「鵺みたいな存在」神津連合会長が指摘する自民党の巧妙さ

「鵺みたいな存在」神津連合会長が指摘する自民党の巧妙さ

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連合会長の神津里季生氏(C)日刊ゲンダイ
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 参院選が4日公示された。支援してきた民主党(民進党)が立憲民主党と国民民主党の2つに分かれ、選挙においても難しい対応を余儀なくされている労働組合の連合だが、安倍政権と対峙する姿勢は変わらない。政権の問題点、必要な政策、野党への注文などを、この機会に神津里季生会長に聞いた。

◇  ◇  ◇

 ――参院選は安倍政権への審判ということになります。政権への評価を。

「1強政治の弊害、ここに極まれり」ということだと思います。数の力をかさに着て、真実が覆い隠されてきた。森友・加計問題に始まり、防衛省の日報隠蔽、官僚の公文書改ざんと、歯止めがかからない。直近の「老後資金2000万円不足」問題は象徴的です。金融庁の審議会の報告書自体おかしなものではなく、むしろしっかり議論して政策に反映させるべき要素がたくさんあるのに、都合が悪いから全部隠して、なかったことにしてしまった。いずれ、有権者は忘れるだろうと思っているのでしょう。

 ――1強政治の弊害。やりたい放題です。

合意形成を軽んじることも問題です。大事な法案は、与党と野党でしっかり審議して、一部修正してでも合意形成を図るというのが本来の政治の姿だと思います。自分だけが正しい、という政治がまかり通ってしまった結果、有権者が政治に距離を置くようになった。これも極めて憂慮すべき事態だと思います。

 ――政治への関心の低下も1強政治の弊害だと?

有権者が政治に愛想を尽かしてしまった。このままでは投票所に足を運ばない人がまた増えてしまう。政権はそれでも構わないという姿勢ですから、悪循環に陥っています。

 ――神津会長は「政労使会議」や「働き方改革実現会議」のメンバーです。安倍政権の政策決定の議論の場に参加して感じたことは?

 自民党って「鵺(ぬえ)」みたいな存在ですよ。「高度プロフェッショナル制度」のように我々の主張と正反対のことを導入しようとしながら、一方で「長時間労働の是正」や「同一労働同一賃金」のような我々が長年主張してきたことに日の目を当てる。

選挙後のどこかの時点で「解雇の金銭解決」も議題になるでしょう。かたや「同一労働同一賃金」と言いながら、お金さえ積めばクビにできる制度を取り入れようとしているんです。鵺的なやり方です。

 ――安倍政権は「やってる感」「やってるふり」と言われます。つまり本気で解決策を見いだそうとは思っていない。

最近注目されている「最低賃金」の話も、まさにそうです。自民党内には最低賃金をどんどん上げていこうという議連までできたものの、それが自民党や官邸のコンセンサスかといえば違う。

 経営者団体からは、中小企業が潰れてしまうから、どんどん上げていくことはできないという意見も出ています。結果、安倍政権は上手に「両方の声を聞いています」という形をつくっているのです。それでは一体どうするの、ということは曖昧なまま、選挙戦に入るわけです。非常に巧妙だし、ズルいという感じがします。

 ―――安倍首相はよく「最低賃金を上げました」とアピールしますが、実態は違うと。

見せ方が上手なだけです。実際は最低賃金をただ上げるだけでなく、雇用のセーフティーネットをしっかり張ることも同時に議論しなければ意味がありません。

最低賃金ギリギリで「自分たちの生活はどうなるんだろう」「この会社に勤めていられるのだろうか」という不安を持ったまま生きるのではなく、仮に会社が潰れたとしても、雇用が保障されて、より生産性の高い会社に吸収され、やりがいのある仕事ができる方が幸せなんです。会社が潰れたからクビ、というのは困るわけで、そこを担保する、雇用のセーフティーネットの仕組みをつくることこそ政府の出番なのですが、日本はそれが非常に弱い。

 ――参院選では年金など社会保障も争点になりそうです。

税の負担構造をどう変えるのか。こういう、国にとって大きなテーマでも論争して欲しいのですが、与野党ともにビジョンを示しているかというと疑問です。税の話をするのはみんな嫌かもしれないけれど、政治家の勇気というのは、本来、そこに踏み込むべきなのです。

今度消費税が10%になったとして、それでなんとかなると思っている有権者は少ない。消費税だけでいいのかという問題もある。法人税を下げてきたが、一体それでよかったのか。所得税も累進度がずいぶん低くなった。資産課税や金融取引税は国際標準で見てどうなのか。人口減少の中、この国をどうやって支えていくのか、税制全般にわたって踏み込まなければいけない。

中央が神津連合会長(C)共同通信社
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民主党政権には理念と政策があった

 ――国の形をどうしていくのか、野党もきちんと示せていない?

目先の人気取りに終始する政権と対抗するのは非常に難しい。でもだからこそ、一体改革の政策を示して欲しいし、かつての民主党政権にはその良さがあった。いくら安倍首相に「悪夢」と言われようが、民主党政権には包摂というか、「誰一人取り残さない」という理念と政策があった。それは非常に大事なことで、自信を持ち続けて欲しい。

民主党政権がダメだったのは理念や政策ではなく、バラバラだったからなのです。有権者にすれば、ちょっといいかげんだと思っても、まとまっている方に任せるしかない。バラバラでは有権者の信任を得られません。今の野党にその反省が生かされているのかどうか。私たちが歯がゆく思っているところです。

 ――旧民主が立憲民主党と国民民主党に分かれた現状は、有権者にとって野党のバラバラ感を強める結果になっています。

 本来なら連立政権に向けての問題意識を共有しなきゃいけない。参議院選挙といえども、2つの党がバッティングしていて、果たして戦いになるのかどうかを有権者は見ていると思います。それで投票所に足を運ばなくなれば、1強政権はシメシメです。ですから有権者に、野党が力を合わせていると思ってもらえるかどうかは、とても重要。

選挙結果を左右する。その時に、野党第1党の立憲民主の枝野代表がどこまで懐を深く持っているのかどうか。一時期に比べれば変わってきました。参院選の32の1人区で候補者を一本化できた。とはいえ、かつて「立憲民主をまず強くする、そのことが全てだ」という感じでやってきていましたので、その残像は強い。我が党ありきではいけないと思います。

 ――野党が戦う相手は政権与党のはずです。

そうなんです。ところが立憲民主と国民民主の違い、連合との違いばかりを目立たせてしまっている。例えばエネルギー政策では、野党も連合も基本は同じ「原子力依存からの脱却」です。一方で、政権与党は「原子力を使い続ける」と言っているわけですよ。その割には「新規増設」については曖昧な状態で、都合の悪いことは明確にしない。これも鵺ですよね。いずれにしても、原子力からの脱却にはなっていないので、本来、野党内の小さな違いよりも、政権与党との大きな違いこそ目立たせるべきなのです。そのためにも、野党が大同団結することの意味は大きい。

 ――野党がまとまって戦っている姿を見せなければ、有権者も動かない。

そういう空気になるかならないかで、10議席くらい簡単に変動するのではないでしょうか。1人区では前回野党が11議席でしたが、前々回は2議席しか取れなかった。これくらい幅が出る。もちろん11では少ないのですが、戦いになっていると有権者が思ってくれれば、1人区はオセロゲームですから、11どころではなくひっくり返る。もっと取れる。野党にはその可能性を引き出してもらいたいですね。

 ――鵺のような政治には負けられない。

増長しているのは競争至上主義であり、新自由主義、自己責任論です。そしてもうひとつの側面は、「四の五の言わずについてきなさい」という国家主義的な考え方です。私たちはそういう価値観とは真っ向対立しますし、相いれません。

(聞き手=小塚かおる/日刊ゲンダイ)

▽こうづ・りきお 1956年東京都生まれ。79年東大教養学部卒後、新日鉄(現・日本製鉄)入社。鉄鋼労連本部員在任中の90年4月から3年間、在タイ大使館派遣。98年新日鉄労連書記長、2002年同会長。06年基幹労連事務局長、10年同中央執行委員長。13年連合事務局長、15年から現職。近著に「神津式 労働問題のレッスン」(毎日新聞出版)。

 

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