格差拡大の米国の問題と格差縮小の中国

 中国が貧困から救い出した国民はおよそ5億人にのぼり、

中国が貧困から救い出した国民はおよそ5億人にのぼり、
これは世界史上、最も成功した貧困撲滅プログラムと言ってもいい。
しかし、わたしが記事を書いた時点(2014年4月)で、標準的な指標
(ジニ係数)で測った中国の不平等の度合いは、アメリカと肩を並べていた。
30年前、この国は比較的平等だった。
つまり、アメリカが連綿と築きあげてきた不平等を、中国はわずか30年で
達成してしまったのだ!(374)経済効果の向上と不平等是正は両立できるのだ。

景気回復がいっこうに進まない状況下、つづいて浮かびあがってきたのは、
そもそも経済問題の診断が間違っていたのではないかという疑問だ。
アメリカ経済にはもっと根源的な欠陥があるのではないか?
・・・
銀行から供給される金は、人間の体で言えば血液のようなもの、、、。
・・・

ブッシュ=オバマの処方箋は、次のような診断にもとづいていた。
銀行を救急処置室に搬送して大量の輸血(もっと正確に言えば、現ナマの注入)
を行なう。
そうすれば、1、2年で元の状態に快復するだろう、、、。
・・・
銀行家と株主と債券保有者を救わずに、銀行本体だけを救うことも可能だった。

皮肉にも、政府の政策は必要以上の高コストを納税者に強いた一方、
あげられるはずの効果も、あげるべき効果も得られなかった。(419)

潤沢の時代において、つねに誇りとしてきた最先端技術を擁しながら、
なぜこれほど多くのアメリカ人は他国民とともに、
どんどん窮状に追い込まれていくのか?
理由のひとつは、不平等の拡大だ。
進歩の果実があまりにも不公平に分配された結果、
アメリカの中流層では生活水準が低下していたのである。

世界はさらにふたつの問題を抱えていた。
アメリカの政策の一部は、最貧国の最貧層を犠牲にして、
世界一の金持ち国の最上層に利益をもたらした。
アメリカの農業補助金制度は、もっと有意義な目的
ーーインフラや技術や教育への投資ーーにつかえるはずの資金を
裕福な農家へばらまき、結果として、世界の農産品価格を押し下げ、
途上国の貧農たちをさらに貧しくさせた。

また、アメリカの企業助成政策の一部は、未来の世代を犠牲にして、
石炭会社と石油会社に利益を与えた。
もっと有意義な目的につかえるはずの資金を、汚染源である企業に
補助金として与え、気候変動を悪化させてしまった。
さらにひどいのは、イノベーションを歪めた点だ。
雇用に対して労働力が余り気味の状況下で、アメリカのイノベーションは
省力化にかたよりすぎ、環境を軽視しすぎたのだ。

長期的に生活水準を向上させられるかどうかは、アメリカ経済の
成長のいかんにかかっている。
しかも、成長は正しい成長でなければならない。
具体的に言えば、環境を守り、広く共有される成長だ。(422)

「余波」 すべての人に成功の基盤を

おわりに ーー新しい未来を手に入れるために

最終部となる『余波』は、これまでの各部と趣を異にする。
〈ヴァニティ・フェア〉のカレン・マーフィー編集長によるインタビュー記事だ。
その内容は、富裕層は実質的な雇用創出者であると主張する保守派への回答だ。
彼らの考え方にしたがえば、富裕層から金を奪うのは
ーー富裕層に税金をたっぷり払わせることでさえーー
逆効果であり、結果として一般市民が苦しむことになる。
これは古い”トリクルダウン”理論の21世紀版に過ぎず、社会の不平等を
正当化する試みと言っていい。

わたしの意見では、トリクルダウン理論は完全な間違いである。
世界じゅうが創造力と起業家精神で満たされうるのは、
充分な需要が存在する場合だけだ。
(そのほかにも、資本へのアクセスや適切なインフラなど、
一定の条件がそろっていなければならない)。

この考え方では、真の”雇用創造者”は消費者ということになる。
アメリカとヨーロッパ諸国の経済が雇用を創出してこなかったのは、
所得の低迷が需要の低迷を意味するからだ。
じっさい現時点で、多くのヨーロッパ諸国の賃金が、世界金融危機の勃発時
よりも低下している。
また、わたしが繰り返し指摘してきたとおり、平均的なアメリカ人の世帯収入は、
四半世紀前の水準を下回っている。
これでは需要が低迷するのも無理はない。

〈ヴァニティ・フェア〉の編集長から受けた質問の中には、世界じゅうを
まわっているときに何度も聞かれたものがあった。
不平等の拡大はいつから始まったのか?
その原因は何か?
わたしの答えは、ほかの学者たちがたどり着いた答えと一致している。
おおよそレーガン政権の発足時だ。
レーガン大統領は、超富裕層に巨大な利益をもたらした税制改正などによって、
ほぼ間違いなく不平等拡大に寄与したが、トマ・ピケティの著作が指摘する
ように、この問題はもっと幅広い視野で捉えるべきだろう。

多くの先進諸国において、不平等拡大は同時期に始まっている。
1980年代の時代精神の一部というべき”改革”は、次から次へと
世界じゅうの国々に伝播していった。
この”改革”には、最高税率の引き下げだけでなく、
金融市場の自由化も含まれていた。

本書を締めくくるにあたり、冒頭で示したテーマをあらためて提示したい。
現在、極限状態にまで達している不平等は”必然”ではない。
不平等は非情な経済法則や物理法則の結果ではなく、政策の選択の結果であり、
ひいては政治の結果である。
わたしたちは不平等の高い代償を支払ってきた。
金融危機が起こり、その余波が残るこの10年間は、とりわけ不平等の
負担が重く感じられた。
しかし、未来に支払わされる代償はもっと重くなっていくはずだ。
不平等を拡大させる政策を、わたしたちが変えないかぎりは、、、。(468)

・・・
マーフィー:
あなたは著書の中で政策オプションを数多く提案していらっしゃいます。
組み合わせることで徐々に不平等問題を解決してくれる政策です。
もしもボタンをぽんと押すだけで、そのうちのひとつを実現できるとすれば、
どれを選びますか?
その理由も教えてください。
また、ボタンをもう一度押せるのなら、次に選ぶのはどれでしょうか?

スティグリッツ:
すべてに効く万能薬はありません。
アメリカの不平等の側面が多すぎるのも一因です。
最上層における過剰な富と所得の集中、中位層の空洞化、
最下層における貧困の増加。
それぞれに独自の理由があり、それぞれに独自の解決策が必要です。

アメリカが”機会の国”であることをやめてしまったという事実を、
わたしは最も懸念しています。
下位層の人々が中位や上位にはい上がれるチャンスは、”古いヨーロッパ”諸国
よりはるかに少なく、データの存在するどの先進工業国よりひどい状況なのです。
この機会均等の欠如は、長い年月のあいだに不平等を拡大させていき、
最後には、世襲制の金権政治体制の誕生につながりかねません。

私見ですが、最も重要な対策をひとつだけ挙げるなら、すべての人に対して
質の高い教育の提供を保証することです。
教育の改善は同時に、競争が激化するグローバル市場において、アメリカの
競争力向上にも役立ってくれるでしょう。

『世界の99%を貧困にする経済』で提案した政策の基盤となったのは、
不平等の源にかんするわたしの診断結果です。
上層では、過度の金融化と、レントシーキングと、CEOに法外なボーナスを
与えるような企業統治の欠陥。
中層では、労働組合の弱体化。
下層では、差別と搾取。
優れた金融規制を導入し、より良い企業統治体制を構築し、さらなる差別と
略奪的貸付を抑制する法律を策定すれば、上中下すべての層で状況は改善される
でしょう。
選挙資金を含めた政治改革も、
上層によるレントシーキングの芽を摘んでくれるはずです。

こういった措置はどれも、税引前所得における不平等を縮小させます。
しかし、税引後所得における不平等の縮小も忘れてはなりません。
手はじめに税金からとりかかるのがいいでしょう。
現行の税制では、投機からの利益も含まれるキャピタルゲインに対する税率が、
給料や賃金に対する税率よりもずっと低くなっています。
このような租税方針は、正当な理由がないうえに、経済を歪めて
不安定性を増大させます。
富裕層の所得税率が中位層より低いという状況は、あってはならないのです。
これでは不平等が悪化し、政治がさらに歪み、国家財政の健全化がより困難に
なってしまいます。
逆に歳入が増えれば、必要不可欠な公共投資の原資が調達しやすくなるでしょう。
インフラと教育と研究への投資は、アメリカ経済をふたたび正しい軌道に戻し、
うまくしくみを構築すれば、
平等性と機会均等性の向上ももらたしてくれるはずです。

マーフィー:
1パーセントの有力者の中には、不平等問題の重要性と、富裕層がすべての人の福祉
に関心を寄せる必要性について、あなたと同意見の人たちがいるそうですね。
彼らの話をしていただけますか?

スティグリッツ:
ジョージ・ソロスやウォーレン・バフェットをはじめ、
賛同してくれる人はたくさんいますよ。
”愛国的な百万長者たち”(パトリオティック・ミリオネアズ)と呼ばれる
グループが、富裕層への増税を訴える嘆願書をとりまとめ、
数百名分の署名が集まりました。
patrioticmillionaires.org のサイトで閲覧が可能です。

彼らは内部分裂した家が倒壊することを理解しています。
アメリカが教育とインフラと技術に適切な投資を行ない、社会の団結力を
維持していかないかぎり、自分自身はもちろん、自分の子供たちの長期的な
幸福も安泰ではないとわかっているのです。
彼らの多くはアメリカンドリームの体現者で、親から遺産を受け継いだわけ
ではなく、自らが享受した機会をほかの人にも享受してほしいと願っています。

わたしの見るところ、彼らは何より、バフェットの生き様に象徴される
ある種の価値観を強く信じており、アメリカの分断が進むことによって、
自ら信じる価値観が希薄になることを恐れているのです。
バフェットに賛同する”愛国的な百万長者たち”は、嘆願書にこう記しています。

「この国は我々に良くしてくれた。
成功のための基盤を与えてくれた。
今度は、我々が務めを果たす番だ。
ほかの人たちが成功できるよう、基盤を強く保つのである」

(終)

「世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠」2015、ジョセフ・E・スティグリッツ

MLホームページ: https://www.freeml.com/uniting-peace

Categories Uncategorized

Leave a Reply

Fill in your details below or click an icon to log in:

WordPress.com Logo

You are commenting using your WordPress.com account. Log Out /  Change )

Twitter picture

You are commenting using your Twitter account. Log Out /  Change )

Facebook photo

You are commenting using your Facebook account. Log Out /  Change )

Connecting to %s

%d bloggers like this:
search previous next tag category expand menu location phone mail time cart zoom edit close