平成は・・・「転落と格差」の30年
インタビュー 森永卓郎さん「とてつもない大転落」
NHK NEWS WEB 2019年6月4日火曜日
経済評論家として活躍している森永卓郎さん(61)。平成15年に出版した「年収300万
円時代を生き抜く経済学」などの著書で、早くから日本における格差拡大の到来を指摘
してきました。平成の時代、日本経済はどう変化したのか、そして未来の日本はどうな
っていくのか、話を聞きました。
(聞き手:ネットワーク報道部記者 管野彰彦)
平成の時代とは?
やっぱり平成はですね、「転落と格差」の30年だったんだと、私は思っています。
――転落と格差だと思われる理由はどんなところでしょうか?
特にこの20年ちょっとで顕著なんですけれども、日本の世界に対するGDPのシェア、
日本経済が世界のどれだけの割合を占めているのかっていうのは、例えば1995年は18パ
ーセントだったんです。それが直近では6%まで落ちた。つまり日本経済の世界でのシ
ェアが20年余りで3分の1に転落したんですね。この事は裏返すと世界の普通並の経済
成長をしていたら、われわれの所得は今の3倍になっていたっていう事なんですね。こ
れは実はじわじわ来たので、みんなあんまり感じてないかもしれないんですけれども、
その世界シェアっていう面で見ると、とてつもない大転落を日本経済が起こしてしまっ
たっていうこの30年の歴史なんだと思います。
実はですね、これは人口減少だとか、あるいは高齢化のせいだっていう事を言う人がい
て、それを多くの国民が信じているんですけども、全くのうそなんですよ。なぜかって
いうとこの期間にですね、人口はわずかですけど増えています(※1)。それから労働
力も実はわずかですけど増えているんですね。つまり人口も増えている、働く人も増え
ている。にもかかわらず日本経済が3分の1、2に大転落したっていうのが、この20~
30年の歴史っていう事になるんだと思います。
(※1)約1億2361万人(平成2年)→約1億2709万人(平成27年)総務省「国勢調査
」より。
――それはどういった要因でなったとお考えです?
端的に言うと構造改革がもたらしたんだと思います。典型的には小泉政権の時に起こっ
たんですけれども、不良債権処理っていうお題目で、ここにはメディアもみんな乗っか
ったんですけれども、潰す必要のない企業っていうのを軒並み潰して、それを二束三文
でハゲタカに売り渡すという事をやったんですね。
その結果、日本が日本のものではなくなってしまっていった中で、労働分配率(※2)
がどんどん下がっていく。実はこれ統計の取り方によって違うんですけれども、かつて
平成に入る前っていうのは、日本は世界でも労働分配率が高い分類の国だったんですね
。それがどんどん転落して、今や世界最低水準になっている。
(※2)労働分配率=企業などが生産した付加価値のうち、給料など人件費に回された
割合。
つまりですね、日本の会社が海外あるいはハゲタカのものになって、しかもそこで稼ぐ
お金を全部ハゲタカが持っていって労働者に分配しない。この構造の中で、一気に大転
落が起きて、その結果、なにが起こったかっていうと、とてつもない格差の拡大ってい
うのがこの平成の間に起こったんだと私は見ています。
かつては考えられなかった事態に
――格差の拡大という意味では、森永さんは15年ぐらい前から著書などで年収300万円
時代の到来という事を書いていらっしゃいますが、どういった所で格差の拡大は起きた
のでしょうか?
実はですね、この平成の前半と後半では格差の拡大要因が異なっているんですね。
平成の前半で起きた格差拡大っていうのは、正社員がどんどんリストラされて非正社員
になっていく、つまり下が拡大するっていう形の格差拡大で、これは止まったわけでは
なくて、じわじわと今でも進んでいるんですけれども、平成の後半で起きた格差拡大っ
ていうのは、実は富裕層がとてつもなく増えたっていう形の格差拡大なんですね。
例えばフランスのコンサルティング会社が、ワールドウェルスレポートっていう世界富
裕層報告っていうのを出しているんですが、昨年版で見ると、日本には100万ドル、1
億1000万円以上の投資家の資産、つまり自宅とか車とかそういう投資用じゃない資産を
除いて、純粋に右から左に動かせるお金を1億1000万円以上を持っている富裕層がです
ね、なんと316万人もいる。
これは実はアメリカに次いで世界第2位で、中国よりも多いですよ。今や日本経済の3
倍ぐらいある中国経済も日本の富裕層の方が実はまだ多いんですね。しかもこの300万
人もいる富裕層の大部分が、実は働いていないんです。
昭和の時代も富裕層はいたんです。でも例えば松下幸之助にしろ、本田宗一郎にしろ、
なにかビジネスをして新しいものを生み出して、実業でお金持ちになってたんですよ。
だけど、今の富裕層のほとんどは、仕事をしてない、お金にお金を稼がせて、とてつも
なくお金持ちになるっていう人たちが爆発的に増えている。
一方、庶民はずるずる転落していっているという形の格差拡大が、平成の後半で起きた
ことなんだろうなと思います。
――かつては総中流社会とも呼ばれていましたけども、今おっしゃったような状況にな
ってきたその転換点というのはどこだったとお考えですか?
いくつか転換点はあるんですけれども。平成に入ると同時に、例えば厚生労働省が労働
政策を大転換するんですね。それまで雇用調整助成金を一生懸命出して、企業になるべ
くクビにしないでください。終身雇用を守ってくださいっていうのを一生懸命働きかけ
たんですけど、その方針を変えてその円滑な労働移動というふうに言い出して、どんど
んこう会社をかわれるような仕組みっていうのを支援していきましょうという方向に政
策のかじ取りを変えるんですね。
そういう環境の中で一番大きかったのは、小泉内閣が成立して構造改革、不良債権処理
でどんどん会社はつぶすぞって、その時に不良債権処理は失業と倒産を増やすのでよく
ないっていう批判に対して、当時の小泉首相はですね、「失業や倒産を恐れずに断行す
ると、これが構造改革だ」っていうふうに言って、雇用を守るっていうのは、私が役所
で働いてた時も政府に課せられたいちばんの責務だって、私はずっと言われて育ってき
たんですけれども、ある意味で行政のトップである総理大臣がですね。失業が増えたっ
て構わないんだと、おそらく日本の歴史上、そういう事言った総理大臣は初めてだった
んだと思います。
現実にどんどん失業をして、結局、再就職先がなくてどんどん非正社員に転落していっ
たと。さらにですね、リーマンショックのあとの派遣労働者たちは、次々にくびを切ら
れて、東京の日比谷公園には年越し派遣村までできるっていう、かつての日本では考え
られなかった事態っていうのがこの平成の時代に起こったんだと思います。
働かずに価値が生まれる時代に
――森永さんも早くから正社員、非正社員の格差が拡大するとか、一度転落したらなか
なか上がれなくなる時代が来ると指摘されていますけれども、それが15年ぐらい前だと
思うんですが、そこから後半の15年というのは想像していたとおりでしょうか?
私は下方向の格差拡大は予想していたんですけれども、これほどとてつもない数の富裕
層が日本に生まれるとは夢にも思っていませんでした。そこはまったく予想しなかった
事態ですね。ちょっとした運とか思いつきとかで、若者が一夜にして何億、何十億って
いうお金を稼いでしまう、サラリーマンが一生かけて稼ぐお金の10倍以上の金を一瞬で
稼いでしまうなんていう事が起こるとは思いませんでした。
特に私はあの仮想通貨については、当初からバブルだからやめなさいっていう話をして
いたんですけれども、その中でもどんどん上がっていってですね、 “億り人” (※3
)って言われる人たちっていうのが大量に生まれた。
(※3)億り人=株式投資や仮想通貨取引などで億単位の利益をあげた人を指す言葉。
彼らは別に働かなくたっていいじゃん、だって、投資でいくらでももうけられるんだか
らっていう発想になってしまった。そういう感性に日本人が変わるってことは全く想像
してませんでしたね。
――仮想通貨は高校生でも1000万円単位の利益を出したという話を聞いて、やはりその
辺はちょっと想像を超えた事態ですよね。
そうですね。例えば通貨、われわれが使っている日本銀行券っていうのは、紙を刷って
るだけじゃなくて、実は日銀券を出す時に、日銀は国債だとか株だとか不動産投資信託
とか買って代金としてあの札を出すんですね。必ずバックに資産があるんです、裏付け
があるんですよ。ところが仮想通貨は全くないんですね。だから下がる時は無限に下が
っていくし、上がる時は需給だけで値段が決まるので無限に上がっていく。
そこで勝ったやつの勝ちっていう社会になっていった。私は正直言ってそこは、自分で
本当についていけなかったですね。
――その人自体に価値を見いだすサービス、例えばVALU(※4)のような、人だっ
たりその人の時間にお金を投資するみたいなサービスも広がってきましたよね。
(※4)VALU=個人のやりたい事などに対し、賛同した人がトークンと呼ばれる仮
想コインを購入することで応援するサービス。トークン自体の売買も可能。
そのVALUをね、私はすごくショックだったのは、例えば一般の株式であれば、その
株を買った人は議決権を有するんです。つまり一種の会社のオーナーになれるわけです
ね。会社を動かせるわけです。
ところが、このVALUの場合は、別に買ったからといって議決権を持たないんですよ
。例えば株主優待のようなサービスは推奨はされているんですけれども、してない人も
たくさんいて、例えばホリエモンとか一切してないですね。それでもどんどん値段が付
いていって、時価総額が10数億円になる。
私は労働価値説っていうので育ったので、なぜモノが価値を持つのか、サービスが価値
を持つのかっていうのは、労働者が一生懸命努力して創意工夫をして、額に汗して働く
から付加価値が生まれるんだっていうふうに教わったし、そう信じてきたわけですよ。
ところがですね、働かずに価値がどんどん生まれていってというのが、ごく日常的に起
きるようになったというのが、平成に起きた大きな変化なんだと思うんですよね。
会社は誰のもの?
――会社という組織の形態も大きく変わってきた平成の時代だなと思っていまして、年
功序列にせよ終身雇用にせよ、それが薄れてきているあるいはなくなってきていますね
。
個人的に言うといちばん大きな事件は実はライブドア事件(※5)だったんですね。な
ぜかっていうと、会社は誰のものなのかっていう大きな問いかけをしたんだと思うんで
す。
(※5)ライブドア事件=ライブドアによる証券取引法違反事件。また、刑事事件とは
別に、ニッポン放送の経営権をめぐり、ライブドアとフジテレビがニッポン放送株の買
い取りをめぐり激しく争った出来事を指すこともある。
会社法上は株主のものなんですよ、会社っていうのは。法律上では。だけど私はそのニ
ッポン放送っていうラジオ局で、当時、ずっと朝の番組をやっていて、ラジオ放送局っ
ていうのは、まずリスナーのものだし、スポンサーのものだし、そして従業員のものだ
と思っていたんですけれども、そういうのを無視して、金の力で株式を買ったから自分
が全権を持つんだっていう現実にぶち当たったんですね。
私はそれで徹底抗戦をしたんですけれども、この問題っていうのはいまだに解決してい
ない問題なんだと思います。もちろんそのお金を出してくれた株主は、それはそれなり
に偉いんですけれども、ただ極論するとお金出しただけだと私は思うんです。
だから儲かった時には配当すればいいんだけれども、やっぱり会社っていうのは、お客
さんと従業員と地域社会と、そういう利害関係者全体のためのもので、金もうけのため
のものではないと思うんですけれども。でも私の主張っていうのは、法律上もあるいは
経済学のうえでも否定されてしまうんですよ。
――その傾向は最近、一層強まっていると?
強まっていると思います。ライブドアの事件以降、少しよくなったという人もいたんで
すけれども、最近の日産自動車の事件を見るとですね、相変わらず資本を持った人の勝
ちっていうことで、例えば日産が経営再建できたっていうのはすばらしい事なんですけ
れども、じゃあその裏側で何万人もの従業員が職を失い、多くの中小企業が仕事を失い
、そして工場が叩き売られて、地元の自治体が大変な混乱に陥るっていう事も起こって
きたっていうのも事実なんですよね。
人生をちゃんと考えて
――ある種、企業が従業員を顧みなくなってきているという事象がある一方で、働く人
たちもあまり組織にとらわれない働き方が広がってきている感じもします。そういった
働き方についてはどうお感じですか?
今はいいんだと思うんです。なぜかというと空前の人手不足なんで、転職先があるから
いいんですよ。ただ、バブル期と似たようなことか起こっているわけですね。バブル期
に何が起こったかっていうと、フリーターっていう言葉がすごくはやったんです。
フリーターっていうのはなにかっていうと、当時、言われた定義は、学生でもサラリー
マンでもなく、みずからの意思で自由に働き方を決められる新しい形の自由人なんだ、
これからみんなが目指すべきライフスタイルはフリーターだぜっていうキャッチフレー
ズで、どんどんフリーターが増えていったんですけれども、彼らが30代を迎え、40代を
迎えた時にどうなったかっていうと、その末路は悲惨だったんですね。
結局、自由人ではなくて単なる使い捨ての労働力になっていった。派遣労働が解禁され
た時もそうだったんです。真っ先に切られたのは派遣労働者だったんですね。今、外国
人労働者をどんどん受け入れていきましょうと言ってますけれども、これもですね、す
でに例えばシャープの亀山工場で大量の外国人労働者が雇い止めにあってるわけです。
だから、労働力需給が締まって、人手不足の時は別に会社なんかいいよって言うんです
けれども、ちょっと景気が悪くなると、みんな突然、会社にしがみつこうとする。リー
マンショックのあと、新入社員たちにどうしたいですかって聞くと、みんな定年まで勤
めたいって答えたわけですよ。
だから今はいいんですけど、いつまでもこの景気が続くなんて事ありえないので、私は
ちゃんと人生を考えたほうがいいんじゃないかなと思います。
最も印象に残った出来事は?
――先ほどライブドア事件というのが出ましたけれども、平成の時代で最も印象に残っ
ている出来事というのは森永さんの中で、これは経済にかぎらずでもいいんですが、い
ちばん印象に残った出来事はなんでしょうか?
私の中でいちばん大きいのは不良債権処理なんですね。実は2001年に米同時多発テロが
起こって、小泉首相がすぐホワイトハウスにブッシュ大統領を訪ねたんです。その時の
小泉首相はですね、アメリカのテロとの戦いに日本は自衛隊を派遣してでも手伝うって
言ったら、ブッシュ大統領がいや小泉さん、日本は一日も早い不良債権処理を進めてく
れたまえって答えた。
何の事か当時、すぐにはわからなかったんですけれども、1年後ですね。ニューヨーク
の外交問題評議会ってところを小泉首相が訪ねるんですね。そこでアメリカのネオコン
(※6)の人たちに向かって、小泉総理の演説がこうだったんですね。
(※6)ネオコン=アメリカにおける新保守主義者のこと。保守強硬派。
首相をやって1年数か月、専門家の意見を聞けば聞くほどわからなくなったと、失業や
倒産を増やすので不良債権処理はよくないという意見がある一方で、失業や倒産をおそ
れずに断行すべしという意見もあると、これを決断できるのは私しかいない、私は決断
したと、不良債権処理の断行だって、国民に言う前にアメリカに言った、これが私は最
大の事件だったんだろうなって思います。
――その意味といいますか、それがその後の平成にどう影響したのでしょうか?
その後、すぐにですね、金融担当大臣を竹中平蔵さんにして、竹中さんが木村剛さんて
いう人を連れてきて金融再生プログラムっていうのを作って、短期間で不良債権を半減
させると言って。そこから大手30社問題(※7)ってのがすごくクローズアップされた
んですけれども、今振り返るとあの大手30社の9割は経常黒字かつ営業黒字だったんで
す。
(※7)大手30社問題=経営が悪化した流通やゼネコンなど、大手30社への貸し出しが
不良債権問題の中心だとした主張。
つまり、黒字で何の問題もない会社を不良債権処理の名のもとに、バンバン潰して、そ
れを二束三文で片っ端から外資に売り飛ばすという事が現実に行われたんですね。私は
その時にずっと反対したんです。そんな事したら日本はやられてしまう、経済がボロボ
ロになるぞって言ったんですけれども、そういう事を言うと銀行の味方だとか、抵抗勢
力だとか、いろいろ言われて、誰も言う事聞いてくれなかったですね。
日本は世界で最大の対外債権保有国、つまり外国に対して債権を持っているお金持ちの
国なのに、何で日本がその財政赤字、経常収支赤字で、経済がボロボロになった途上国
のように、全部ハゲタカにさらわれないといけないのかっていうのは、誰も考えないで
、むしろそれが構造改革で正しい道なんだっていうね。その結果、日本経済が大転落を
起こしたんだと私は思う。
――それが一番印象に残ってらっしゃるのは、アメリカの大統領に先に言ったという出
来事なのか、小泉総理が不良債権処理を進めてきた一連の動きでしょうか?
いちばん最初のショックはそう言ったってのがすごくショックだったんですけど、その
後の竹中金融改革、不良債権処理、金融再生プログラムの間は、私はもう特に木村剛君
とかは全面戦争をしていたので、結論から言うと、私はその時の彼との戦争に敗れたん
です。
大手30社問題が最初にクローズアップされたのは、自民党の経済産業部会っていうとこ
ろに彼が講師として呼ばれた時だったんですよ。彼は大手30社を処理すれば、不良債権
はパイプの中のゴミで、パイプがスッと通るようになって日本経済は鮮やかな回復をす
るんだと。それを聞いていた自民党の国会議員何人かに話を聞いたんですけど、もう木
村さんは後光がさして神様のように思えたと。
だけど今、振り返ったら、なんで30社だけ潰したら日本経済がよくなるかなんていう理
論的な説明は絶対できないんですよ。ただ、明らかなことは流通・建設・不動産の大手
30社が駅前一等地に貴重な不動産を山のように持っている企業だった。それが不良債権
処理されたあと、その資産がどうなったかっていうのを見れば、それも壮絶なんですね
。マグロの解体ショーのようにハゲタカが二束三文で食いまくっていた。だから、私は
自分なりには頑張ってたんですけれども、世間を先導する力っていうのは、全然なかっ
たっていう。だから説得力はなかったんでしょうね。
――当時も今も金融緩和が先か財政政策が先かという論争がありましたね。
私は当時はまずデフレ脱却が先で、不良債権をあとにしなさいって、ずっと言い続けた
んですね。でも今になって振り返ってですよ、例えば不良債権の象徴って言われたダイ
エーが不良債権処理の対象でつぶされなかったら、今どうなっていたかっていうと、私
は今、日本一の優良企業になっていたと思います。
ダイエーは駅前の一等地を片っ端から持ってたんですね。それだけじゃなくて、リクル
ートを持っていたし、銀座プランタンの運営権を持ってたし、福岡ドームとかシーホー
クホテルとかホークスも持ってたし、ローソンも持ってたわけです。今、最優良企業に
なっているはずなんですよ。それを叩き潰した。ダイエーはちょこっと赤字を出した時
期もあるんですけど、ずっと黒字基調だったんですよ。でもそういう事はほとんど伝わ
らなかった。
平成は幸せだったのか?
――失われた20年と言われ、長引くデフレという状況などもありますが、平成という時
代を見た時に、この時代は幸せな時代だったと思いますか?
これは国民にあまり痛みを感じさせずに大きな収奪をしたという意味では、富裕層はと
てつもなく幸せになったんですね。じゃあ、庶民がすごく不幸になったかというと、私
はそれを感じさせないうまいやり方をやったのかなっていう気はしますね。
――それはどういった意味でしょうか?
例えば日本以外の世界各国では、1%の富裕層が99パーセントから収奪してると言って
、あちこちでデモが起こったり、あるいは左派政党がどんどん台頭したりしている。で
も日本だけがリベラル政党がどんどん転落しているし、その富裕層を批判するデモなん
てほとんど起きてないですね。むしろ、消費増税とかで、どんどん庶民が生活は圧迫さ
れていっている状況が起きている。
なぜ、そんな事が起こったのかというと、日本の富裕層は隠れるのがうまいんだと思う
んですよ。つまり1億円以上の投資家の資産を持っている人が300万人もいる、これね
例えばクラスが40人だとすると、1人か2人はその富裕層の子どもがいるっていう勘定
になるんですね。だけど、みんな認識してないですよね。何でかというと、富裕層だけ
が暮らす地域に住んで、富裕層だけが行くレストランに行って、富裕層だけが行く商店
で買い物をする。だから接点がないんだと思うんです。
――多くの人たちから見ると、そんなに上がったという感じもしないし、そこまで下が
ったという感じもしない人たちが多いのではないかと思うんですが?
それは目を閉じているというか、かつての共産主義の国の人たちが自分たちの転落に気
づいていなかったのと同じ状況なんです。例えば最近、外国人観光客がどんどん増えて
、日本の人気が高まってるって言うんですけど、実は日本の所得が相対的にドーンと落
ちたおかげで、日本がとてつもなく格安で楽しめる国になっているから、今ものすごい
勢いで外国人が増えてるのが実態なんだと私思いますよ。
――そうすると、あまり幸せという実感もないようなこの30年だという感じでしょうか
?
ただこのままいくと、どんどん転落していく一方なんですね。この間、製造業の自給率
を計算したら今ちょうど100パーなんですよ。かつて、ものづくり大国だったのが、今
ギリギリ国内で自給できるところまで落ちてきているんですね。これがもっと落ちると
、例えば投機マネーが円安を仕掛けてきた時に、やられちゃう可能性が非常に高まって
いくんです。
ものづくりの基盤を持っていると、円安攻勢って不可能なんですよ。なぜかっていうと
、円安になると、日本が調子乗ってばんばん輸出しちゃうので、それはできないんです
けど、この自給率が100%を割っていくと、そういう攻撃もできていくので、長期的に
はもっと円安になって、日本経済がほぼ外資のものになって、外資の下でみんながヒィ
ヒィ言いながら、安い賃金で働くっていう国になりかねないんだと思います。
――森永さんご本人にとって、昭和も平成もご経験されていらっしゃるなかで、平成と
いうのは幸せでしたか?
私、世間の人からよく、お前こそハゲタカだって言われるんですね。リーマンショック
とか経済が悪くなると、仕事がぼんぼん増えるので、だから仕事はすごく多くなったの
は事実です。ただ、じゃあ自分が一生懸命言ったことの方向に世の中が動いたかってい
うと真逆に動いたし、大きな選挙ではほぼ私の嫌いな方がみんな勝ってきているんです
ね。
人工知能やロボットが変える社会
――森永さんはコレクターとしての側面もお持ちでいらっしゃいますが、ある種、そう
いう生き方をされている人も多くなってきたと。これまでとは違う軸の幸せみたいなの
を模索している人だったり、それを感じて生きてる人が増えてきたのかなと思います。
それが将来の日本を支える小さな芽なんだと私は思っているんですね。これから第4の
産業革命で、どんどん人工知能が進化していくと、雇用の半分、極論を言う人は9割を
人工知能やロボットが奪うんだと主張する人もいるんですけれども。私は仕事はなくな
らないんだと思うんです。それはかつて第1次、第2次、第3次の産業革命の時も同じ
事が言われて、別になくならなかったんです。
ただ、これから人間がやる仕事というのは、人工知能やロボットではできない仕事にな
らざるをえない。そんな中で、何をしたらいいのかっていうと、私はみんながアーティ
ストになる。アーティストって画家とか音楽家とかっていう狭い意味ではなくて、みず
からのその感性だとか、能力とかをうりにするクリエイティブな仕事、コミュニケーシ
ョンの中で働くような仕事っていうのを私はアート、それをする人はアーティストって
呼んでるんですけれども。
例えばコレクターというのは、今までは一流の印象派の絵画とかですね、中世の宗教画
とか、日本だと書画骨董みたいなの、そういうところだけにコレクターがいて、そうい
う人たちだけが評価されてきたんですけれども、私はそうじゃないんだと思っているん
ですね。
それを全否定するつもりは全然ないんですけれども、絵画展とかでルーベンス展とか行
ってステキねとかっていうんですけど、ホントわかったのかっていうふうに思うんです
。それよりも私がやっているのは、今60種類くらいやってるんですけれども、お菓子
の空き箱とかおまけだとかですね、ミニカーだとかフィギュアだとか、庶民の暮らしの
中に根づいた日本の文化を集めているんですね。
例えば明治時代まで浮世絵っていうのは何の価値も持たなかったんですよ。だから陶器
をヨーロッパに輸出する時の包み紙にして使っていて、それをヨーロッパの人たちが、
これいいじゃんと言ってポップアートとして高い評価を得たんですね。今、同じような
ことが根付で起こっていて、何十万円もしたり高いのになると1000万円台になっていた
りするんです。
それと私がやっているグリコのおまけとかは、種類としては同じだぞと思っているんで
すけど、今は誰も評価する人がいない。でも気付いてる人が何十人かいる。
まじめなアナウンサーはいらない
――次の時代がどんな時代になると思うか書いて頂けますか?
私はこれからの時代は、「1億総アーティストの時代」になると思っています。どうい
う事かというとですね、人工知能やロボットがどんどん発展していくと、嫌な仕事は全
部人工知能やロボットがやってくれる、定型的な仕事、つらい仕事、危険な仕事は全部
、人工知能やロボットがやってくれるわけです。これはもう想像以上に広い分野でそう
なっていく。
この間、川崎競馬場にトークイベントに呼ばれていたんですけど、何に驚いたかという
と、レース結果とか配当を次々に場内アナウンスで流しているんでが、すごい流ちょう
にしゃべるので、なんでこの人かまないんですかって言ったら、全部、人工知能ですっ
て言われて、まじめなアナウンサーがいらなくなるんですよ。ニュース原稿を正確に、
正しい発音で読む人はいらない。
むしろ問題を起こさないじゃなくて、なにかを起こす人っていうのは、人工知能では難
しいんですね。あらゆる分野でそういう事が起こってくる。お金のために働く必要がな
くなったら、つまり、人工知能やロボットが全部仕事をやってくれるようになったら、
何をしたいですかって、私のゼミの学生に聞いた事あるんですけれども、全員が言った
のは、歌手をやりたいとか役者をやりたいとか、画家になりたいとか、そういうクリエ
イティブな仕事をしたいと。
(中略)
私は人生をよく考えるべきだと思っています。3つしか人生のコースはないと思ってい
て、ハゲタカになるか、資本のしもべになるか、アーティストになるか。どこに自分の
幸せを見いだすかっていうのを、きちんと見極めて人生設計をするべきだと思います。
もちろん私はアーティストをお勧めするんですけれども、お金持ちになりたいんだった
らハゲタカになる事です、金に金を稼がせるって、ただ、私が見てきたハゲタカの皆さ
んていうのはいつも不安で目が泳いでいて怖くて怖くてしかたがないんですよ。なぜか
って言うとお金って持てば持つほど、失うのが怖くなるので、不安で不安で眠れなくな
って走り続けるしかなくなるんです。
一方、その資本のしもべになる。だから正社員として会社にしがみついて、どんなパワ
ハラを受けてもどんなセクハラを受けても歯を食いしばって頑張るぞってやるっていう
のも1つの手だと。ただ、それが本当に人間的なのかっていう事を考えると、私は答え
はアーティストしかないのかなと思っています。
(後略)
MLホームページ: https://www.freeml.com/uniting-peace