「朝鮮戦争は、なぜ終わらないのか」

(書評より)朝鮮半島危機を終わらせるために今、何が必要かを教えてくれる本

朝鮮半島で一触即発の危機的状況が続いている。そんな中、『朝鮮戦争は、なぜ終わ
らないのか』(五味洋治著、創元社)が刊行された。五味さんは、故金正男氏とメール
をやり取りする関係を築いていたほどのジャーナリストで、『父・金正日と私』という
著書もある。朝鮮半島、北朝鮮を長く取材してきた五味さんならではの視点から現在の
朝鮮半島問題解決の方向が示されているのではないか、と期待して読んだ。

五味さんは、「はじめに」で、本書執筆の動機、意図について「同じ民族同士を敵に
かえ、同時に、現在の日米同盟の出発点になった朝鮮戦争をそろそろ終わらせようと提
案したい」(p.19)、「東アジアの国々は対立ではなく、共通の価値観にもとづいた新
たな安全保障体制を構築する道を模索しなくてはなりません」(p.20)と書いている。
確かに、北朝鮮の核・ミサイル開発は、米朝、南北、日朝の対立を抜きにしてはあり得
ない。北朝鮮は何も地域や世界に覇権を打ち立てるために核開発をしているのではない
。人口も少なく、経済的にも苦難の中にある北朝鮮がそんな大それた野心を持つはずが
ない。また、2000年、2007年と南北首脳会談を持ち、平和統一を確認していることを見
るならば、韓国を武力統合しようという目的のために核開発をしているのでもなかろう
。では、なぜ北朝鮮は核・ミサイル開発を進めるのか?それは「社会主義体制」が崩壊
し、ソ連、中国という後ろ盾を失った中で、あくまで北朝鮮の体制を存続させる、その
ためであろう。

1991年9月、「冷戦」態勢が終焉する中で、南北朝鮮は国連に同時加盟した。これを
前後して、韓国は、ソ連(当時)と1990年に、中国とは1992年に国交を樹立した。韓国
は1948年8月の「建国」以来、間に朝鮮戦争をはさんで敵対的な関係にあった旧社会主
義国の両国と「和解」し国交関係を築いた。ところが北朝鮮は、米国とも日本とも国交
を正常化できなかった。なぜか?朝鮮戦争が「休戦」のままに置かれていたからであり
、過去の植民地支配の清算が済んでいなかったからである。これは北朝鮮一人の責任に
帰すべきことではない。日米にも責任はあるのだ。にもかかわらず、朝鮮戦争が終わら
ずに“続いている”ことで、北朝鮮は常に軍事的緊張を強いられ、「孤立」(世界160
カ国以上の国と国交はあるが)を余儀なくされているのである。北朝鮮は、これに必死
に“対抗”し、苦境を何とか打開するため、核、ミサイル開発を進めているのである(
間違った方法・手段であり、決して認めることはできないが)。

この圧倒的非対称の状況を、この国(朝鮮を35年間植民地支配した、この日本)の人
々はどれほど知っているだろうか?「脅威」と見なされ、「何をするか分からない」と
思われている北朝鮮が、こういう事情を抱えた国であることを、この国のどれだけの人
々が承知しているだろうか?北朝鮮に核・ミサイル開発をやめさせ、「朝鮮半島危機」
を終わらせるためには、休戦状態のままの朝鮮戦争を終わらせること、今の休戦協定を
平和協定に変えることが必要だ、これは五味さんだけが言っていることではない。しか
し、この『朝鮮戦争は、なぜ終わらないのか』では、朝鮮戦争が北朝鮮だけではなく、
韓国、日本に何をもたらし、ひいては東アジアにどんな問題を残したのかなどを明らか
にし、朝鮮戦争を終わらせることの必要性、意義を私たちに示している。

北朝鮮は、1950年6月韓国に侵攻し、朝鮮戦争を始めた。しかし、この戦争で北朝鮮
は米軍(国連軍)からナパーム弾等の攻撃を受け、国土は文字どおり焼け野原となり30
0万人もの人々が死んだ。それだけではなく、結果的に実行されなかったが、米軍は北
朝鮮、中国に対して原爆投下まで計画していた。この体験が、北朝鮮に核開発を志向さ
せた。米国が北朝鮮に核攻撃を計画したのは朝鮮戦争中だけではない。「休戦」後も、
1968年「プエブロ号事件」、1976年「ポプラ伐採事件」、1994年「第1次核危機」など
では、米朝間に軍事的緊張が極度に高まり、米国は核攻撃を含む戦争計画を立てていた
。このように朝鮮戦争が終わらず、繰り返し核戦争の危機に立たされる中で、北朝鮮は
いっそう核開発に固執することとなった。核開発を放棄しようとしない北朝鮮の“異様
な”姿は、合わせ鏡に映った米国の姿であるとも言える。本書の第2章「北朝鮮と核ミ
サイル危機 1962~2017年」にこのあたりの経過が詳しく書かれている。

韓国は、朝鮮戦争では北朝鮮の奇襲攻撃を受け、壊滅の危機に瀕した。米軍(国連軍
)の支援を受けて、劣勢を挽回、北朝鮮を38度線以北まで押し戻し、何とか休戦状態に
持ち込むことができた。この過程で、韓国は軍の指揮権を米軍(国連軍)に委譲した。
当時の大統領・李承晩はマッカーサーに「現在の戦争が継続されるあいだ」と限定つき
ながら、喜んで「陸海空軍すべての指揮権」を米軍に委ねたのである(p.148~149)。
これは朝鮮戦争に「勝利」するための便宜的、一時的措置であったはずである。しかし
、休戦後も米軍は韓国軍の指揮権を維持し続け、現在に至っている(平時の指揮権は韓
国に戻されているが)。韓国内では、指揮権を米軍に委ねるか、回復するかをめぐり保
守派、進歩派の間で争いが続いているが、米軍が指揮権を握っていることが、南北関係
の発展-統一の障害となり、外交政策等における韓国の自主性を縛ってきたことは間違
いない。朝鮮戦争は韓国の自己決定権を侵害し、国のあり様を歪めているのである。

そして、朝鮮戦争はある意味で日本の戦後を誤らせた。朝鮮戦争を機に、マッカーサ
ーは警察予備隊の創設を指示するなど日本の再軍備を認め、それを推進した。「『彼(
マッカーサー)はポツダム宣言に反し、日本国憲法にうたわれた崇高な精神をほごにし
、本国政府よりほとんど協力を得ずして、日本の再軍備に踏み切ったのである』(『日
本再軍備・米軍時顧問団幕僚長の記録』中公文庫)」(p.165)。「冷戦が深刻化する
なかで、アメリカの日本占領政策が、武装を解除した『平和国家』の育成から、反共産
主義陣営の軍事同盟に組みこむ路線へと次第に変化していった」(p.167)。朝鮮戦争
で、日本は「特需」に湧き経済復興を進めたが、その裏では機雷掃海を行い、軍需物資
等の荷役・運搬業務なども担った(輸送業務を担った船員は1万人以上に上ったとの研
究もある)。そして、この過程で「『占領軍調達史』によると1951年1月までのあいだ
に、これらの労働者のなかから381人の死傷者、つまり戦死者、戦傷者が出」(p.176)
た。さらに、吉田首相(当時)は、クラーク米陸軍大将(朝鮮国連軍司令官)との会談
で、「有事のさいに単一の司令官は不可欠であり、現状の下では、その司令官は合衆国
によって任命されるべきである、ということに同意した」(p.252)、つまり韓国だけ
ではなく日本もまた、戦時での指揮権を米軍にゆだねることを約束していた。本書で初
めて知ったが、「『戦争になったら自衛隊は米軍の指揮のもとで戦う』ということは、
実は日本の独立前の1951年2月に、アメリカ側が日米交渉の場で示した旧日米安保条約
の草案のなかにも、はっきり書かれてい」(p.254)のだ。2015年、安倍政権は、集団
的自衛権行使容認に踏み切り、「重要影響事態」下では米軍支援(後方、兵站)を担い
、「存立危機事態」下では共同で作戦を進めるという「法整備」を図ったが、何のこと
はない、既にそれは日米間では60年以上前から「密約」されていたのである。

今、朝鮮半島情勢が緊迫の度を強め、戦争の危機が迫る中で、見過ごしてならないの
は、「米軍横田基地には、国連軍後方司令部という部署があり、日本国内にある7つの
米軍基地が国連軍基地に指定されている」(p.15)事実であり、「国連軍地位協定」の
存在である。1954年に結ばれたこの協定は今も有効であり、「いったん朝鮮半島で戦争
が起こった場合には、日本政府は朝鮮国連軍に対して、弾薬、食糧、医療費などの物資
を調達し、兵站支援する法的義務を負っている」(p.223)のである。これでは、朝鮮
半島で戦争が勃発したときには、北朝鮮は、在韓米軍とその指揮下にある韓国軍を攻撃
するだけでなく、日本の国連軍基地(横田、座間、横須賀、佐世保、嘉手納、普天間、
ホワイトビーチ)、米軍指揮下で作戦を展開する自衛隊を攻撃してくることになる。こ
んな事実をこの国の人々はどこまで知っているだろうか?北朝鮮を「怖い」「何をして
くるか分からない」と見ているだけでいいのだろうか?

朝鮮戦争は、東アジアに冷戦体制をもたらし、南北朝鮮、日本の国のあり様、その発
展を歪め、結果として東アジア地域を分断し、不安定にした。五味さんが言うように、
こんな戦争は終わらせなければならない。ところが、北朝鮮が「休戦協定を平和協定に
変えよう」といくら訴えても、米国は「北朝鮮が核開発を止めるのが先だ」と言って応
じない。本当にそうなのか?本書で五味さんは、米国が平和協定を結ばず、休戦協定の
ままにしているのは、「曲がりなりにも国連軍という形をとっている朝鮮国連軍は、非
常に使い勝手がよく、新しい存在価値も出てきているから」だと言う。その「新しい存
在価値」とは、「国連軍司令部と『国連軍地位協定』によって米軍が保持している戦力
は、北朝鮮だけでなく、国連軍と『休戦状態』にある中国に対しても依然として有効だ
から」(p.241)という点にある。つまり米国は、自らの世界一極支配を揺るがしつつ
ある中国、これに対応していくための“戦略的資産”として休戦協定を位置づけている
のではないか、五味さんはこう見ているのである。同意する。

それにしても、米国の一極支配維持のために、東アジアに冷戦体制を残存させ(温存
?)、北朝鮮を核開発に走らせ、第2次朝鮮戦争勃発の危機を引き起こす、というのは
余りに理不尽であろう。東アジアに平和態勢を構築していくために必要なことは、日本
の過去の侵略への深い反省=平和憲法維持、植民地主義の清算と、朝鮮戦争の最終的終
結、この二つである。本書で、五味さんは前者については何も言及していないが、後者
については、最後に、かなり具体的なプログラムというか、プロセスを提示している。
P.271に、5点-①指揮権の早期返還、②休戦協定の平和協定への転換、③朝鮮国連軍の
解体、④在韓米軍を「平和維持軍」に転換、⑤北東アジアの非核地帯化-をあげている
。これは五味さんも言うように「なにも目新しいことではなく、これまで何度も試みら
れ、提案されてきたこと」(p.272)ではある。それがなかなか実現してこなかった。
その結果が、今の朝鮮半島危機である。危機勃発-協議-合意-破棄・破綻-危機再燃
の連鎖を断ち、平和を実現していくために、危機を繰り返し生み出す根源を摘出し、そ
れを断つための方策をいっしょに見出していく必要がある。そのために必要なことは一
にも二にも対話である。

折りしも、2018年の「新年辞」で金正恩労働党委員長が「平昌オリンピック成功を心
から願っている。代表団を派遣する準備ができている」とのメッセージを発してから朝
鮮半島情勢は大きく動き始めた。米韓両国は、オリンピック・パラリンピック開催中に
は合同軍事演習を実施しないことを合意。1月9日には板門店で南北会談が開催され、南
北は平昌オリンピック・パラリンピック成功に向け協力すること、北朝鮮が選手団等を
派遣することを合意するとともに、軍事的緊張を緩和するために軍事当局会談を開催す
ることをも確認した。そして、2月9日、オリンピックの開会式には「統一旗」を掲げ合
同で入場すること、アイスホッケー女子では「合同チーム」を結成することも確認され
た。

このように南北対話が進展する中で、極限にまで達していた軍事的緊張はおさまり、
第2次朝鮮戦争勃発の危機は一先ずは遠のいたかのように見える。このような進展を国
際社会は一様に歓迎している。「対話のための対話は無意味」と圧力一辺倒で来ていた
安倍政権ですら公式的には「歓迎」の意を表している。北朝鮮は南北対話で「核問題」
を議題にすることすら拒んでいるが、対話が継続し信頼醸成が進むならば、米朝対話な
いし6か国協議再開へと発展する可能性も出てくる。その意味で、今はこの南北対話を
北朝鮮の核・ミサイル開発問題を平和裡に解決していくチャンネルとして大事にし、“
育てて”いくことが求められている。

しかし、南北対話が再開されただけで朝鮮半島危機が去るわけではない。1月16日、
米加両国が主催し、カナダ・バンクーバーで「北朝鮮の核・ミサイル問題に関する20カ
国外相会合」が開催された。この会合で、米ティラーソン国務長官は、「最大限の圧力
をかける取り組みは、北朝鮮が非核化の決定的な一歩を踏み出すまで続く」と言い、河
野外相にいたっては「(南北対話で)北朝鮮が時間稼ぎをしている」「『微笑外交』に
目を奪われてはならない。今は圧力を緩和する時でも、北朝鮮に報いる時でもない」と
実質的に南北対話を否定した。20カ国外相会合は、緊張緩和-対話への流れを促すので
はなく、「北朝鮮への圧力継続」を確認しただけで終わった。

このままではオリンピック・パラリンピック終了後は、また米韓が合同軍事演習を再
開し、それに北朝鮮が反発し弾道ミサイル発射実験を強行する、というイタチゴッコが
繰り返されかねない。元の木阿弥である。このような悪循環をいいかげん断ち、平昌オ
リンピックを「平和の祭典」として成功させ、対話を重ね、継続していく契機としてい
かなければならない。

そんななか、本書を一人でも多くの人が手に取り、読まれることを願う。

「朝鮮戦争は、なぜ終わらないのか」

MLホームページ: https://www.freeml.com/uniting-peace

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