女性たちがグループでのデビューを目指して歌や踊りを競う韓国の人気テレビ番組「プロデュース48」が先日、最終回を迎えた。

 彼女たちの命運を決めるのは「国民プロデューサー」という名の視聴者による投票。100人近くから勝ち残った12人の中には、HKT48宮脇咲良さんら日本人3人も含まれた。

 いまや世界を席巻する韓流だが、スター選びは、とうの昔に国籍の枠を超えている。

 韓国は長く日本の大衆文化に固く門戸を閉ざしてきた。だが「文化侵略される」といった国内の反発を押し切り、開放にかじを切ったのは、20年前のきょう出た日韓共同宣言だった。

 「21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ」の副題を冠した宣言は、当時の小渕恵三首相と金大中(キムデジュン)大統領が署名した。

 過去の植民地支配の痛切な反省と心からの謝罪を表明した小渕氏。それを受けとめ、未来志向の関係発展に向けた互いの努力を呼びかけた金大中氏。

 それは1965年の国交正常化以降初めて、政治が主導した関係改善の試みだった。安保、経済、環境など各分野で双方が取り組む行動を細かく定め、今日の日韓関係の土台を築いた。

 ■交流を妨げる政治

 宣言後、最も大きく変化したのは人の流れだ。

 今年、両国を行き来した人の数はついに1千万人を超えると予想される。国交正常化の年の往来者数は約1万人。半世紀余りで千倍になった。

 だが、宣言が乗り越えようとした「不幸な過去」はくすぶり続ける。活発な交流も幾度となく政治に翻弄(ほんろう)されてきた。

 6年前に当時の李明博大統領が、韓国で植民地支配の象徴とされる竹島を訪れると、途端に日本からの旅行者は減った。

 インターネットやSNSの発達は多くの交流を生むと同時に情報の独り歩きや炎上も招く。

 市民同士のつながりを支えてきた文化面では最近、ショッキングな出来事があった。

 秋元康さんの作詞で韓国の男性グループ、BTS(防弾少年団)が出そうとした新曲の発売が急きょ中止に。秋元さんを「右翼的だ」といった批判がSNSで展開されたためだ。

 Kポップに詳しいジャーナリストの古家正亨さんは「文化に政治やナショナリズムを持ち込もうとする新たな動きが、日韓双方に出始めている。とても心配だ」と語る。

 負の流れを断つために政治は機能しているのか。むしろ、双方の政治家の言動は問題の発信源となっていないか。

 日韓両政府とも関係改善への強い意欲が示されない現状は、なんとも危うい。

 ■過去直視と未来志向

 例えば3年前に政府間で合意した慰安婦問題がそうだ。

 合意に基づき、日本政府の資金をもとに韓国政府が作った、元慰安婦らの支援にあたる財団は今、存続の危機にある。

 韓国政府は合意の破棄を否定しつつも、前政権の失政だとして事実上の形骸化を図り、責任を果たそうとしない。日本政府も問題は「解決済み」の一点張りで、その硬直した姿勢が韓国側を刺激するという悪循環。

 共同宣言の核心である「過去の直視」を日本が怠り、韓国が「未来志向の関係」を渇望しないのならば、いつまでたっても接点は見つからない。

 日韓はさらに、核保有国を自任する北朝鮮とどう向き合うかという懸案にも直面している。

 非核化という最終目標は共有している。だが、それをどう達成するかという考えは、日韓で大きく隔たる。早急に認識を詰める必要がある。

 日韓関係を長年研究してきた小此木政夫・慶応大名誉教授は中国の台頭や日韓の国力の差の接近などを挙げ、「この20年で両国をとりまくシステムが大きく変化した。地域の安定のためにも互いに不可欠なパートナーだと認識する必要性が、むしろ強まってきた」と指摘する。

 だが現状はと言うと、首脳同士の定期往来であるシャトル外交に合意しながらも、軌道に乗る兆しが見えない。

 ■大局見据えた決断

 シャトル外交の復活がそれほど難しいのであれば、共同宣言後に韓国の国務総理(首相)と日本の首相らが、格式張らない往来を重ねた閣僚懇談会からでも再開すべきではないか。

 現在の韓国の首相は、日本通で言葉も堪能な李洛淵(イナギョン)氏。政治の対話チャンネルを機能させるため、双方があらゆる工夫をこらさねばならない。

 後世に責任を持つ政治指導者として、大局を見据え、隣国との信を交わす。地域のリーダー国である日韓はどんな関係を築くべきなのか。国際社会で両国が担うべき役割は何か――。

 20年前、日韓の首脳が自ら決断し、ともに歩み寄り、新時代を切り開こうとした意味は大きい。宣言の精神は少しも色あせてはいない。

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