主要20カ国・地域首脳会議G20サミット)で来日直前のトランプ米大統領から、日米同盟の根幹を揺るがしかねない発言が飛び込んできた。米ブルームバーグ通信は、同氏が日米安全保障条約の破棄に言及したと報じた。真意は定かではないが、同盟を軽視するこれまでの姿勢に沿うものだ。「日米関係は最強」と蜜月をアピールする安倍政権だが、衝撃と不安を隠しきれない。

 同通信によると、トランプ氏はごく近い人物との私的な会話で、日本が他国から攻撃を受けると米国が日本を守る義務があるのに、日本には米国を守る必要がないことに「一方的だ」と不満を漏らしたという。

 24日には、米国とイランの緊張が続く中東ホルムズ海峡について、日本や中国を名指しして「なぜ我々が他国のために無報酬で航路を守っているのか。自国の船舶を(自国で)守るべきだ」とツイッターで訴えた。

 同海峡付近では今月中旬、日本の海運会社が運航するタンカーなど2隻が攻撃され、トランプ氏は「イランがやった」と断定した。ところが、直接的な証拠を示せず、日本を含めて国際社会では支持が広がらない。日本を突き放す今回の発言の背景には、米国に追随しない姿勢に不満を募らせていた可能性もある。

 また、日米同盟の軽視発言については、政権の方針になる可能性は低いとみられるが、トランプ氏の本音である節がうかがわれる。

根底に「許せぬ思い」

 トランプ氏は前回大統領選で、日米同盟について「我々が攻撃を受けても日本は何もする必要がない。彼らは家でくつろぎ、ソニーのテレビを見ている」と繰り返し批判。日本が米軍の駐留経費を全額負担しなければ、米軍の撤退もありえると脅したこともある。

 根底には、米軍の外国駐留は公金の無駄遣いで、恩恵を受ける同盟国が米国との貿易で黒字を稼ぐのは許せないという思いがある。トランプ氏が1980年代の日米貿易摩擦の時から持ち続ける「日本観」だ。

 再選をめざす大統領選を来年に控え、通商問題での成果を有権者にアピールしたいが、日米交渉は遅々として進まない。先月の来日では安倍晋三首相から「接待外交」を受け、結論を出すのを参院選後に先送りした。だがG20での再来日を前に通商と安保を絡めて牽制(けんせい)することで、日本に譲歩を迫る思惑もありそうだ。(ワシントン=土佐茂生、渡辺丘)

政府は火消しに躍起

 トランプ氏がツイッターで、日本などを名指しして中東ホルムズ海峡を通過するタンカーは「自国で守るべきだ」と主張したことについて、菅義偉官房長官は25日午前、閣議後の記者会見で、「一つひとつのツイートにコメントすることは控える」と述べた。その上で、「中東地域における緊張の高まりを深刻に懸念している」などと語った。

 外務省幹部は「突然のツイートの意図がわからない」と困惑した。河野太郎外相は25日の記者会見で、トランプ氏のツイートについて「公式な発言ではないと受け取っている」との見方を示した。

 岩屋毅防衛相も25日の会見でトランプ氏のツイートについて「現時点でホルムズ海峡付近に部隊を派遣することは考えていない。引き続き、情報収集に万全を期し、情勢を注視したい」と述べた。防衛省幹部も自衛隊法に基づく「海上警備行動」を発令するような緊迫した情勢ではないとの認識を示した。ホルムズ海峡で日本のタンカーなど2隻が攻撃された事件をめぐっては、直後の14日に岩屋氏が会見で、日本の存立が脅かされるなど自衛権行使の新3要件には当たらないとの考えを示していた。

 米国は事件についてイランの関与を断定するが、日本は攻撃主体の特定を避けており、岩屋氏も25日の会見で、「主体がどこだったのかもまだ確定することができていない」と改めて話した。

 世耕弘成経済産業相も25日、「現時点でエネルギーの安定供給への影響は全くない」とし、「引き続き高い関心をもって情勢を注視する」と述べた。

 日本政府はこの日、トランプ氏が日米安全保障条約の破棄に言及したとのブルームバーグ通信の報道についても、火消しに追われた。日本時間25日午前に報道が出ると、複数の外務省幹部は「ありえない」などと一斉に否定した。

 日本側が報道に強く反発するのは、日米安保体制を日本の安全保障の根幹に位置づけてきたためだ。日米安保条約では、米軍の日本への駐留を認める代わりに、米国は日本防衛義務を負う。日本側に米国防衛義務はなく、米国側には「片務的だ」という指摘もあった。

 安倍政権は2015年、集団的自衛権の行使を限定的に容認する安全保障関連法を成立させ、日本の役割を拡大してきた。

 同通信の報道について、日本政府は外交ルートを通じて米側に事実関係を確認。同日午後、河野氏は会見で、米ホワイトハウスから「日米安保条約の破棄・見直しは全く考えておらず、米国政府の立場とも全く相いれない」と説明を受けたことを明らかにした。

 だが、米国の負担が大きすぎるとして、アジアや欧州の同盟国に負担増を求めるのは、トランプ氏の一貫した姿勢だ。

 来年にも日米間で始まる在日米軍の駐留経費の交渉では、米国が日本に負担増を求めるとみられており、日本側は警戒を強めている。(清宮涼、山下龍一)