安倍晋三首相が連続3選を果たした自民党総裁選。国会議員票では石破茂・元幹事長に大差を付けたが、地方票では石破氏が善戦した。投票した党員らからは、首相の強引な政治手法や、「1強」になびく国会議員への不満が漏れた。

 「演説で安倍さんの政策はすべて具体的だった」。千葉県の男性県議は安倍氏に投票した。千葉県内の地方票は安倍氏が9131票で、石破氏の8238票を上回った。別の県議も「経済や外交でリーダーシップを発揮している。来年の選挙を指揮してもらいたい」と喜んだ。

 ただ、地方票は予想以上に石破氏と票を分け合った。党員らにどんな思いがあったのか。

 石破氏に投じた東京都内の30代男性は「政治の世界と、国民の認識に差があることがはっきりした」と思った。東京都狛江市の市議は「与党の中でもモノを言えるのが健全な姿」と、自民党のあるべき姿を考え、石破氏に投じた。来春の統一地方選で、市議選がある。「あと半年間、安倍政権で上積みできるものはあまりないだろう。(市議選は)やりにくい」と感じている。

 茨城県では、梶山弘志・地方創生相が安倍氏を推す方針を打ち出して県議団が従ったが、約6割の党員票が石破氏に流れた。自営業の60代男性は、安倍氏の森友・加計問題に関する説明に不満を感じた。「『丁寧な説明』と言いながら逃げていると感じる。知らなかったという言葉を信じる人は、どれくらいいるだろう」。「地方からの改革」という石破氏の主張に期待したという。

 山梨県大月市の70代の男性は6年前、若さに期待して安倍氏に投票したが、今回は、石破氏を選んだという。安倍氏には「地方や中小零細企業の現場を知らず、切り捨てている感じがした。憲法改正よりも、経済優先で国政のかじ取りをしてほしい」と求める。

 一方、今回の総裁選は「議論が低調」と指摘され、党の活力をアピールする場にはならなかった。石破氏が上回った群馬県の県議は、「森友・加計問題の影響は少なからずあったと思うが、そもそも結果が見えていて、あまり関心は高くなかった」と話した。

話法・透明性…識者からの注文

 3選が決まった安倍氏。ただ、総裁選の期間中も、利害関係者とのゴルフの是非を問われ、「将棋はいいのか」と言ったりして、「論点をずらしている」などと指摘された。

 論理の欠点をごまかしつつ、自分を正当化するエリートの論法を分析して「東大話法」と名付けた安冨歩・東大東洋文化研究所教授は「もはや隠すべき問題が大きすぎて、トンチンカンな答えしかできなくなっている。首相である安倍氏が日本語の根底を破壊してしまった。誰もが自分に都合のいいことしか言わない。役人ですら議事録があるのに国会で『そんな発言はない』と言い張る」と話す。

 「国民が自らの置かれている状況を直視し、生きる道を見いだすことが本質的解決につながる」と話す。国内では高齢化が進み、国の借金も膨らみ続けるが、「現実を直視せず、『本当のことを言ってくれるな』と世間が期待し、政治家もそれに応えている状態」と指摘する。

 NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は、森友・加計学園問題では、記録がないことが問題になったと指摘。「総裁として強いリーダーシップで引っ張るのなら、政治プロセスや自らの行動の記録を残し、公開させること。高い政治レベルの人の記録をどう残し、検証可能にしていくかは政治の責任で、できなければリーダーとして不十分だ」と透明性を求めた。

 安倍政権の前には、消費増税憲法改正といったテーマが横たわる。経済アナリストの森永卓郎さんは「究極の目標である憲法改正のためにも、消費増税は凍結させる可能性が高い」とみる。「実際に米中貿易戦争景気循環など口実はあるだろう。そうやって支持率を上げ、憲法改正国民投票に打って出るのではないか」と話す。

石破氏の地元「党員が永田町叱った」

 「党員が永田町を叱ってくれたんだろう」

 石破氏の地元・鳥取県。自民県連の安田優子幹事長は地方票で石破氏が善戦した理由をこう分析し、一定の受け皿になれたとの認識を示した。そのうえで森友・加計問題を挙げ、「(石破氏が)言わないといけないことを言ったことが国民や党員に響いた」と語った。

 鳥取市内の事務所には支援者ら約40人が集まり、投開票の様子を見守った。三木教立(のりたつ)事務局長が「次につなげるステップになった」とあいさつすると、支援者から大きな拍手が起きた。

 当初から劣勢が伝えられた総裁選。京都市などであった候補者演説会には、地元からバスを連ねて駆けつけた。鳥取市の事務所では、他県の党員に向けた女性後援会のメンバーによる「電話作戦」が続いた。石破氏を支える鳥取県議の一人はこう語り、胸をなで下ろした。「負け方によっては『過去の人』になりかねないと感じていた」(横山翼、楢崎貴司)