国民を議論可能な1割と操作可能な9割に分割する発想

国民を議論可能な1割と操作可能な9割に分割する発想

国民を議論可能な1割と操作可能な9割に分割する発想

セルゲイ・チャコティン『大衆の強奪=全体主義政治宣伝の心理学』

封印解いて学ぶ「危険な書物」

多思彩々「論をつなぐ」 京都大大学院教授 佐藤卓己

・・・
むしろ、もし反ファシズムであり続けようとする場合にこそ、
あの手口は学ばねばならないのではないか。
そう私が思うのは、いまセルゲイ・チャコティン『大衆の強奪=
全体主義政治宣伝の心理学』(12月刊行予定)を翻訳しているためである。

ファシズムの宣伝
・・・
ヒトラー政権が成立するとパリに逃れ、反ファシズム統一戦線の宣伝を組織し、
第2次世界大戦直前にその経験をまとめて同書を出版している。
原題「レイプ・オブ・マッセズ」はむしろ「大衆のレイプ」とストレートに
訳すべきかもしれない。

同書は、大衆の情動に訴えるヒトラー宣伝に対して、理性的な宣伝で立ちむかう
べきではなく、ファシズムの宣伝技術を反ファシズム運動の側も採用するべきだ、
と訴えている。

・・・
ヒトラーやムソリーニの打倒を呼びかけるチャコティンは、
同書を次の言葉で結んでいる。
「私たちは社会主義、人類愛、自由の偉大な神話に導かれ、
科学に基づいて行動しようではありませんか。
科学こそ、いつの日にか、この神話を現実に変える唯一の方法を提供する
ものなのである」

この科学的プロパガンダ研究は、戦時体制下のアメリカで
「マス・コミュニケーション研究」として制度化された。
その意味で、マス・コミュニケーション研究とナチ・プロパガンダ研究は
鏡像関係だった、といえる。

重視するシンボル

80年ぶりに私がよみがえらせようとしているのは、その歴史的事実を
象徴する書物である。
翻訳依頼が来たきっかけは、2017年に世界屈指の学術出版社、
英国のラウトレッジが「古典」として同書を復刊したためである。
その前年に発生したブレグジット(英国のEU離脱)の国民投票や
トランプ氏の米大統領当選という出来事の影響もあるのだろう。

民主主義のリアリストであるチャコティンは、選挙で過半数を獲得するためには、
人口の1割にしか影響力を持たない理屈よりも、その9割を動かすシンボルを
重視すべきだと訴えた。
つまり、ナチ党の成功因を鉤(かぎ)十字のシンボルによる条件反射の形成、
それを駆使したデモ行進の組織化に認めていた。
国民を議論可能な1割と操作可能な9割に分割する発想そのものが、
戦後は非民主主義的と見なされ、「危険な書物」として封印されてきたわけである。

だが、それは秘(ひそ)かに使われてきたのではないか。
たとえば、大平正芳内閣の外務大臣・大来佐武郎は『本の窓』(1985年5月号)
に「敗戦時の新鮮な衝撃ーセルゲイ・チャコティン『大衆は動く』と私」
を寄せている。
戦時下に大東亜省総務局調査課で物資動員計画を策定していた大来は、
たまたま東京・本郷の古本屋でこの書物に出合った。
「未曾有(みぞうう)の敗戦に打ちひしがる大衆をどのように導くべきなのか」
と思案しつつ購入し、新鮮な衝撃を受けたという。
池田勇人内閣で所得倍増計画を策定した、昭和を代表するエコノミストの原点、
それが『大衆の強奪』なのだ。
日本国民は「経済成長」というシンボルへの条件反射を持続してきた
というべきかもしれないのである。

(信濃毎日新聞 2019年6月23日)

MLホームページ: https://www.freeml.com/uniting-peace

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