米ピッツバーグで起きたシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)での銃乱射事件。拘束された男は、なぜ銃口をユダヤ人たちに向けたのか? 事件を受け、選挙戦が終盤に差しかかった中間選挙で、銃規制が重要な争点に浮上する可能性も出てきた。

 拘束されたロバート・バウアーズ容疑者(46)は、SNSに「(ユダヤ人は)白人の敵だ」「なぜ、ユダヤ人の難民支援グループを歓迎できるのか。あいつらは、我々が住むところに敵対的な侵略者を連れて来る」などと、反ユダヤ主義的な書き込みを繰り返していたとされる。

 「白人の権利を守る」ことを掲げて活動している団体は、米国に少なくない。白人ナショナリストや白人至上主義などと呼ばれ、反ユダヤ主義も主張している。トランプ大統領の誕生を機に活動を活発化させている。

 ある白人ナショナリスト団体の幹部は取材に対して昨年、「トランプの勝利は、白人のナショナリズム運動を受け入れる下地ができたことを証明した」と語った。幹部は、「見捨てられた」と感じる白人労働者の多いラストベルト(かつて栄えた工業地帯)などで活動を強化する考えも示した。

 白人ナショナリストがうごめく背景には、アフリカや中南米、アジアからの移民流入で、白人とキリスト教徒が圧倒的な多数派だった時代から「米国が変質してしまった」との不満が横たわっている。実際、2045年には、米国の人口のうち白人が占める割合は5割を切るとみられる。

 白人ナショナリストたちには、自分たちの暮らしが苦しくなったのは、急速に進むグローバル資本主義のせいだという思いが強い。「ユダヤ人はそのグローバル化から最も利益を得る存在の一つ」と思い込み、自分たちは「ユダヤ人に搾取されている」という不満も訴えている。(ピッツバーグ=金成隆一)

銃規制、再び争点浮上も

 米NPO「ガン・バイオレンス・アーカイブ」によると、米国では過去2年間、銃の乱射事件で700人以上が亡くなった。

 今年2月、フロリダ州の高校で生徒ら17人が亡くなる事件が起きると、若者たちを中心に、「私たちの命のための行進」が全米に拡大。フロリダ州などは、銃を買える年齢制限を引き上げ、身元照会も強化した。

 ただ、全米での動きは鈍い。連邦議会は、銃購入時の身元照会の徹底に予算をつけただけで、規制強化には踏み込んでいない。事件の直後は規制に前向きな発言をしていたトランプ氏も、共和党やトランプ氏への支持団体である「全米ライフル協会」(NRA)に配慮し、最近では「学校の武装化」を訴えている。

 ギャラップ社の今月上旬の世論調査では、銃規制強化に賛成と答えたのは全体で61%。民主党支持者に限っては87%に上る。共和党支持者は31%だった。米テレビ局NBCの調査では、中間選挙では民主党の下院議員候補の71%が銃規制強化に言及している。

 トランプ氏は27日、ピッツバーグの銃乱射事件を受けて記者団に、「礼拝所に防衛装備があれば、こういう結果にならなかった可能性がある」と指摘。武装した警備員の配置が好ましいとの考えを述べた。

 死刑の強化にも言及。「こんなことをする人間は死刑を受けるべきだ。執行までに何年も何年もかかるべきではない。弁護士やあらゆる人が関与して10年もかかる。法律を強化して、やりやすくするべきだ」と語った。(ピッツバーグ=杉山正、ワシントン=香取啓介)