<自民党総裁選 改憲の行方>     (1)改憲 異例の争点化 首相、来年の国民投票も視野(2)9条 自衛隊明記 戦力不保持、死文化の恐れ (3)緊急事態条項の創設 国に権限 人権侵害に懸念 (4)参院選「合区」解消 矛盾放置 対立軸にならず   (5)教育の充実 首相、維新取り込みへ重視

2018年8月17日 朝刊

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 九月の自民党総裁選に立候補を予定する安倍晋三首相(党総裁)と石破茂元幹事長が、改憲について異なる立場から発信を繰り返し、大きな争点となっている。六十年以上の党の歴史で、改憲が争点の総裁選は異例。九条改憲にこだわる首相は二〇一九年中の国民投票も視野に、期限を区切って改憲を急(せ)かす姿勢を強めており、総裁選の結果次第では流れが一気に加速しかねない。

 首相は今月十二日、山口県下関市での講演で「いつまでも議論だけを続けるわけにいかない」として「次の国会」への改憲原案提出を目指す考えを明言した。秋の臨時国会が念頭にあるとみられる。

 首相は昨年五月、二〇年までの新憲法施行という目標を掲げたが、その後は「スケジュールありきでない」とも繰り返してきた。先の通常国会では政権を巡る不祥事が相次ぎ、改憲論議は停滞していただけに、あらためて具体的な時期に言及した今回の発言には驚きが広がっている。総裁選で公約して圧勝すれば、改憲論議が勢いを取り戻せるとの計算があるようだ。

 自民党は一九五五年の結党以来、自主憲法制定が党是だが、総裁選で大きな争点になったことはない。

 首相には祖父・岸信介元首相ができなかった九条改憲を自らの手で成し遂げたい思いが強い。二〇一五年十一月、保守系議連の会合で「憲法改正をはじめ、占領時代につくられたさまざまな仕組みを変えていこう」と訴えている。

 このため首相は総裁選で連続三選されれば反対論を押し切り、改憲手続きを進めることも辞さない姿勢を見せる。具体的には臨時国会に原案を提出後、なるべく早く衆参両院本会議で三分の二以上の賛成を得て改憲案を発議。国民投票へと進めたい考えとみられる。下関市の講演では、改憲に前向きな日本維新の会との連携に向け、教育充実のための改憲にも言及した。

 一方、石破氏は十六日のBS番組で、臨時国会での原案提出は「あり得ない」と首相をけん制した。石破氏は、改憲で優先すべきは参院選「合区」解消や緊急事態条項であり、九条改憲は「国民の深い理解が必要」と熟議を主張している。総裁選は首相が優位とされるが、石破氏が予想以上の支持を集めれば、九条改憲を急ぐ首相に疑問を突き付ける形になる。

 総裁選立候補を目指す野田聖子総務相も「憲法を改正するなら土台からやらないといけない」として早期の改憲には慎重な立場だ。

(山口哲人、金杉貴雄)

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 改憲の行方を大きく左右する自民党総裁選。同党が今年三月にまとめた改憲四項目を軸に、首相や石破氏らの主張を整理する。

2018年8月18日 朝刊

(2)9条 自衛隊明記 戦力不保持、死文化の恐れ

 唐突な提案だった。

 「自衛隊の存在を憲法にしっかりと位置付け、自衛隊が違憲かもしれないとの議論が生まれる余地をなくすべきだ」。憲法施行から七十年を迎えた昨年五月三日、安倍晋三首相(自民党総裁)は、東京都内の会合に寄せたビデオメッセージで、九条改憲の具体案を示した。戦争放棄を定めた九条一項、戦力不保持や交戦権否認を定めた二項を維持した上で、自衛隊の存在を憲法に明記する案だ。

 党執行部が今年三月にまとめた改憲四項目の条文案で、九条改憲は、首相の考えがストレートに反映された。一項、二項を維持した上で「九条の二」を新設し、「必要な自衛の措置」のため「実力組織として自衛隊を保持する」と明記する内容。首相は総裁選で連続三選されれば、この条文案を軸に他の改憲勢力との間で調整を進めたい考えだ。

 自民党が野党時代の二〇一二年にまとめた改憲草案は、九条二項を削除して「国防軍」を保持すると明記していた。首相は、この案では公明党の理解が得られず、改憲発議に必要な議席に達しないと考え、二項維持を打ち出した。「自衛隊に関する憲法解釈は一切変わらない」とも強調する。

 だが、自衛隊が憲法に位置付けられれば、運用への歯止めがますます弱まり、装備や活動範囲の拡大につながりかねないとの懸念がある。「二項は死文化する」との指摘も。

 首相の対立候補となる石破茂元幹事長は、一二年草案に沿った考え方だ。

 九条二項を削除し、「わが国の独立と平和、国際社会の平和と安定を確保するため、陸海空自衛隊を保持する」と書き込むべきだと主張。改憲四項目の中でも、九条改憲は首相と石破氏の間で最も隔たりが大きい。

 石破氏は、執行部が首相の提案に従う形で、一二年草案と異なる条文案を性急にまとめたことについても「党内民主主義に全く反する」と批判している。

 平和憲法の根幹である九条二項を削除して自衛隊を憲法に書けば、自衛隊を事実上、戦力と認めることに。米国などとの軍事的一体化がさらに進み、戦後七十三年間の歩みとは全く別の道を進む恐れがある。

 一方で石破氏は「(九条改憲は)時間をかけて丁寧に、国民の理解と納得を得るべきだ」とも主張。首相のように急いでいるわけではない。

 総裁選立候補を目指す野田聖子総務相は、九条改憲に具体的に言及していない。 (中根政人)

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2018年8月19日 朝刊

 自民党総裁選で、安倍晋三首相の対立候補となる石破茂元幹事長が、九条改憲より「緊急性があり優先度が高い」と訴える項目の一つが、大規模災害が起きた際の対処を定める緊急事態条項の創設だ。

 論点は「国の権限強化」と「国会議員の任期延長」。自民党が今年三月に四項目の改憲条文案をまとめるに当たり、議論が曲折したのは国の権限強化だ。

 二〇一二年の党改憲草案は、災害や海外からの武力攻撃時に首相が「緊急事態宣言」を出せば、国民は国の指示に従わなければならないとして、国に強い権限を認めた。具体的には国民の移動を制限したり、自動車や家を所有者の許可なく処分したりすることが想定された。

 こうした私権制限は、人権侵害につながるとの懸念が強い。改憲しなくても、災害対策基本法で対応できるとの指摘もある。

 条文案は対象を大災害に限定した上で、私権制限について直接的な表現は見送ったものの、「法律の制定を待ついとまがない」場合に政府が政令を制定できる規定を盛り込んだ。政令の内容によっては、国民の代表である国会での審議を経ず、国民の権利を制限する命令を出すことが可能だ。

 党執行部は当初、議員任期延長に絞る方針だったが、石破氏らが「災害対策基本法に緊急時対応の規定はあっても、憲法に根拠が明示されていないので自治体が使えない」と主張。執行部も受け入れた。

 一方、議員任期延長は、大災害で選挙の実施が難しくなった場合、衆院議員四年、参院議員六年と憲法で定められた任期を特例で延長できる内容。条文案は、衆参両院で三分の二以上の賛成があれば可能とした。

 憲法五四条には、衆院解散中に緊急事態が起きた場合、参院の緊急集会を開ける規定があり、「議員任期延長のための改憲は必要ない」との意見もある。延長された任期中、議員は国民の信任を受けていない状況で国会で議論することになり、国民主権の観点から問題という指摘も。

 首相は、過去に緊急事態条項について「大切な課題」と話したことがあるが、昨年五月に九条改憲を提案して以降、積極的には主張していない。野田聖子総務相も、今月発表した総裁選向けの政策で緊急事態条項には具体的に言及しなかった。 (木谷孝洋)

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2018年8月21日 朝刊

 自民党が掲げる改憲四項目の条文案で、唯一選挙に関係するのが参院選の「合区」解消だ。自民党の金城湯池とされる地方の定数増につながるため、「我田引水」との批判がつきまとうが、総裁選で対立軸とはなっていない。

 合区は二〇一六年の前回参院選から導入。都道府県単位の選挙区のうち、改選一人区の鳥取、島根と高知、徳島をそれぞれ一つの選挙区にまとめた。人口の少ない地方と、都市部の選挙区の「一票の格差」を縮小するためだ。最近の参院選について最高裁が、投票価値の平等を求めた憲法一四条を逸脱するとして「違憲状態」と度々判断してきたことが背景にある。

 これを根本的に転換しようとしているのが自民党の条文案だ。国政選挙の選挙区を設ける際に「地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案」するとして人口以外の要素も認め、特に参院選は各選挙区で「改選ごとに少なくとも一人」を選べるという規定を、憲法四七条に追記する内容。「一票の格差」が小さくなくても違憲と判断されにくくする狙いだ。

 自民党は先の通常国会で、合区で候補者から漏れた現職を救済できる「特定枠」を一部導入する改正公職選挙法を成立させた。改憲の条文案は、憲法を変えることで合区の存在自体を消そうとしている。

 合区対象の鳥取県が地盤の石破茂元幹事長(衆院鳥取1区)は、合区が「地方の発言力の低下につながり、東京一極集中に拍車がかかる」として、この改憲を「どうしてもやらなければならない」と強調する。

 安倍晋三首相も、石破氏ほど積極的な姿勢は見せないが、ほかの改憲項目と同様に合区解消の改憲を進めるべきだとの考えに立つ。

 だが、三年ごとに半数改選する参院選で、各都道府県から最低一人を選べるようにするのに、なぜ改憲が必要なのかという疑問の声も。一四条の平等原則や、国会議員を「全国民を代表」する存在とした四三条と矛盾する改憲という指摘もある。

 この条文案だと参院議員は事実上「地域代表」という性格が強まるのに、参院の役割や権限をどう変えるかなどの議論も放置されたまま。今のところ自民党以外に賛成する政党は見当たらない。

 総裁選立候補を目指す野田聖子総務相は、今月発表した総裁選向け政策で合区解消の改憲について具体的に言及していない。 (妹尾聡太)

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2018年8月22日 朝刊

 安倍晋三首相が改憲を巡り、九条に加えて強調しているのが「教育の充実」だ。改憲発議には衆参両院で三分の二以上の賛成が必要だが、自民、公明の与党は参院でその数を確保していない。教育の充実のための改憲を重視している日本維新の会に目を付け、秋波を送っているとみられる。

 現行憲法には義務教育の無償化が明記されている。維新は、さらに大学を含めた「高等教育までの教育無償化」を憲法に盛り込むよう求めている。首相は昨年五月、「高等教育も全ての国民に開かれたものとしなければならない」と発言するなど、維新との連携を意識した発信を続けてきた。

 自民が今年三月にまとめた四項目の改憲条文案は、教育を受ける権利を定めた二六条に三項を設け、「教育環境の整備に努めなければならない」との国の義務を盛り込む一方、高等教育無償化は明記しなかった。実現するには数兆円規模の財源が必要とされ、自民党内から反対の声が相次いだためだ。

 維新は自民の案が努力規定にとどまり、無償化明記を見送ったことに反発。首相は今月十二日の講演で、改憲に意欲を示す中であらためて「教育無償化」という言葉を使い、なお維新との接点を探る姿勢を示した。今後、維新との協議次第で、条文案が修正される可能性もある。

 だが、教育環境を整備するのに改憲する必要があるのか、という疑問は根強い。野党からは「憲法ではなく法律で対応する問題」「財政措置で対応できる」との指摘が出ている。

 一方、石破茂元幹事長は、教育の充実のための改憲は緊急性や必要性が低いとの考えだ。「維新の賛成を得るために(教育の無償化が)必要との議論は本末転倒だ」と首相の姿勢も批判する。

 二〇一二年の自民党改憲草案で「教育環境の整備に努めなければならない」としているため、今の条文案は否定しないが「無償化」明記には反対の立場。明記した場合、大学に行かない人との公平性などを念頭に「違憲訴訟の対象になる」とも指摘する。

 野田聖子総務相は、今月発表した総裁選向けの政策で具体的に言及しなかった。 (川田篤志)

 =おわり

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