年金支給額は増えたのか 三原じゅん子議員の演説をファクトチェック

年金支給額は増えたのか 三原じゅん子議員の演説をファクトチェック

参院本会議で安倍晋三首相の問責決議案への反対討論をする自民党の三原じゅん子氏=国会内で2019年6月24日、川田雅浩撮影

 こだわりたい。例の、三原じゅん子参院議員の「野党は愚か者」演説だ。参院選の争点でもある年金問題を巡り、気になる発言があった。「民主党政権の3年間、年金支給額は、何と引き下げられていた。安倍政権は全く違います」。これは本当か? 演説のハイライトをファクトチェックすると、妙なことになってきた。【吉井理記/統合デジタル取材センター】

話題の年金問題で「功績」を自賛

 問題の演説は6月24日、参院本会議でのこと。野党が出した安倍晋三首相の問責決議案に対し、三原氏が与党を代表し、反対の論陣を張ったのだ。

 聞かせどころは、話題の年金問題である。「野党の皆さん、国民にとって大切な年金を政争の具にしないでいただきたい」と切り出し、野党を攻撃しつつ、次のように安倍政権の「功績」を自賛した。

 「民主党政権のあの3年間、年金の支給額は、増えるどころか、何と引き下げられていたのです。自民党は全く違います。今年、年金支給額はプラスになりました」

 「年金積立金も、アベノミクスの効果によって44兆円の運用益が出たのであります。かたや民主党政権時代、年金積立金の運用益は10分の1」

厚生労働省が入る中央合同庁舎第5号館=東京・霞が関で2015年10月14日午前9時3分、竹内紀臣撮影

安倍政権で支給額は増えたのか

 事実を確認しよう。

 厚生労働省年金課によると、民主党政権が発足した2009年度の標準的な厚生年金受給世帯(夫が40年間勤め、妻が専業主婦の2人世帯が年金を受け取り始める時)の受給月額は23万2592円だったが、政権最後の年、12年度は23万940円。つまり3年間で1652円の引き下げである。平均して1年で約551円の減額だ。

 ならば「(民主党政権と)全く違います」と三原氏が胸を張った安倍政権はどうか。23万940円の受給額が、現在はいくらに増えたのか?

 増えるどころか、何と22万1504円(19年度)にまで引き下げられているのである。マイナス9436円、1年平均で1348円の減額は、民主党政権時の倍である。三原氏の言う通り、今年度は4年ぶりに月額227円のプラスになったが、「全く違います」は全く違う。

西川伸一・明治大教授=2019年5月22日、山根浩二撮影

与党議員が事実を誤認させる発言

 「何が『安倍政権は全く違う』ですか。ウソですよ。『自民党政権になって、民主党政権より年金支給額が引き上げられた』としか読めない文脈じゃないですか」と怒り心頭なのが、政治学が専門の明治大教授、西川伸一さんである。

 「政治は事実を基に論じられなければならない。当然です。数字は、事実の最たるもので、厳格に扱わねばなりません。なのに国会議員が、それも政権与党の議員が、国政の場で、国民に向かって、事実を誤認させることを言う。国民には正しい事実を知らせなくてもよい、どうせ国民は分からないだろう、ということでしょうか」

民主党政権の運用益は「10分の1」?

 もう一つ「安倍政権の年金積立金の運用益は44兆円、民主党政権はこの10分の1」はどうか。安倍首相も6月19日の党首討論で、同じことを言っていた。

 厚労省と年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は毎年度、3カ月(四半期)ごとの年金積立金の運用実績を公表している。インターネット上でだれでも見られる。読者も電卓片手に計算していただきたい。おかしなことに気付くだろう。

 民主党政権発足直後の09年10月から、政権が終わった12年12月(12年度第3四半期)の運用益は、約9兆円である。これに対し、安倍政権発足直後の13年1月(12年度第4四半期)から最新の18年12月(18年第3四半期)までの運用益は約39兆円である。三原氏や首相が言う「44兆円」「10分の1」と違うのだ。

驚くべき「計算式」

 どういうことか? 厚労省資金運用課は、驚くべき「計算式」を披露した。

 それによると、安倍政権が発足したのは12年12月26日、つまり12年10~12月の第3四半期のぎりぎり範囲内だ。この時期「12年秋にはすでに政権交代の兆しがあり、株価が好転していた」(14年10月3日、衆院予算委での安倍首相の答弁)から、この四半期の運用益約5兆円は、すべて安倍政権の功績として「総取り」する。つまり39兆円プラス5兆円で44兆円である、と。

 逆に、民主党政権時代の運用益からは、5兆円を取り上げ、約4兆円に減らす。だから10分の1になるのだ、という「論理」である。

 企業に置き換えて考えてみよう。ある会社の営業部。営業成績は良かったが、部長が年度末まで数日という時にAさんからBさんに交代した。交代は以前から部内でうわさされていた。ゆえに、この年度の営業部の成績は、すべてBさんの功績である――。

 これにうなずける人がどれだけいるかは疑問だが、同課の石川賢司課長は「あくまで総理の答弁をもとにして計算したら数字はこうなる、という見方であって、厚労省の見解ではありませんので……」と苦しげである。

「大人としてどうなのか」

 民主党政権と違ってリーマン・ショックの後遺症や、東日本大震災というマイナス要因がなかったにせよ、安倍政権の運用益が多いのは事実である。わざわざこんな「計算」を施してまで、数字を大きく見せる必要があるのか。この演説について、三原氏の事務所に問うたが「(三原氏の)日程が詰まっていて取材に応じる時間がない」とのことだった。

 西川さんは「政治家に国政の場で、あれだけ堂々と数字を出されると、つい『ああそうなのか』と思いがちですが、事実を軽視した言説はプロパガンダに過ぎません。あれだけ民主党政権を批判して、都合の良い部分だけは『自分のもの』にするのも、何だか国民の範たる政治家として、いや大人としてどうなのか」とため息が止まらない。

 確かに勤務先などで、そんな上司や同僚がいたらイヤだろう。

 「今や権力者の発言は一つ一つ、国民が事実確認をしなければならない時代なのでしょうが、国民にそんなヒマはありません。メディアも確認すべきことが多すぎて、追いつかないかも。そこを分かって、発言しているのかもしれませんが」

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