自民党総裁選では、圧勝をめざした安倍晋三首相に対して、石破茂・元幹事長が善戦した。今回の総裁選をどう総括したらよいのか。今後の政権運営はどうなるのか。識者に聞いた。

成田憲彦・駿河台大名誉教授

 これまでの総裁選と比べて論戦に重厚さがなかった。憲法経済政策の各論はあっても、どういう日本をつくり、どんな政策ビジョンを掲げるのかという骨太な政権構想が語られなかったからだ。

 「現職」対「挑戦者1人」という構図になったことが要因の一つだ。複数の候補者が各派閥から立つ伝統的な総裁選では、裏で派閥が激しいポスト争奪戦を繰り広げるなか、候補者は政権構想を競った。今回は派閥の弱体化と現職への権力集中が進んだことで候補者が絞られ、議論に至らなかった。

 野党が非常に弱い状況も、総裁選が小粒に終わった理由の一つだ。野党に力があれば緊張感は高まり、より大きなビジョンを競い合う状況になったはずだ。

 石破氏が「正直・公正」の主張を掲げたことは非難されるべきではなかった。これこそが安倍政治の最大の争点だからだ。安倍陣営の封じ込めにひるんだことは残念だが、「安倍1強」とも言われる政治情勢のなか、一般党員が同調しなかったことに注目すべきだ。石破氏が地方票で多くの支持を得て善戦したことは、地方に健全な民主主義の感覚があることを示した。(聞き手・河合達郎)

吉田徹・北海道大教授

 自民党総裁選は首相を決める選挙とされるが、かつてほどの意味合いはない。

 中選挙区制のもとで自民党単独政権が続き、派閥政治が全盛だった時代は、総裁選でトップを代えることで国の方向が大きく変わった。そうした「疑似政権交代」は1990年代の政治改革を経て少なくなった。

 小選挙区制のもとで、衆院選を通じて政策とリーダーを決めることが根付き、総裁選の意義は相対的に低くなった。今回、「低調」と言われるのは、単なる党内のリーダー選びにとどまっているからだ。

 安倍首相の総裁3期目は必然的にレームダック(死に体)になっていく。そのなかで、未解決のまま積み残した問題を解決できるかが、首相の課題であり責務だ。デフレ脱却の出口戦略を見すえて、財政再建に道筋をつける。憲法改正北朝鮮による拉致問題は、世論が納得するようリードする必要がある。

 選挙で主張したことのフォローに欠けるのが、安倍政権の特徴だ。参院選はあるが、政権の延命を考えなくてもすむ3期目は困難な課題に取り組む好機でもある。負担増を国民に求める社会保障制度改革も視野に入れるべきだ。(竹下由佳)