安倍晋三首相が公言してきた自民党の「改憲4項目」の国会提示が来年以降に持ち越される情勢となった。首相の前のめりな「改憲シフト」が裏目に出た形で、統一地方選や参院選を控えるなか、同党が描いてきた改憲日程の見直しが迫られる展開となっている。

 衆院憲法審査会の与党幹事らが集まった5日の会合。自民の新藤義孝・与党筆頭幹事が憲法審の6日開催を見送る方針を伝えると、日本維新の会などの出席者から「前回なぜ強引に(憲法審を)やったのか」との苦言が続いた。新藤氏は「開かないことで正常化したい」と応じた。

 改憲をめぐって自民の描いたシナリオは①今国会で国民投票法改正案を成立させ、「改憲4項目」を提示する②来年の通常国会で「改憲4項目」をもとに論議を進め、与党と改憲に前向きな勢力が衆参両院で3分の2を占めることが確実な参院選までに発議する――というものだった。

 布陣も整えた。党憲法改正推進本部の本部長に首相側近の下村博文・元文部科学相を起用し、衆院憲法審の幹事を一新して、首相に近い新藤氏を与党筆頭幹事に充てた。

 ところが、下村氏がテレビ番組で憲法審の開催に消極的な野党を「職場放棄」と批判したことに野党が反発。新藤氏も、国民民主党の階猛幹事が衆院法務委員会で質問しているさなかに与野党の幹事懇談会の開催を呼びかけ、野党側の不信をかった。

 そんななか、「一線を越えた」(福山哲郎・立憲民主党幹事長)のが、会長職権で開催した11月29日の憲法審。野党側は与野党合意で進める慣例を破ったと猛反発し、態度を硬化。「改憲4項目」提示どころか、内容には野党にも異論がないはずの国民投票法改正案さえも進まない結果となった。自民の幹事長経験者は「下村、新藤氏らが今国会でやったことは不信の連鎖を招いたということだけ。これは人事の失敗だ」と嘆いた。

 狂ったシナリオを修正するのは容易ではない。

 最大のハードルとなるのが公明党の存在だ。改憲案を国会で発議するには、衆参両院で3分の2以上の賛成が必要。現状では、与党と改憲に前向きな勢力が3分の2以上を占めているものの、特に参院では公明の賛同がなければ、3分の2を大きく割り込む。

 昨秋の衆院選で公示前から5議席減らした公明にとって、来年の参院選での党勢立て直しは党執行部の至上命令。公明は憲法審の運営で自民と歩調を合わせる一方、改憲論議の進展には警戒感が根強い。幹部の一人は「衆院選で議席を減らしたのは自民のブレーキ役になっていないと思われたからだ。憲法改正には反対しなければならない」と明言する。

 衆院憲法審幹事の北側一雄公明党憲法調査会長は先月のBS番組で、「(改憲4項目は)自公で考え方が違う。(今国会と来年の通常国会の)2国会で発議できるというのはとんでもない話だ」と指摘した。自民党内でも参院選前の発議には否定的な声がある。

 とはいえ、首相の看板政策が遠のけば、政権の求心力を損なう。5日には、憲法改正を掲げる日本会議が主導する改憲派の集会が東京都内であり、下村氏や一部野党が参加し、改憲実現に向けて気勢をあげた。首相側近の古屋圭司・前衆院議院運営委員長は「今国会のうちに(憲法審の)扉をこじ開けたい」と訴えた。

 首相に近い議員らが触手を伸ばそうとしているのが改憲論議に前向きな野党第2党の国民民主党だ。新藤氏は4日、同党の原口一博国会対策委員長と個別に会い、憲法審の運営について陳謝した。ある首相周辺は「鍵は国民民主党。その一部とは連立さえ考えてもいい」と党勢が低迷する同党に誘い水を向ける。(磯部佳孝、石井潤一郎)