自民党総裁選安倍晋三首相が連続3選し、新たに3年間の総裁任期を手にした。しかし、陣営が狙った「圧勝」にはほど遠く、対立候補の石破茂・元幹事長の存在感を高める結果となった。来夏に参院選を控え、悲願とする憲法改正への道筋も不透明さを増す。

20日午前、安倍陣営に衝撃が走った。この日早朝から始まった各都道府県連での開票結果が続々と伝わったのだ。

「(票差が)拮抗(きっこう)している。どうなってんだ」「予想以上に石破が取っている。ショックだ」。国会議員たちからはそんな声が上がり、自民党幹部は「地方の反乱だ」とうなだれた。

午後に発表された票数は、首相553票に対し、石破氏254票。党員・党友からなる地方票では、首相224票に対し、石破氏181票。首相が国会議員票で8割を超えた一方、地方票では5割半ばにとどまり、議員と党員らの意識の乖離(かいり)が目立つ結果となった。

3選を果たしたばかりの首相に、自民党本部で伊吹文明・元衆院議長が「石破さんが善戦したね」と声をかけると、首相はこう答えたという。「気を引き締めて頑張ります」

発表から約4時間後の記者会見。首相は、現職首相が戦った過去の総裁選のデータを次々に挙げ、「今回は過去の例を上回る、全体で7割近い得票を頂くことができた。これは私にとって大きな力だ」と述べ、自らの勝利を強調した。

とはいえ、「圧倒的勝利を次の3年に与えて欲しい」(甘利明・元経済再生相)と訴えてきた首相側にとっては、誤算とも言える結果だった。

出身派閥の細田派幹部は、石破氏との一騎打ちの構図が固まった際、「現職だし、地方票の目標は7割だ」と掲げたが、結果は55%止まり。国会議員票も、3日にホテルで開いた合同選挙対策本部の発足式に出席した議員や代理の秘書の計346人から、329人へと目減りしていた。

「地方票も議員票も圧倒的に安倍総理が勝利するだろう」と豪語していた二階俊博幹事長は20日の記者会見で、「結果は結果として謙虚に受け止めなきゃいけない」と語り、石破派の処遇についても「すべての問題にオール自民党で戦っていきたい」と述べ、石破氏側への配慮をにじませた。

今回の総裁選で目立ったのは、首相側による「圧勝」を意識するあまりの締め付けだ。そのことがかえって議員や地方での反発を呼んだ。また、日本記者クラブ主催の討論会やテレビ出演では森友・加計学園問題を厳しく問われる場面が続き、首相の説明の不十分さが際だった。

衆院竹下派の首相支持派の会議に出席しながら、白票を投じた船田元氏は記者団に「官僚が国民ではなく官邸を向いて仕事をするような状況になっているがそれに対する明確な対応がなかった」と指摘。「安倍1強で党内でなかなか物を言うことが難しくなっている」と、首相支持を見送った理由を説明した。

細田派中堅の一人は「昨年の衆院選の時も支持者の半分くらいは首相を信用できないという感じだった。これが党の現状」と突き放し、派閥の意向に従って首相に投じた岸田派の衆院議員は「次の衆院選を安倍首相で戦いたい人はいない。かなりしんどいと思う」と語った。(南彰)

石破氏陣営「ポスト安倍を確実にした」

地方票で健闘を見せた石破氏は、冗舌だった。

「これ以上ないほどのお力をいただいた」「いい形で(自身がポスト安倍となる)次の政権につなげる努力をしたい」――。総裁選後に記者団に囲まれた石破氏は、20分近くにわたって得票の評価や、これからの政治活動への思いを語った。

8月の立候補表明時は、孤立していた。党内の主要派閥が早々と首相支持を打ち出し、「ポスト安倍」候補に名前の挙がった岸田文雄政調会長も立候補を断念して首相支持に回った。政権幹部らから「石破は終わりだ」「石破派ごと離党すればいい」との声が上がり、包囲網が築かれていた。国会議員票は50票台にとどまるとみられ、「首相とは7倍ぐらいの開きがあった」(石破氏)。

風向きが変わったのは、今月7日の告示以降のことだ。舞台裏で、青木幹雄・元参院議員会長の要請で石破氏支持に回った吉田博美・参院幹事長ら参院竹下派の面々が動いた。

参院議員側には安倍首相一色という自民党の現状では来夏の参院選は戦えないという危機感があった。吉田氏らは態度未定の議員に「我々は反安倍ではない。安倍首相によりよい政治をしてもらうためにも石破に入れてほしい」などと働きかけ、上積みを図った。

さらに追い風となったのは、石破派所属の斎藤健農林水産相が明らかにした首相陣営から閣僚辞任を迫られたという「圧力」問題だった。「モリカケの反省が生かされていない」。オセロゲームのように、首相支持の議員たちが石破氏支持に変わるとの情報が陣営に寄せられた。

20日の投開票で石破氏の国会議員票が「73票」と発表されると会場からどよめきが起き、石破氏自身も驚いたような表情を見せた。吉田氏は20日、記者団に「予想外と言ったら失礼だが、結果的にいい形になった。国会議員にも石破さんの良さを理解していただいた」と話した。

党内で将来的な首相候補と目されている小泉進次郎・筆頭副幹事長も、石破氏に投票したことを記者団に表明。「違う意見を抑えつけるのではなくて、違う声を強みに変えていく自民党でなければならない。そんな思いから(石破氏に)投票した」と語った。

地方票でも首相に40票差近くに肉薄し、陣営内では「最高の結果」との受け止めが広がる。結果は敗北にもかかわらず、「ポスト安倍を確実にした」などと高揚感が漂う。石破氏を支持した竹下派の一部と石破派の合流論を唱える声もあり、石破陣営の選対本部長を務めた竹下派重鎮の尾辻秀久・元参院副議長は20日の陣営の会合で、「劣勢のなかでの戦いだった。苦しいときの友こそ真の友であることを確認する戦いでもあった。今後とも同志として互いに切磋琢磨(せっさたくま)していこう」と呼びかけた。

陣営からは強気の発言が飛び出す。石破氏は記者団に、「私を支持してくれた方の中に有能な方がいっぱいいる」と述べ、内閣改造や党人事での処遇を求めた。石破氏を支持した竹下派会長の竹下亘総務会長も記者会見で、参院選に向けて石破氏の存在感が「重要だ」と述べ、石破氏登用の必要性を訴えた。(岩尾真宏)

公明幹部「憲法改正、より厳しくなった」

首相は総裁選で憲法改正に向けた機運を再び盛り上げることを目指してきたが、3選を経てなお、来夏の参院選前に発議を押し切れるほどの状況にはない。

首相は投開票終了後、党本部7階に集まった陣営の国会議員らを前に「憲法論争について、私の考え方を提示してきた。一つの方向の結果が出たと思っている」と強調。記者会見では、「憲法改正は総裁選挙の最大の争点だった」と前置きしたうえで、「選挙で結果が出た以上、一致結束して進んでいく。全党の皆さんにご理解いただけると思う」とした。憲法9条1項(戦争放棄)と2項(戦力不保持、交戦権否認)を残して自衛隊を明記するとした自身の改憲案が信任を得たという主張だ。

しかし、緊急事態条項や参院選の合区解消を優先すべきだと主張してきた石破氏は、敗戦が決まった後も首相の前のめりな姿勢を厳しく批判した。「憲法の向き合い方を粗略にするのは、国を真剣に考えていないということだ」

石破氏は選挙期間中の討論会で、「9条改正は、本質をきちんと改正しないままに(自衛隊を)書けばいいというわけではない」と主張。党内でも改憲論議は丁寧に進めるべきだとの意見は根強い。

首相は記者会見で、「幅広い合意が得られるよう公明党とも調整を行いたい」と述べたが、その公明幹部は「元々、憲法改正は厳しい。それがより厳しくなった」と指摘。山口那津男代表も会見で「自民党自身が判断されること。我々はそれを注視したい」と述べるにとどめた。来年は統一地方選、皇位継承大阪市での主要20カ国・地域首脳会議G20サミット)など、ただでさえ日程が目白押し。自民党案を国会に提出できたとしても、衆参3分の2を維持する参院選までの間に発議ができる環境にはないのが実情だ。