「イスラエルとは何か」書評委員が選んだ「夏休みの一冊」
信濃毎日新聞 2018年7月29日 書評委員 板垣雄三
激動する世界を漂流する日本で、政府や産業界が頼りにする
イスラエルは国際的評判が芳(かんば)しくない。
占領地は隔離壁で分断。
ガザは、広さ長野県の2・7%に長野県と同等の人口が
ひしめく難民の青空牢獄(ろうごく)。
生活物資流入を断つ封鎖はすでに12年目。
無差別爆撃の日常。
境界に近寄れば無差別集団射殺。
こんな残虐な集団殺戮(さつりく)・民族浄化が核脅迫まで込みで、
ホロコーストの辛酸を知るはずのユダヤ人の国によって公然と
実行されるのはなぜか。
米国トランプ政権が、これを熱烈応援するのはなぜか。
こうした疑問に正面から答えてくれるのが、
ソ連生まれ、カナダに移住したユダヤ教徒の歴史家の著者だ。
解答は、日本社会の常識や思い込みをひっくり返す。
ユダヤ教は暴力的な聖地移住を禁止/
問題は民族対立でなく植民地侵略/
シオニズムはキリスト教起源/
イスラエル批判の声あげる世界のユダヤ人社会の動き/等。
世界の見方を転換させる本だ。
ヤコヴ・M・ラブキン著、菅野賢治訳、平凡社新書、950円
(いたがき・ゆうぞう、東京大名誉教授、中東・イスラム研究)
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