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安倍首相、改めて辺野古新基地建設推進を強調
安倍首相との会談は15分の予定が30分となり、「非常にフレンドリーな雰囲気だった」(玉城知事)という。しかし辺野古新基地反対の民意が県知事選で再び示されてもなお、安倍政権の強行姿勢に変化はなかった。その後の野党挨拶回りで玉城知事は、政権トップとの面談内容を説明しながら、早期訪米や野党連携への意欲についても語ったのだ。 国民民主党との意見交換では、原口一博・国対委員長(佐賀1区)が「デニーさんじゃないとできないことが一杯あります。アメリカを動かすことだって」と口火を切ると、玉城知事は安倍首相・管官房長官との面談内容について次のように語った。
「先ほど『(基地問題は)日本政府と沖縄の問題とよく聞きますが、私はアメリカの国民世論に訴えて行きます』と菅官房長官に言ったら、『それはやられた方がいいのではないですか』と言っていました。
安倍首相は『政府の従来の方針は変わらない。普天間基地の危険性除去(閉鎖)も辺野古新基地に移さないといけない』と話していましたし、官房長官も同じ論調で経緯を説明、『事務方としては辺野古新基地建設を進めていく』と語っていました。
ただ4年前と今回の沖縄県知事選で2回、辺野古新基地反対の民意が示されたわけですから、私はアメリカの世論に堂々と辺野古新基地反対を訴えたい。アメリカの民主主義で戦後復興を成し遂げてきた我々じゃないですか。
そのアメリカの父を持つ私が、アメリカの国民に民主主義を訴えることは極めて正論だと思います。そこで『アメリカの世論に訴えます』と言ったら、菅官房長官はちょっと固まった表情をしていました」(玉城知事)
これを聞いた玉木雄一郎・国民民主党代表が「今までにない世論にも訴える方法、パブリック・デイプロマシー(public diplomacy=広報文化外交)ですね」と感心すると、原口氏もこう続けた。
「特にデニー知事はお父さんが海兵隊員です。アメリカでは海兵隊員はもの凄く尊敬されているから、そのコミュニティに訴えるのはデニー知事しかできません」
これに呼応するように玉城知事は「(県庁関係者に)『11月にも訪米をしたい』と話しています」と早期訪米への意欲を口にした。しかも『ニューヨークタイムズ』が社説で「沖縄の民主主義を考える時に来ている」と書くなど、父親が海兵隊員の玉城知事誕生でアメリカの雰囲気も変わりつつあるのは間違いない。
もちろん沖縄県議会の合間を縫う必要があるが、知事就任を受けた10月の臨時議会は16日から26日の11日間、そして12月の定例議会は11月末から12月にかけて。
そのため、アメリカの中間選挙が終わる11月6日以降で、沖縄の12月定例議会が始まる11月末以前であれば、早期の訪米は日程的には可能だ。
「その時期に、国会議員や政府関係者らアメリカの要人にアポが取れるのかを調べる必要がある」とも玉城知事はぶら下がり取材で記者団に話していた。11月の訪米が具体化するのかが注目される。
翁長県政時代、基地反対の報復に一括交付金が大幅減額
国民民主党との意見交換では、辺野古反対を貫いた翁長県政時代、菅官房長官が一括交付金を4年間で600億円も減らしたことも話題になった。玉城知事はこう答えた。
「菅官房長官に対して『(玉城県政では)一括交付金を増やすことはあっても減らすことはないでしょう』と言いました。菅官房長官は『子供の貧困や医療問題は大事です』と言ったので、私は『子供たちは将来の人材になる、子供たちや子供たちを育てている家庭の環境を支えることは、コストではなくて投資と我々は思っている。みんなが安心感を持つ社会を作れれば、もっと日本全体に活気が出てきます。そのためにこそ、沖縄として頑張りたい』と訴えました」(玉城知事)
なお翁長県政での一括交付金減額について玉城知事が「菅官房長官は『普天間基地閉鎖のための辺野古新基地建設に3000億円の予算をつけたため』と言っていた」と話すと、すぐに「ひどい話だ」(原口氏)という声が出た。
民主党政権時代に導入された「一括交付金」は、従来の“ヒモ付き補助金”と違って使途の自由度が高く、地方自治体にとって好ましい予算であったが、安倍政権は一括交付金減額の代わりに辺野古新基地建設予算を増額していたのだ。中央政府による地方自治への介入であり、辺野古反対を貫いた翁長知事への露骨な報復措置(嫌がらせ)とも言われている。
翁長前知事の新基地反対で安倍が感じた「モヤモヤ」
続いて、玉城知事は共産党へ挨拶回り。大きな拍手と笑みと花束贈呈で迎えられた。玉城知事は、安倍政権と対立し続けた翁長前知事の苦しさについてこう語った。「先ほど官邸で総理と菅官房長官とお会いしまして、感じたのは『翁長さんが非常にご苦労をされた』ということです。もともと自民党で一緒だった人が新基地反対側に行った。(自民党沖縄県連幹事長も務めた保守政治家の)翁長さんが『もともと自民党で一緒にやっていた自分の思いをくみ取ってもらえるだろう』と思っていたことと、官邸側が『もともと一緒にやっていたのに向う側に行ってしまった』と思ったこととの接点が最後まで作れなかったのだろうと思いました」(玉城知事)
安倍政権は4年前、辺野古容認に転じた仲井真弘多・元知事(自民推薦)を破った翁長前知事と4か月間も会おうとしなかった。就任8日後の10月12日に初面談をした玉城知事とは、全く違う対応をしたのだ。
玉城知事はこんな言い方もした。
「安倍首相は『翁長知事の場合はもともと自民党にいた。その方が「向こう側に行ってしまった」ということでモヤモヤがあった』と言っていました。翁長知事は非常に苦しかったと思います。『元自民党だった自分が、こうした(辺野古反対の)立場になっている本質を分かってほしい』という思いがあったが、終ぞかみ合わなかった。届かなかった。安倍首相は『デニーさんが国会活動をしていたので、立場は違うけれどもなじみがある』と言っていました」(玉城知事)
これをそのまま解釈すれば、翁長前知事には近親憎悪のモヤモヤ感があったが、玉城新知事の場合はもともと野党国会議員だったので親近感すら抱いているということになる。しかし感情的な部分はさておき、新基地建設への立場の違いは明確だ。
国内は政権交代、国際的には基地問題解決の“両面作戦”
志位和夫委員長はこう激励した。
「県知事選で民意がはっきりと示されたので、デニー知事を先頭とする『オール沖縄』の戦いを、共産党の衆参国会議員団をあげて支えていきたい。他の野党とも協力してやっていきたいと思います。
『オール沖縄の戦いと市民と野党の共闘がリンクした』という状況になって来ている。新しい発展だと思うので、それまでデニーさんが国会で野党共闘を進めて来た力が、今後は『オール沖縄』を後押しする支える力になると思います。ぜひ、この両方の力を合わせて『誇りある豊かな沖縄を作る』ということを一緒に進めていきたいと思います」(志位委員長)
これに対して玉城知事は「政権交代」という言葉を使ってこう答えた。
「国政では来年の参院議員選挙があり、沖縄では(衆院沖縄3区の)補欠選挙があります。皆様と恐らく私も、『知事として』というよりも『自由党の議員だった』ということと、沖縄での連携の関係の中ではしっかりとコミットをしながら協力をしていって、『皆さんで将来の政権交代を目指す』という歩みに力を、私なりに微力ですが、関わることができればと思っております。
ぜひ、今後ともよろしくお願いします。県知事選に続いて豊見城市長選(10月14日投開票=玉城知事応援の山川仁氏が当選)と那覇市長選(10月21日投開票)、この3つを勝つことは全国に影響を広げて行くと思いますのでよろしくお願いします」(玉城知事)
政権トップ(安倍首相と菅官房長官)との初面談で、玉城知事の“両面作戦”が見えてきた。それは、アメリカを含む国際論に安倍政権の新基地建設に対する強行姿勢を訴える一方で、国内では野党連携(市民も参加する“オール沖縄方式”)で地方や国政の重要選挙で連戦連勝し、安倍政権を交代へと追い込んでいくというものだ。
「日本の政治は沖縄から動く」という状況になりつつある中で、玉城知事の言動は今後ますます注目されていくに違いない。
<取材・文・撮影/横田一>
ジャーナリスト。小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)に編集協力。その他『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数
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