参院選 改憲「自衛隊明記」は争点ぼかし 木村草太氏インタビュー
21日投開票の参院選で主要争点の一つになるのが憲法改正だ。自民党が主張する「自衛隊明記」や「緊急事態条項」の是非は。改憲の実現性は。選挙戦を通じて議論は深まるのか。識者に聞いた。
木村草太・首都大学東京教授
自民党は参院選の公約で自衛隊明記など憲法改正の4項目を示したが、新しい論点はなく、2017年の衆院選公約ともほとんど変わらない。一方、重要なのは他党の提案を受け入れたり協力したりする姿勢が全く示されていないという点だ。
例えば、日本維新の会が示す「憲法裁判所の設置」や「道州制の実現」、立憲民主党が言う「衆院解散権の制約」「少数議員から要求があった時の国会召集の期間の限定」といった問題に取り組む様子はうかがえない。
安倍晋三首相はよく「野党は協力してくれない」と言うが、自民党も他党の改憲提案に協力する気はないのだろう。
自衛隊明記が何を意味するか。単純に専守防衛の自衛隊を明記するというものではなく、安全保障法制で容認された集団的自衛権の行使を追認するということだ。
日本が武力攻撃を直接受けていない場合での武力行使を一定の条件下で認める安保法制は、従来の9条解釈と矛盾しており、違憲の疑いが強い。海外での武力行使が拡張される可能性があり、国民の抵抗感も大きい。
集団的自衛権が争点になれば選挙に不利に働き、改憲も進まなくなる――。自民党はそう考え、争点をぼかすために「自衛隊明記」とだけ記しているのではないか。だが「これは憲法に集団的自衛権の行使を明記するものだ」とはっきり説明しなければ国民をだますことになる。
首相は争点をごまかしたり、説明をあいまいにしたりする戦略をとり続けている。「改憲には本当はどんな意味があるのかを適切、明確に説明せよ」と国民が声を上げることが大事だ。そして、きちんと説明できない提案には反対すべきだ。
一方で、争点を隠しても国民は直感でその意味を理解できる。だから、自衛隊明記の議論には世論が乗ってこないのだ。選挙の結果、仮に改憲勢力が3分の2に達しても国民投票がある。改憲はそう簡単にはいかないはずだ。
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きむら・そうた 1980年横浜市生まれ。憲法学者。東大卒。東大助手などを経て現職。著書に「自衛隊と憲法」「憲法の急所」など。(共同)