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連載:社説
2018年2月17日05時00分
参院選で二つの県を一つの選挙区にする「合区」の解消に向けた改憲条文素案が、きのう自民党の憲法改正推進本部で大筋了承された。
鳥取・島根と徳島・高知の県境をまたぐ合区が導入されたのは、16年の参院選。「一票の格差」を是正するためだ。
これに対し素案は、改選ごとに各都道府県から最低1人を選べるようにすることが柱だ。そのために、国政選挙制度の根拠となる47条に「改選ごとに各選挙区において少なくとも1人を選挙すべきもの」と明記する。
人口減少が進むなか、合区が増えればいっそう置き去りにされかねない。危機感をもつ地方には歓迎されるかもしれない。
しかし素案は、法の下の平等をうたい、投票価値の平等を求める14条と矛盾する。国会議員を「全国民の代表」と定める43条とも相いれない。
参院は「地域代表」とし、衆院は人口比例を徹底した「国民代表」とする。自民党がもし、中長期的にそんな議論をしようというなら理解はできる。
だがそれには衆参の権限や役割分担、国と地方の関係も含む統治機構全体を見渡す議論が不可欠だ。憲法の他の条文との整合性をどう保つかといった論点にも、答えを出す必要がある。
素案には、衆参両院の選挙区を「人口を基本とし、行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案して」定めることも盛り込まれた。
昨年の衆院選で自民党が訴えたのは参院の合区解消であり、衆院については何の言及もなかった。あまりに唐突な提案だ。
参院選の合区も、衆院小選挙区で市町村を分割する区割りが増えていることも、一票の格差を正すためである。
それにブレーキをかけようとする今回の素案は、結局は、一票の格差が広がっても違憲性を問われないようにしたい――。そんな狙いが明らかだ。
忘れてならないのは、2年前の参院選で合区を導入した改正公選法の付則である。19年の参院選に向けて選挙制度の「抜本的な見直し」を検討し、「必ず結論を得る」と明記した。
抜本改革を怠った小手先の対応の末に、やっと合区にたどりついた実情を省みてのことだ。
見直しの期限まで1年余。公明党を含め、他党の多くはこの件での改憲に否定的だ。おおがかりな統治機構改革の議論が今さら間に合うはずもない。
非現実的な改憲ではなく、まずは憲法の下で可能な手だてを探る。それが与野党の、とりわけ政権与党の責任である。