とするNGOと各国政府の共同行動によって採択に至ったことはご承知のとおりである。勧告的意見についても、核兵器国、とりわけアメリカの強い圧力をはねのけて、NGOと各国政府の共同でWHOの決議や国連総会決議を採択させるに至っている。この点も興味深い。
・核兵器禁止条約とNPTとの関わりにおける勧告的意見の意味
ICJの勧告的意見では、「国際慣習法にも国際条約法にも、核兵器そのものの威嚇または使用についての包括的かつ普遍的な禁止はない。」(主文B)としつつ、「核兵器の威嚇または使用は・・・国際法とりわけ国際人道法の原則および規則の要件、・・・と両立するものでなければならない。」(主文D)として、国際人道法に一般的に違反する(主文E)とした。そして、これらを受けて、主文Fでは、「厳密かつ効果的な国際管理の下における、あらゆる点での核軍縮に導かれる交渉を誠実に遂行し、完結させる義務がある。」という判断が裁判官全員一致の意見で示した。これは、NPT(核拡散防止条約)第6条が「各締約国は、核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する。」と規定され、交渉すれば良いとしていたものをICJは完結義務があるとし点で大きな意味を持つ。核兵器禁止条約については、核兵器国や核抑止依存国からは、核兵器禁止条約について「NPTを分断」するとの主張がなされ、禁止条約に加わらない理由とされる。しかし、核軍縮完結義務が核兵器廃絶を示すものであることを考えれば、勧告的意見のこの判断は、NPTを守らないのが、核兵器国や核抑止依存国であることを示すものとして大きな意味を持つ。
<勧告的意見に向けての日本の運動と池田眞規弁護士>
勧告的意見に向けては、IALANAが「公共の良心」(この「公共の良心」は、すべての国際法の基礎にあるとされるもので、核兵器禁止条約の前文にも記載されている)の署名を呼びかけ、これに応えて日本では300万人の署名が集められた。その日本の運動の中心を担ったのが、池田弁護士であった。
それだけではない。外国のNGOや法律家と連携しながら各国政府に働きかけ、広島、長崎両市長を国際司法裁判所で意見陳述をさせ、あるいはハーグにある国際司法裁判所の図書館に広島、長崎の被爆関連資料を提供するなどして、広島、長崎における被爆の実態を国際司法裁判所の裁判官に知らせる努力を重ねたのである。
<核兵器のない世界を求めてー反核・平和を貫いた弁護士 池田眞規>
この度上記の表題の本が発行された(日本評論社刊 2800円+税)。
本書には、百里基地訴訟への関与、そこでの被爆者との出会いを通じての様々な活動、すなわち、日本被団協との付き合い、核兵器廃絶に向けての活動(アジアの核兵器廃絶等)、戦争のない世界に向けての活動(ハーグ平和アピールや、コスタリカとの交流)、被爆者の体験を次の世代に伝えるための活動(ノーモアヒバクシャ記憶遺産を継承する会)等、池田弁護士が関わり、立ちがあげた様々な活動について池田弁護士が書いた論考が掲載されている。
でも、何よりも皆さんに読んで知っていただきたいのは、本書の第1部となっている「世界法廷物語」である。これは、勧告的意見に向けての運動を池田弁護士の活動を池田田弁護士自身がまとめたものである。そこには、IALANAとの関わり、日本政府の核兵器政策、被爆者でノーベル平和賞の候補にもなった山口仙二さんとのかかわり、公共の(公的)良心署名運動、市長に意見陳述をさせるに至った経過、更にICJ図書館への被爆資料寄贈などが描かれている。
また、聞き取りテープを参考にまとめた「池田眞規小伝」も大変面白い。
ご希望の方は、私宛にメールでご連絡ください。
内藤雅義