丸山氏に続き長谷川氏、舌禍相次ぐ維新 その背景は?
「日本維新の会」が揺れている。今夏の参院選比例代表で公認候補として内定していた元フジテレビアナウンサー、長谷川豊氏(43)が被差別部落への差別を助長する発言をしたとして、同党の松井一郎代表は23日、公認取り消しを含めた処分の検討を指示した。同党は、北方領土返還に関し「戦争」を解決手段とするかのような発言をした丸山穂高衆院議員(35)=大阪19区=を14日に除名したばかり。維新関係者に舌禍が目立つ背景は。【山下貴史/統合デジタル取材センター】
「社会常識からあまりにも逸脱した行動、法的に違法なことをした疑いが掛けられるということについては、代表として心から申し訳ない」。松井代表(大阪市長)は23日、2氏の言動について記者団に問われ、こう陳謝した。
「逸脱した行動」とは何か。21日に部落解放同盟(組坂繁之委員長)が維新に提出した抗議文によると、長谷川氏は2月24日、東京都内で講演し、江戸時代の被差別民を差別的な呼称で取り上げ、「人間以下の存在がいる。人間以下と設定された人たちも性欲などがあります。当然、乱暴なども働きます」「相手はプロなんだから、犯罪の」などと述べ、被差別民が集団で女性や子どもに暴行しようとした時、侍は刀で守ったという話をした。
長谷川氏は、維新公認として2017年衆院選千葉1区に出馬したが落選。維新は今年1月に参院選比例代表の公認をしていた。
「『差別の助長』『差別の再生産』を聴衆の皆さんにもたらす弁解の余地のない差別発言です」――。長谷川氏は22日、公式ホームページにコメントを載せた。「私自身の『潜在意識にある予断と偏見』『人権意識の欠如』『差別問題解決へ向けた自覚の欠如』に起因する、とんでもない発言」と認め、「発言を全面的に謝罪するとともに、完全撤回させてください」とした。
一方の丸山氏は、12年衆院選で初当選し当選3回。当時大阪市長だった橋下徹・日本維新の会前代表(49)率いる維新が躍進し、「橋下チルドレン」と呼ばれた議員の一人だ。北方四島ビザなし交流の訪問団の一員として国後島を訪問した今月11日夜、滞在先の国後島で元島民の男性に対し、北方領土問題について「(戦争をしないと)取り返せない」「戦争をしないとどうしようもなくないか」などと発言しトラブルに。今週発売の「週刊文春」によると、丸山氏はこの夜、「あの店には女がいるはずだろ。行かせろよ!」などと発言。禁止されている宿舎からの外出を試み、「オレは国会議員だ! ここは日本の領土だろ! 議員だから不逮捕特権があるんだ!」などと述べたという。丸山氏は15年末に都内の居酒屋で飲酒した後、口論となった男性の手をかむトラブルも起こし、この時に「公職にいる間は断酒する」と陳謝。再度飲酒した場合は議員辞職する意向を示していた。
冒頭の松井氏は、短期間に明らかになった両氏の不祥事をかばうことはなかった。
「謙虚さ足りない」「威勢の良いこと言う」
「維新の議員は大きなことを言ったり、罵詈(ばり)雑言をすることで、自分の存在を大きく見せようとする人は確かに多い」。ジャーナリストの吉富有治さんはこう指摘する。長年、維新をウオッチしてきた吉富さんは、党の母体となった地域政党「大阪維新の会」の発足当初は地方議員にも同じような傾向が見られたという。
13年には大阪維新の会の大阪市議が自身のブログで、自民党の市議団に対し「美味(おい)しい汁を忘れられないアリンコ達(たち)」などと書き込んだ。別の大阪市議(当時)は同年、東日本大震災のがれき処理に関する市議会への陳情書をごみ箱に捨てた写真を、自身のブログに掲載した。維新に求められる姿勢について、吉富さんは「謙虚さが足りない。維新はもう立派な既成政党。黙っていても存在感がある。昔みたいに大きな声を張り上げて関心を呼ぶよりも、もっと政策をじっくり腰を据えて静かに語りかけていくようなことが大事」と提言した。
11年12月~16年3月に大阪府・市の特別顧問を務めた元経済産業省官僚の古賀茂明さんは「長谷川氏も丸山氏も、人の気持ちをおもんぱかる姿勢が非常に欠落している気がする。威勢の良いことを言って、人の気持ちを傷つけてもいいのか」と指摘し、こう続ける。「橋下さんは思い切り皆がびっくりするような球を投げて、脅かして議論を盛り上げていく手法だった。でも、それはぎりぎりのところで一線を引かないといけない。党として面白おかしく盛り上げて注目を集め、議論の土台を作り、多少けがをしても名誉の負傷だ、という雰囲気になってはいけない」
選挙前に早めの火消しか
維新では、橋下前代表が13年に従軍慰安婦制度について「当時は必要だった」などと発言して問題化。この時は明確な謝罪や党の処分はなかった。今回、長谷川、丸山両氏の問題では早めに火消しに走った形だが、古賀氏は「参院選前のパフォーマンスだ」と見る。
今春の統一地方選で、大阪で躍進を果たした維新。その足をすくうような相次ぐ不祥事に、関係者の嘆きは深い。ある中堅の大阪府議は「維新には戦争をやりたいなんて議員はいない。長谷川さんも勉強不足なだけで反省している。維新はきれいごとではなく、本当に支援が必要な弱い人に、しっかりと支援を届けるための政策を実現しようと改革を続けていることを多くの人に知ってもらいたい」と話した。