5GPhoto:iStock/gettyimages

 トランプ米政権は次世代通信規格「5G(第5世代)」の覇権争いを巡り、中国と華為技術(ファーウェイ)への攻撃を強めることで、自らの野望も妨げることになってしまうかもしれない。

 米政権が最近導入したファーウェイに対する制裁は、米中が5Gの実用化を競う中で起きた。ファーウェイは来年、中国全土で5Gサービスの提供開始を目指している。

 ファーウェイが米企業から中核部品を調達することを禁じる米商務省の措置により、欧米の通信機器メーカーが特定の部品を調達することも難しくなるだろう、と欧米の業界幹部は語る。

 これに加え、トランプ政権が中国輸入品に対する関税を25%に引き上げたことで、シスコシステムズなど、中国に工場を持つ欧米企業にとっては、米国に製品を輸出するコストがすでに増加している。

 またこうした措置は、AT&Tやベライゾン・コミュニケーションズなどの米通信大手が5G網に必要な携帯中継塔のハードウエアや交換機、ルーターを取得する費用も引き上げる可能性がある。

 米国内で事業を展開する通信機器メーカーの業界団体、米電気通信工業会(TIA)のグローバル政策責任者、K・C・スワンソン氏は、コスト増になれば、携帯プランの値上げにつながりかねず、顧客にとって5Gの魅力が薄れると指摘する。

 商務省は現時点でコメントの要請に応じていない。

 米通信会社や顧客へのこうした潜在的な影響は、5G実用化に向けた開発競争にもかかわらず、インターネットと通信セクターが、世界的にいかに相互依存を強めているのかを浮き彫りにする。「サプライチェーン(供給網)で何らか支障が生じれば、影響は業界全体に及ぶ」。通信会社の機器購入を支援するコンサルティング会社、ノースストリームを経営するベングト・ノルドストローム氏はこう指摘する。

 ドナルド・トランプ大統領はこれまで、米国は主要国で先陣を切って5G 網を整備し、開発競争を制しなければならないとの考えを示している。米当局者らは、5G 網が自動運転車や軍用ドローン、工場のオートメーション化など、 将来の商用および軍用双方の技術革新を促す基盤を提供するとみている。

 その潜在性、そしてファーウェイの実力も、米当局者の心配の種だ。ファーウェイは世界最大の通信機器メーカーで、5G規格の特許件数はどの企業も上回る。中国がファーウェイに対し、ソフトウエアやハードウエアへの不法侵入を通じてスパイ行為やネット接続機器の乗っ取りを指示するのではとの懸念も強い。ファーウェイや中国政府は、こうした見方を否定している。

 米商務省は今月、一部企業には猶予期間を与えたものの、米国のサプライヤーがファーウェイに部品を販売することを事実上、禁止した。サプライヤーがファーウェイからの売上高を失えば、収益を確保するために生産スピードを落とす必要が出てくることも考えられる。

 前出のノルドストローム氏は、サプライヤーが生産スピードを緩めれば、こうした会社から供給を受ける欧米企業は、部品不足に直面しかねないと指摘する。「サプライヤーは即座に顧客を切り替えることはできない」という。

 シリコンバレーにあるファーウェイのサプライヤー幹部は、生産ペースを低下させることはあり得るとし、その結果、短期的に売上高が落ち込むだろうと語った。だが一方で、ライバルの通信機器メーカーであるシスコやフィンランドのノキア、スウェーデンのエリクソン、現時点では商務省の制裁対象には入っていない中国の中興通訊(ZTE)でさえも、ファーウェイが購入できない人気部品の買い増しに動くだろうと予想している。

 欧米の業界幹部らは、ファーウェイの競合相手は、影響を受けているサプライヤーからの部品購入を増やす構えだとし、大きな支障が生じるとは想定しないと話す。

 トランプ政権による関税引き上げも5Gコストを押し上げる。

 ルーターなどの製造大手シスコの幹部は今月、中国輸入品に対する10%の関税が発動された昨夏以降、生産拠点を一部中国から移したことを明らかにした。チャック・ロビンス最高経営責任者(CEO)は、関税がさらに25%に引き上げられたことを受け、一部商品は値上げしたと述べている。

 AT&T、ベライゾン、Tモバイル、スプリントの米通信大手4社の広報担当は、この記事に関するコメントを控えた。

 トランプ政権が締め付けを強めていることで、中国の5G実用化は困難さを増すとの指摘も出ている。業界幹部らによると、中国の国有通信大手は通信機器の7割以上をファーウェイとZTEから調達している。

 米商工会議所の分析によると、中国当局は2020年までにモバイル関連機器の75%を国内で調達する目標を掲げている。

 ファーウェイ創業者の任正非氏は先週、中国メディアとのインタビューで、米国の制裁措置は想定内とし、準備してきたと語った。ファーウェイはこれまで、こうした事態に備え、部品在庫を積み増していることを明らかにしている。

 バーンスタインのアナリスト、クリス・レーン氏は「ファーウェイが重要部品の在庫を積み上げても、いつかは尽きる」と指摘。「同社が1年以内にこれらすべての代替を開発できる公算は小さい」と述べる。

 中国通信業界を管理する中国工業情報省(MIIT)はコメントの要請に応じていない。国有通信最大手の中国移動(チャイナ・モバイル)もコメントを控えた。国有通信大手の中国電信(チャイナ・テレコム)は声明で、国内外の通信機器メーカーから調達しており、「事態の動向を注視している」との立場を示した。

(The Wall Street Journal/Stu Woo)