前川喜平氏が危惧 「安倍政権があと3年も続投したら…」

前川喜平氏(C)日刊ゲンダイ
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 安倍首相が3選を狙う自民党総裁選が7日、告示された。投開票は20日だ。安倍が続投すれば、世論の7割以上が不信感を抱き続けるモリカケ問題の再燃は避けられない。その一方で、教育行政への介入が一層強まる懸念もある。加計学園問題を巡る決定的な証言で安倍を追い込み、目の敵にされる前川喜平氏(63)はどう見ているのか。

■「石破4条件」は下村元文科相が作らさせた

  ――「あったことをなかったことにはできない」と告発した加計問題の真相はいまだ藪の中です。

 当事者の安倍首相や加計孝太郎理事長は事実を認めていませんが、学園が国家戦略特区を利用して獣医学部を新設するに至ったプロセスの全貌は、ほぼ明らかになったと言っていい。私が直接見聞きしたのは2016年8月から11月にかけてですが、一連の文科省文書や愛媛県文書や証言によってすべて浮き彫りになっています。

  ――愛媛県文書では「加計ありき」でコトが始まり、「加計隠し」で進んだのが鮮明です。

 衝撃的なのは柳瀬唯夫首相秘書官(当時)の発言です。15年4月2日に学園関係者、愛媛県と今治市の職員と官邸で面会した際に「本件は首相案件である」と口にした。首相から直接言われなければ、そういう言い回しには絶対にならない。首相秘書官はいわば側用人。首相の言葉を秘書官に伝達する人間は存在しません。愛媛県文書によって、15年2月から4月にかけての出来事はよく分かる。今治市が特区に提案する前のこの時期に、安倍首相と加計理事長は少なくとも2回会っている。そのうちの1回は15年2月25日に15分程度。おそらく官邸でしょう。

  ――面会で安倍首相は獣医学部構想について「そういう新しい獣医大学の考えはいいね」と応じたと記載がありますが、「首相動静を見る限り、お目にかかっていない」と否定しています。

 首相動静に書いていないという言い訳はひどい。首相の面会記録は秘書官が必ず持っていますよ。首相動静は番記者が首相の動向をチェックしてまとめたものですが、官邸の正面玄関で来訪者に「総理に会うんですか?」と確認しているんです。官邸には裏口がある。私自身、記者に気付かれないで官邸に入ったことがあります。

  ――どのような形で?

 文科省の天下り問題で杉田和博官房副長官に何度か説明に行きました。記者の目につくのはよくない状況だったので、文科省の出向者に業務用車両の通用口で待機してもらいました。そういうルートを使えば、記者の目に触れずに官邸内のどこまでも行けるんです。

  ――獣医学部新設の壁となる「石破4条件」は「下村4条件」だったといわれている。下村博文元文科相は安倍首相の側近で、学園からの闇献金疑惑が浮上しています。

 下村元文科相はもともと学園と関係があった。愛媛県文書からは、安倍首相と加計理事長が会食する以前に下村元文科相が学園に「課題」を出していたことが分かります。「課題」は後に閣議決定された「石破4条件」のもとになったもの。石破茂氏が特区を担当する地方創生相時代に閣議決定したため「石破4条件」と呼ばれるようになりましたが、その原型は下村元文科相が高等教育局に指示して作らせたものなのです。獣医師増加につながる獣医学部新設は認めないという原則のもとで例外を認めるには、従来の獣医師がやっていない新しい分野の人材ニーズがあり、そうした獣医師の養成は既存の大学ではできない、という条件が必要になる。これは非常に高いハードルで、条件を満たすのは極めて難しい。下村元文科相は安易に考えたのかもしれませんが、学園はその「課題」をこなせなかった。

  ――安倍首相と加計理事長の会食の席で、安倍首相が「課題への回答もなくけしからん」という下村元文科相の発言を伝えたとされます。しかし、4月2日の面会以降はトントン拍子に進んだ。

 愛媛県文書によると、その「回答」について学園は、柳瀬氏から〈今後、策定する国家戦略特区の提案書と併せて課題への取組状況を整理して、文科省に説明するのがよい〉と非常に的確なアドバイスを受けています。特区認定事業は国際競争力の強化、国際経済拠点の形成といったものに限られる。逆に言うと、その説明さえできれば通る。役人言葉で言う「作文」です。中身がなくてもそれらしい言葉が並んでいればいい。特区の提案書は、その道のスペシャリストの藤原豊地方創生推進室次長(当時)が指南する手はずになっていた。試験官が模範解答を教えるようなものです。

  ――まさに手取り足取り。文科省の私大支援事業を巡る汚職事件では、前科学技術・学術政策局長の佐野太被告も東京医科大に申請書類の書き方を指南したとされます。

「要はどうやってだますかですよ」という音声データが流れていましたね。「一番の殺し文句は、新しい学問の領域をつくる。これが最終目的ですと」とも。

前愛媛県知事の加戸守行氏とともに参考人招致に応じた(C)日刊ゲンダイ
前愛媛県知事の加戸守行氏とともに参考人招致に応じた(C)日刊ゲンダイ
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安倍政権の危うさはこれまでの比ではない

  ――愛国心を養う教育改革に熱を入れる安倍政権は文科省に対する圧力を強めてきた。相次ぐ不祥事発覚は“文科省潰し”との見方もあります。

 この事件の裏で一体何が起きているのか、全体像がつかみきれない不可解さはある。ただ、文科省の信用がまた落ちてしまったのは極めて残念です。私自身が天下り問題で信用を失墜させた責めを負ったわけですから。

  ――教育行政への政治介入はどうですか。安倍シンパの国会議員が文科省と名古屋市教育委員会を通じて前川さんが授業をした中学校に圧力をかけました。

 第1次安倍政権の06年に教育基本法が改正された影響は大きいですね。教育の自主性が非常に弱められた。教育と教育行政の関係について定めた旧教育基本法第10条はとりわけ重要な条文だったのですが、大きく改変されてしまいました。

 

  ――〈教育は(中略)国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきもの〉とのくだりですね。

 政治権力は教育に介入しないという趣旨でした。この文言と入れ替わったのが、〈この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきもの〉。法律に根拠があれば、政治権力が教育に介入してもいいと解釈される余地が生まれた。

■教育基本法改正で教育行政介入にお墨付き

  ――与党勢力が国会の3分の2を占める状況では、教育に介入する法律の制定は難しくない。

 作ろうと思えばなんぼでも作れるんです。教育への政治介入にお墨付きを得たと思っている政治家も多いでしょう。国を愛する態度を養え、家庭教育はこうせい、とも書き加えられた。政治の力で教育を変えようとする動きは非常に強まっている。安倍首相を支援する日本会議の思想と連動しています。日本会議は憲法改正と同時に教育を根本的に変えようとしている。教育を国家のための人間づくりととらえ、国家に奉仕する人間をつくろうとしている。憲法も教育も戦前回帰の危険が強まっていると思います。

  ――物議を醸している道徳の教科化は今年度から小学校、来年度から中学校で実施されます。

 道徳教育は特に危険ですね。政治圧力に忖度する、迎合する、屈する。そういう教育委が出てくる可能性がある。日本会議は地方議会にも根を張っている。僕に言わせると、彼らはファシストですよ。気の弱い教育長や校長が顔色をうかがうようであれば、現場の先生たちの自由が縛られかねない。これが心配ですが、都立七生養護学校の性教育を巡る11年の東京高裁判決が参考になります。

  ――どんな内容か?

 都議3人が授業を非難し、都教委を動かして学習指導要領違反で教員を処分させたのです。教員や保護者が教育への不当介入だとして都議らを相手取って損害賠償などを求める訴訟を起こし、1審、2審とも原告側勝訴でした。

  ――心強い判例ですね。

 ただ、最近は司法も危うくなってきている印象です。高校無償化を巡る朝鮮学校の訴訟に原告側で関わっているのですが、1審判決の原告側勝訴は大阪地裁だけ。東京、広島地裁は国が勝ち、政治に忖度しているとしか思えないような判決内容でした。警察も検察も信用できない。安倍首相と昵懇で、「総理」などの著書がある(元TBSワシントン支局長の)山口敬之氏に対する準強姦容疑の逮捕状が執行停止になり、検察も不起訴にした。警察、検察に官邸の支配が及んでいるとしか考えられない。安倍首相があと3年も続投したら、最高裁は安倍政権が任命した裁判官だらけになってしまう。安倍政権の危険さはこれまでの比ではない。このままでは本当に危ないと思います。

(聞き手=坂本千晶/日刊ゲンダイ)

▽まえかわ・きへい 1955年、奈良県御所市生まれ。東大法学部卒業後、文部省入省。宮城県教育委員会行政課長、ユネスコ常駐代表部1等書記官、文部相秘書官などを経て、2012年に官房長。13年に初等中等教育局長、14年に文科審議官、16年に文科事務次官に就任し、17年1月に退官。現在は自主夜間中学のスタッフとして活動。単著「面従腹背」(毎日新聞出版)を上梓。

 

 

 

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